2021年2月10日

『私とは何か 「個人」から「分人」へ』 平野啓一郎・著 vol.5693

【Clubhouse時代の必読書】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062881721

本日ご紹介する一冊は、芥川賞作家であり、最近『マチネの終わりに』がベストセラーになった、平野啓一郎さんによる、人間関係の指南書。

※参考:『マチネの終わりに』 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4167912902/

1歳で父親を亡くし、自身アイデンティティの問題で苦しんできたという著者が、現代人のアイデンティティの問題に正面から切り込んだ、注目の論考です。

著者は、最近話題となる「本当の自分」という考え方に対し、こう反対意見を述べています。

<すべての間違いの元は、唯一無二の「本当の自分」という神話である。そこで、こう考えてみよう。たった一つの「本当の自分」など存在しない。裏返して言うならば、対人関係ごとに見せる複数の顔が、すべて「本当の自分」である>

著者は、この「本当の自分」の代わりに、「分人」というコンセプトを掲げ、こう説明しています。

<分人とは、対人関係ごとの様々な自分のことである。恋人との分人、両親との分人、職場での分人、趣味の仲間との分人、……それらは、必ずしも同じではない>

Clubhouseで複数の集団と溶け込める人とそうでない人の違いは何なのか、メディアが発達した現在、なぜこの「分人」というコンセプトを用いると、人生が楽になるのか。

本書には、そのすべての答えが書かれています。

職場選び、(仕事・プライベート両方での)パートナー選び、すべてに役立つ視点が書かれており、まさに今、読むべき一冊だと感じました。

さっそく、本文の中から、気になった部分を赤ペンチェックしてみましょう。

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「分人」という造語について、別に、従来のキャラとか仮面といった言葉で十分なんじゃないかという指摘を何度か受けた。しかし、キャラを演じる、仮面をかぶる、という発想は、どうしても、「本当の自分」が、表面的に仮の人格を纏ったり、操作したりしているというイメージになる。問題は、その二重性であり、価値の序列である

「本当はメタルマニア」で、ジャズやクラシックが好きな私は、「ウソの姿」だと言われると、妙な感じがする。私が一番詳しい音楽家は、小説の主人公にもしたショパンだし、一番拘って聴き続けているのはマイルス・デイヴィスだ。彼とメタル談義で盛り上がったのは、それが共通の話題だったからである

人間には、いくつもの顔がある。──私たちは、このことをまず肯定しよう。相手次第で、自然と様々な自分になる。それは少しも後ろめたいことではない。どこに行ってもオレはオレでは、面倒臭がられるだけで、コミュニケーションは成立しない

分人はすべて、「本当の自分」である

私は森鴎外が大好きだが、彼は「仕事」を必ず「為事」と書く。「仕える事」ではなく、「為る事」と書くのである。私はこの発想を気に入っていた。人間は、一生の間に様々な「事を為る」(中略)職業というのは、何であれ、その色々な「為る事」の一つに過ぎない

私たちには、生きていく上での足場が必要である。その足場を、対人関係の中で、現に生じている複数の人格に置いてみよう

何度会っても、必要最小限の仕事の話しかせず、その先の関係にはお互いに足を踏み入れられない(踏み入れる気もない)人もいる。その人は私に対して、分人をカスタマイズする気がなく、私の方でもないということだ。分人化の失敗である

誰に対しても、首尾一貫した自分でいようとすると、ひたすら愛想の良い、没個性的な、当たり障りのない自分でいるしかない。まさしく八方美人だ。しかし、対人関係ごとに思いきって分人化できるなら、私たちは、一度の人生で、複数のエッジの利いた自分を生きることができる

誰かといる時の分人が好き、という考え方は、必ず一度、他者を経由している。自分を愛するためには、他者の存在が不可欠だという、その逆接こそが、分人主義の自己肯定の最も重要な点である

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今、話題のClubhouseでモデレーターとして活躍している人は、この「分人」を作るのが上手い人、と言えるでしょう。

まさに今、求められている一冊です。

組織にアイデンティティを委ねる時代が終わり、「本当の自分とは何か」「何がやりたいのか」が見えずに苦しんでいる人も多いと思います。

本書で提示されている「分人」という考え方は、進路やパートナー選び、SNSでどう自己表現するかのヒントとなる、画期的コンセプトだと思います。

これはぜひ、読んでみてください。

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『私とは何か 「個人」から「分人」へ』
平野啓一郎・著 講談社

<Amazon.co.jpで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062881721

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◆目次◆

第1章 「本当の自分」はどこにあるか
第2章 分人とは何か
第3章 自分と他者を見つめ直す
第4章 愛すること・死ぬこと
第5章 分断を超えて

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