【不安定な時代を生きるための新思想】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4334951295
本日ご紹介する一冊は、テクノロジーに詳しいジャーナリストで、多数のベストセラーを持つ佐々木俊尚さんが、執筆に5年かけたという大作。
「目的もゴールもない現代に、人間はどう生きていくべきか」とオビに書かれているように、現代を生きるわれわれに、生き方のヒントを与えてくれる論考です。
とはいっても、いわゆる自己啓発書とは違う。
著者は、現代のわれわれを取り巻くテクノロジーと、テクノロジーがわれわれの世界や認識をどう変えてしまったのか、その本質に切り込んでいるのです。
われわれを支配している「過去→現在→未来」という時間の捉え方や、「因果の物語」「自由礼賛」に対して待ったをかけ、これからの社会で必要となる新しい認識や感覚について述べています。
「確率の物語」「べきの物語」、さらには登場してきたばかりの「機械の物語」…。
21世紀に生きるわれわれには、どうやらこれまでと違った世界の捉え方が必要になるようです。
行き詰まった現代人に、新たな世界の捉え方、生き方のヒントを与える内容。
これは、読まない手はありません。
さっそく、内容のポイントをチェックしてみましょう。
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過去が、色あせなくなった。しかし過去は、つねに改変される可能性がある。そして私たちは、そんな過去に郷愁を感じなくなっていく。それどころか、過去は押し付けがましくなり、忘れることさえできなくなっている
私たちは、音や映像の粗さや摩耗によって、過去を過去として認識してきました(中略)このような摩耗への文化感覚は、過渡期のものでしかなく、いずれ消え去るでしょう
この新しい世界の中で、私たちは過去の記録を「真正かもしれないし、改変されているかもしれない」という不確かな眼で向き合わざるを得なくなる。過去が決して確かなものではなくなっていくのです
細かい部分を忘れてしまうからこそ、抽象化できる。つまり高度な思考のためには、忘れることが必要なのです
「確率の物語」に因果はない
摂動が大きな影響を与えるカオスの世界では、単純な因果関係は成り立ちません。Aというできごとが起きたから、Bという結果が生じるというのが「因果の物語」の決まりごとですが、Aというできごとにそもそも微弱な摂動が含まれているので、摂動が結果を大きく左右してしまうのです
安定した状態が持続するなどということはまぼろしでしかなくて、つねに安定と臨界、崩壊の間をふらふらと揺れ動いているのが、自然の姿です
人間が見つけられない重みや要素をAIが特定できるようになった
Hはどのような結論を出したのでしょうか。それは驚くべきものでした。店内のある特定の場所に、スタッフが「いる」ようにせよ、という計算結果だったのです。研究チームはここを「高感度スポット」と呼びましたが、このスポットにスタッフが十秒の間滞在時間を増やすごとに、そのとき店内にいるお客さんの購買金額が平均百四十五円も向上している、ということをHは計算結果として示したのです
「機械の物語」は、人間には見つけられないような隠された世界の論理を見つけ出してくれる
ゼロUIの考え方を拡張すると、そもそも人間が指示しなくてもすむというところにまで進むことができるでしょう
このような環境知能の進化が続いていけば、それは必然的に一つの世界観へと行きついていかざるを得ません。それは、人間が面倒な選択をしないですむ世界です
長期的な目的をもつことではなく、善き相互作用がその瞬間その瞬間に続けられていくことによって、私たちの人生は善く持続していくのです。そこで語られる物語は、もはや「因果の物語」ではなく、「確率の物語」「べきの物語」「機械の物語」と融合していくことによって、新たな物語へと昇華していくのだと思います
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「因果の物語」から解き放たれて、「共時の物語」が始まる。
著者は、最後に第六章の終わりにこう述べています。
<時系列の感覚は薄れ、テクノロジーによって摩擦・空間・遍在の感覚がさらに深化する。古い神話やユングのシンクロニシティの先に再び「共時の物語」が復活し、私たちの前に現れてくるでしょう>
読者がUI、UXを探求するエンジニアであれ、新しい家族の在り方を模索する個人であれ、本書は必読の一冊です。
ぜひ読んでみてください。
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『時間とテクノロジー』佐々木俊尚・著 光文社
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◆目次◆
プロローグ 未来は希望か 絶望か
第一章 鮮明な過去はつねに改変され、郷愁は消える
第二章 過去は「物語」をつくってきた
第三章 「因果の物語」から「機械の物語」へ
第四章 「自由」という未来の終焉
第五章 摩擦・空間・偏在のテクノロジー
第六章 新しい人間哲学の時代に
エピローグ ひっそりと、ともに歩く
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