【ジャック・アタリが書く、食の歴史と食品ビジネス、人類のこれから】
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本日ご紹介する一冊は、ミッテラン大統領の顧問、欧州復興開発銀行の初代総裁などの要職を務めた論客、ジャック・アタリ氏が人類の食の歴史をまとめた一冊。
さまよい歩きながら食べていた類人猿の時代の食事から、定住して作物を栽培し始めた時代の食事、饗宴が流行った時代の食事、食が工業化された現代の食事までの壮大な歴史をまとめ上げた労作で、今、食の領域にどんな危機とチャンスがあるのか、教えてくれる貴重な資料です。
読者の意識が高ければ、歴史上消えていった食材や食文化の復活、最新テクノロジーを使った食品開発、アプリ開発など、さまざまなビジネスチャンスが見えてくる、そんな内容です。
また、時代が変わるにつれて、食習慣や食を取り巻く文化がどう変わってきたかも論じており、問題となっている孤食や肥満、食の安全、環境問題といったトピックも扱っています。
社会問題としての食に興味のある人も、必読の内容と言っていいでしょう。
本書の後半で著者が描き出す食の未来像は、ビジネス的に、かなりのインパクトをもたらすと思います。
粉末食や昆虫食、食べ物の履歴を追うブロックチェーン、食べ物を決まった時間、決まった場所で食べなくなる未来などには、ビジネス界も対応せざるを得ないと思います。
さっそく、本文のなかから、いくつかポイントをチェックして行きましょう。
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食卓ですごす時間は減った。工場だけでなく家庭でも食事にかける時間は削減された。アメリカ社会は孤立した個人が並列して存在する構造になり、アメリカ人は独りで食べるか、職場の見知らぬ人と食事をするようになった。個人の家から食堂が姿を消し、代わりに「リビングルーム」が登場した。食堂がなくなったことでアメリカ人の生産性は向上した
食の製造イノベーションにより、食品は安くなった。次に、自動車の価格も下がった。自動車は、食品を削減できたおかげで中産階級の購入意欲がかき立てられた最初の消費財だった
世界の豚肉の年間消費量はおよそ一億二〇〇〇万トンであり、そのうちの半数は中国で消費される。豚の九九%は、生後直後から出荷ハ週間前まで抗生物質を投与される。したがって、ほとんどの豚肉には抗生物質が残留していることになる
人間は新たな植物を食するようになるだろう。三万種ある食用植物のうち、現在、大規模に栽培されているのはわずか三〇種類なのだ
再登場が予想されるもう一つの食物として、フォニオが挙げられる。フォニオは数千年前から西アフリカで栽培されている雑穀だ。栽培は二〇世紀後半に消滅寸前だった。というのは、素手で脱穀すると怪我をする恐れがあるからだ。しかしながら、二〇〇〇年初頭に脱穀作業が機械化されると、フォニオの栽培は復活した。生産量は、二〇〇七年の三七万三〇〇〇トンから二〇一六年の六七万三〇〇〇トンへと増加した。とはいえ、フォニオの栽培地域はまだ限定的だ
フランスのフィードというブランドは、ボトルに水あるいはお湯を注いで振るだけで出来上がる粉末状の飲み物を商品化した(中略)これらの飲料は、遺伝子組み換え作物一切使用せず、ラクトース(乳糖)とグルテンを含まない完全菜食食品である
西洋諸国では、昆虫食の市場は、最初に動物の飼料向け、次にスポーツ選手のタンパク質補給向けとして発展するだろう
二一世紀という時代は、ヒトと動物の間の区別も減らしていくだろう。少なくとも原則上、人間の民族間の障壁が減り、やがては取り払われたのと同じように。残虐な扱いをする食肉処理場や家畜施設は次第に姿を消すだろう
人々は決まった時間や場所で食べなくなり、これまで以上に早食いするようになるだろう。仕事中、観劇中、乗り物での移動中、(まだ歩く習慣があれば)歩行中に食べるのだ。食べ物をちびりちびりとかじる習慣は、ますます顕著になりそうだ
これまで以上に多くの人々が、不健康な食生活や、会食する機会が失われたことで陥る孤独から命を落とすに違いない。これと同時に、人類全体は過食で死に絶えるだろう
大企業に種子を独占させない
二〇一六年、WHOは、肥満を撲滅するために世界中で甘味飲料に少なくとも二〇%課税すべきだと訴えた。一部の国は、こうした方針を掲げて糖分を控える運動を開始した。一般的には、食品業界からの政治的な圧力のため、強制的な手法はとっていない
アメリカには、およそ二〇〇万回ダウンロードされた「シーフード・ウォッチ」というスマートフォン用アプリケーションがある。このアプリケーションを利用すれば地域漁業の持続的な発展を支援できる。つまり、海産物を購入する際、消費者は自身の選択が、「最良」、「許容できる」、「避けるべき」なのかを知ることができるのだ
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歯に衣着せぬ物言いで、大手食品会社を実名を挙げながら批判するあたりは、さすがです。
値段が高いのと、食品ビジネスのタブーに切り込んでいるので、マスコミが大きく取り上げることはないでしょうが、BBM読者のみなさんはぜひ「買い」でお願いします。
著者がフランス人であるため、フランスびいきの傾向があるのはご愛嬌ですが、ここで示された未来、未来の食ビジネスの可能性は、ビジネスパーソンなら押さえておきたいところです。
家まわりのビジネスに携わる方、食品・飲料ビジネスに関わる方、薬剤師や料理研究家などは、教養として必読の一冊。
健全な人間社会の実現を考える上で、また、未来の食品ビジネスを考える上でも、ぜひ読んで議論のネタにしていただきたい一冊です。
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『食の歴史』ジャック・アタリ・著 プレジデント社
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◆目次◆
はじめに
第一章 さまよい歩きながら暮らす
第二章 自然を食らうために自然を手なずける
第三章 ヨーロッパの食文化の誕生と栄光
(一世紀から一七世紀中ごろまで)
第四章 フランスの食の栄光と飢饉
(一七世紀中ごろから一八世紀まで)
第五章 超高級ホテルの美食術と加工食品(一九世紀)
第六章 食産業を支える栄養学(二〇世紀)
第七章 富裕層、貧困層、世界の飢餓(現在)
第八章 昆虫、ロボット、人間(三〇年後の世界)
第九章 監視された沈黙のなかでの個食
第十章 食べることは重要なのか
付属文書 食の科学的な基礎知識
謝辞
訳者あとがき
原注
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