【意外な良書】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4041029724
ビジネスやリーダーシップ、自己啓発を著名人が語るというのは本の世界ではよくあることですが、大体の本はアナロジーで終わっており、正直ビジネスそのものをさっさと学んだ方が効率が良いことがほとんどです。
本日ご紹介する冲方丁(うぶかた・とう)さんの『偶然を生きる』も、おそらくそんな本だろうと思って手に取ったら、とんでもない。ものすごく学びの多い本でした。
われわれは必然がすべての世界に生きると退屈で仕方がなくなる。かといって偶然だけに振り回される不安にも耐えられない。
起業家がなぜ一度成功してもまた新しいビジネスに挑むのか、なぜ人はギャンブルにハマるのか、それはすべて本書に書いてある「偶然が欲しい」という一言で説明がつきます。
そして、「必然」によって社会を安定的に動かそうとしたら、単純作業が伴う。しかしそれでは人はやる気にならないから「報酬」が必要になる。
この「偶然」と「必然」で人間活動のあらゆる側面が説明できてしまうから、驚きです。
また本書では、われわれの「経験」を4つに分類しているのですが、これがまた面白い。
◆経験の4分類
第一の経験:「直接的な経験」──五感と時間感覚
第二の経験:「間接的な経験」──社会的な経験
第三の経験:「神話的な経験」──超越的な経験であり、実証不能なものがほとんど
第四の経験:「人工的な経験」──物語を生み出す力の源
すべての物語のベースにある「経験」を紐解くことで、われわれがどんな物語に動かされているのか、何をもって幸せと成すのか、人間活動のいろんな面が見えてくる。
これは、じつに知的な読み物です。
さっそく、気になったポイントをピックアップしてみましょう。
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人は現実を認識する際に五感を使います。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚という生物的な体験がまずあります。そして、それら五感に匹敵するくらい重要になるのが、時間感覚です。時間こそ、人間の体験を価値づける重要なファクターなのです
社会を成り立たせるためには、時間の経験を個々の人間に強要する必要があります。ある時間に集まる、ある時間から始める、ある時間には終わらせる
人は常に自分固有の体験に心を向けていくようになっています。しかし、その固有の体験を豊富にしたり安全にしたりするため、他者の経験や社会の目盛りに寄り添って立っているのだということを、まず理解しておくべきなのです
人工的経験の役割は、やがてそれだけではなくなり、多くの人間を共感させる道具になっていきました。バラバラの価値観を、ひとつの価値観に集約するという力を発揮する道具です(中略)たとえばアメリカの南北戦争においては、「奴隷を解放すれば社会は豊かで正しくなり、みんなが幸せになれる」という物語がつくり上げられました
ある人が何かの発明品を生み出すと、それを商品として流通させる人が現われる。さらには、このように使えば生活が豊かになるといった物語をつくり出して宣伝する人が出てくる。あるモノや考えが生まれて広まるとき、そこには必ず、それまでにはなかった架空の物語が存在し、その物語の力によってモノや考えが広まっていく
人間は未来に向かってベクトルを開いて未来を志向しているからです。それが崩れて未知のものがなくなると、「そんな単調な日々は嫌だ」「幸せじゃない」「つらい」となっていく
報酬が報酬として成り立つのは、その代替品に効果があるうちだけ
第一の経験と直結する肉体感覚、寿命感覚、生存感覚にくらべれば、お金のほうが下位になるので、自分の生存感覚をふくらませるために課金をしていきます
第二の経験である社会的経験に重きをおく人間は成功を求めます。それでは幸福を求めるのはどういう人間なのかといえば、第一の経験である自分の感覚や時間感覚を重視します。社会的経験の中にあっては独自のコミュニティをつくろうとする人が幸福への道を求めるのではないかと思います
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こんな切り口で幸福を読み解いた本は、初めて出合いました。
タイトル、表紙からはまったく中身が想像できないので、つべこべ言わずに買うのが正解です。
これはぜひ、読んでいただきたい一冊ですね。
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『偶然を生きる』冲方丁・著 KADOKAWA
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4041029724
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◆目次◆
はじめに
第1章 「経験」の構造と種類
第2章 偶然と必然のある社会
第3章 偶然を生きるための攻略法
第4章 物語と時代性
第5章 日本人性がもたらす物語
第6章 リーダーの条件
第7章 幸福を生きる
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