2019年3月20日

『直観の経営』野中郁次郎、山口一郎・著 vol.5239

【これは新しい経営論。】
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大学受験の入試小論文のテーマは、「科学的知の限界」でした。

にもかかわらず、あの課題が出された1993年からしばらくの間、日本企業では欧米式の分析主義的な経営手法が次々採用され、今日にいたるまで、たくさんの傷跡を残しています。

本日ご紹介する一冊は、共感の哲学「現象学」を専門とする東洋大学名誉教授の山口一郎氏と、『知識創造企業』などの名著で知られる世界的経営学者、野中郁次郎氏との異色のコラボです。

※参考:『知識創造企業』
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野中氏は本書の「はじめに」で、こんなことを書いています。

<従来の経営理論が「人間の能力についてのペシミズムの上に成立して」おり、「結果的には人間の自由と自律性を奪ってきたのではないか」>

われわれは本来、他者と共同作業をすることで知識創造をするわけで、そのために組織も存在するのだと思いますが、現在はこのペシミズムと極度の個人化によって、そのプロセスがうまく機能していません。

著者は、前述の『知識創造企業』で、組織的知識創造のプロセスを説明するSECIモデル(共同化、表出化、連結化、内面化)を紹介していますが、このSECIモデルの理解と説明をさらに豊かにしてくれたのが、本書で取り上げる哲学の一主流派である「現象学」なのだそうです。

骨太な本ではありますが、読めば、われわれが経営や創造プロセスにおいて失ってきたものがわかり、反省させられます。

測ったり、分析するだけでは得られない創造のヒントとエネルギーが感じ取れる、そんな内容に仕上がっています。

さっそく、ポイントをチェックしてみましょう。

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現象学がユニークなところは、この「客観」と「主観」、アートとサイエンスに分かれる以前に、人はどんな世界を生きているのか、ということを徹底的に考え抜いたところ

数量で計測する物理量の世界に見出すことのできない経験の「意味と価値」についてこそ、現象学の考察が開始されます。現象学は、複数の人々のあいだに共有される言葉の意味と表現された価値が、どのようにして言葉として通用するようになり、そこでどう共通の価値観が形成されるようになるのか、その意味と価値の生成する源泉に遡ろうとするのです

すべてにわたって創造的活動の飛躍の瞬間は、無意識を通じて生じるといえるかもしれませんが、その瞬間が実現するためには、それ以前に重ねられる、目標を定めた意識的努力や集中した練習が必要不可欠になる

以下、野中氏

アブダクションは事実の察知から始まりますが、そのためには何よりも目的意識が必要です。自らの信念や思いに基づいて焦点を決め、細目を観察してそれらを総合することにより、仮説が生まれます。この目的意識の有無こそが、アブダクションが他の地の創造と異なる点だと言えます

この未来予持に宗一郎は長けていました。あるクルマのプロジェクトリーダーが、ラジオのスイッチを入れるとアンテナが自動的に伸びてくる特別な仕掛けを装着しました。そのリーダーが誇らしげに、見学に来た宗一郎にそれを操作してみせると、喜ぶと思いきや、なんとアンテナが伸びた瞬間、それを手でもぎ取ってしまい、烈火のごとく怒り出しました。「これ、歩道側についてるんだろう。停車中に脇を通りかかった子供の目を突いて怪我をさせたらどうすんだ」

直観を駆使して身体で物事を考え、跳んだ仮説の形成に長けた宗一郎は、何よりも実践を尊んだ人でもありました。彼はこんな言葉を遺しています。「人生は見たり、聞いたり、試したりの三つの知恵でまとまっているが、その中で一番大切なのは試したりであると思う。ところが、世の中の技術屋というもの、見たり、聞いたりが多くて試したりがほとんどない」

人間は一つの存在、beingです。しかし「私」が他者と対話し、何らかの新しい知を生成すれば、「私」は三十分前の「私」とは変化しているはずです。つまりプロセスでとらえるならば、人間はbeingというよりbecomingなのです。「在る」から「成る」へ、人間は知を創造しつつ「成る」のです

アリストテレスのフロネシスの考え方をベースに、古今東西、多くの優れた政治家や企業リーダー、軍人などの事例をつぶさに考察したところ、実践知のリーダーは、六つの能力を備えていることがわかってきました。
(1)「善い」目的をつくる能力
(2)ありのままの現実を直観する能力
(3)場をタイムリーにつくる能力
(4)直観の本質を物語る能力
(5)物語を実現する政治力
(6)実践知を組織化する能力

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前半では山口一郎氏が現象学の基本をビジネスパーソンにわかりやすく解説し、後半では野中郁次郎氏が経営に寄せて解説し、事例も加えるという構成になっており、ホンダの「ホンダジェット」やポーラの「リンクルショット」、前川製作所の「トリダス」の開発事例が紹介されています。

われわれが仕事をしているのは、本来もっと「真善美」に迫る崇高な目的があったり、「ワクワクしたいから」のはずですが、現状の経営では、それが実現できている企業はわずかです。

本書で示された「共感の哲学」がわかれば、きっと本来あるべき姿に、経営も組織も変わっていくのではないでしょうか。

経営者、クリエイティブ、商品開発に携わる人は、特にヒントが得られる一冊だと思います。

これはぜひ、読んでみてください。

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『直観の経営』野中郁次郎、山口一郎・著 KADOKAWA

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◆目次◆

対 談 経営学を「カッコ」に入れよ 第1部 なぜ現象学はすごいのか 山口一郎
第1章 現象学は欲張りな学問 第2章 本質直観という方法 第3章 先入観を「カッコ」に入れる 第4章 感覚と知覚は何が違うか 第5章 「現在」の成り立ちを問う 第6章 現象学・脳科学・仏教 第7章 二重の相互主観性 対 談 戦略とは「生き方」である 第2部 現象学的経営学の本質 野中郁次郎
第8章 SECIモデル
第9章 相互主観をどう育むか
第10章 集合本質直観の方法論 第11章 「物語(ストーリー)」と「物語り(ナラティブ)」
第12章 本質直観の経営学
対 談 日本人の集合本質直観の力

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