2017年6月4日

『隷属なき道』ルトガー・ブレグマン・著 vol.4701

【今、日本に最も必要なもの】
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歴史に「たら」「れば」はありませんが、もしニクソン大統領が、ウォーターゲート事件で失脚しなかったら、世界の貧富の差はそれほど拡大せず、ピケティの『21世紀の資本』はベストセラーにならなかったかもしれません。

※参考:『21世紀の資本』
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本日ご紹介する一冊は、トマ・ピケティの『21世紀の資本』同様、話題になって良い、貧富の差をめぐる論考。

本書によれば、ニクソン大統領は、1969年、「すべての貧困家庭に無条件に収入を保障する法律を成立させようとしていた」ようで、もし「その法案が可決されれば、貧困との闘いは大きく前進するはずだった」そうです。

ベーシックインカムを巡る議論はさまざまありますが、その多くは、「働かざる者食うべからず」「貧しい人に金を与えても無駄遣いする」という論調に屈しています。

しかし、著者によれば、フリーマネーを与えられた貧しい人々が「買わなかった」のはアルコールとタバコであり、彼らはそのお金を食料、衣服、内服薬、小規模ビジネスに使う。フリーマネーにより余裕ができた人々は、未来にお金を使うようになり、仕事に精を出すようになる、というのです。

本書には、他にも、なぜわれわれが望ましい生活をしているはずなのに満たされていないのか、なぜGDPは機能しないのか、なぜ社会に何の豊かさももたらさない少数の職業の人が富を独占するのか、といったことが書かれています。

現在の資本主義に対する手厳しい批判であり、すべての人がより良い未来を築くべく、読むべき論考であると感じました。

さっそく、いくつかポイントを見て行きましょう。

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貧しい人々は、フリーマネーを受け取ると、総じて以前より仕事に精を出すようになる

GDPは多くの成果を無視する一方、人類のあらゆる苦しみから恩恵を受ける。交通渋滞、薬物乱用、不倫はどうだろう? それぞれガソリンスタンド、リハビリ・センター、離婚弁護士にとってはドル箱だ

GDPの考案者であるクズネッツは、その算定に軍事、広告、金融部門の支出を含めることを戒めた。しかし、彼の助言は聞き流された

市場経済では力は逆の方向に働く。供給が多ければ、価格は下がるのだ(中略)これが、経済の進歩の実情だ。農業や工業は、効率が上がるにつれて、経済に占める割合が縮小していった。また、農業と工業の生産性が上がると、雇用される人間が少なくなった

革新しないことが、ますます利益を上げるようになっている。何千人もの優秀な人材が、最終的には富を破壊するだけの複雑な金融商品の開発に時間を浪費したために、どれほど多くの進歩をこの社会が逃してきたかを、想像してもらいたい。同様に製薬業界では、優秀な研究者が、すでに存在する薬とほんのわずかしか違わない新薬の開発に人生の最良の時期を費やし、優秀な弁護士がその特許を申請し、優秀な広報部門がたいして新しくもない新薬を売るために斬新なマーケティング戦略を練っている

高額所得者に高い税金を課せば、「才能ある個人を、負の外部性をもつ職業から、正の外部性をもつ職業に再分配する」のに役立つ。簡単に言えば、税金を高くすれば、有益な仕事をする人が増えるのだ

何が真に価値あるものであるかを決めるのは、市場やテクノロジーではなく、社会である。今世紀のうちに全ての人がより豊かになることを望むなら、すべての仕事に意味があるという信条を捨てるべきだ。合わせて、給料が高ければその仕事の社会的価値も高いという誤った考えを捨てようではないか

ビジネスの創出に必要な人間の数はますます少なくなっている。それが意味するのは、ビジネスが成功したあかつきには、少ない人数でその利益を分かち合うということだ

一九三〇年代には、人種による収入格差が一五〇パーセントもあったが、国境がもたらす不平等に比べると、その数字さえかすんで見える。アメリカに住んで働くメキシコ人は、母国に暮らす人の二倍以上の収入を得ている

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土井が今回取り組んだダイエットも、「市場の失敗」をカバーする企画ですが、世の中には、市場原理に任せておくとうまくいかないものというのが存在するのです。

<わたしたちは行動を変える必要がある。ゆえに、導き手となる新たな数字が必要なのだ>という著者のメッセージ、先進国に住むすべての人が受け止めてくれればと思います。

より良い社会、未来に希望を持てる社会を築き上げるために、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

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『隷属なき道』ルトガー・ブレグマン・著 文藝春秋

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◆目次◆

第一章 過去最大の繁栄の中、最大の不幸に苦しむのはなぜか?
第二章 福祉はいらない、直接お金を与えればいい
第三章 貧困は個人のIQを一三ポイントも低下させる
第四章 ニクソンの大いなる撤退
第五章 GDPの大いなる詐術
第六章 ケインズが予測した週一五時間労働の時代
第七章 優秀な人間が、銀行家ではなく研究者を選べば
第八章 AIとの競争には勝てない
第九章 国境を開くことで富は増大する
第一〇章 真実を見抜く一人の声が、集団の幻想を覚ます
終 章 「負け犬の社会主義者」が忘れていること

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