【ピケティの妻による注目の論考】
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メディアでの結婚・離婚報道を目にする度に、やはり、できる人はできる人と付き合っているんだなあ、と思うわけですが、まさか学者の世界でもそれが当てはまるとは。
本日ご紹介する一冊は、なんとあの世界的ベストセラー『21世紀の資本』の著者、ピケティの妻、ジュリア・カジェ氏によるメディア論。
※参考:『21世紀の資本』
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ジュリア・カジェ氏は、ハーバード大学大学院で博士号を取得し、現在パリ政治学院の准教授を務める才媛で、新進気鋭の経済学者として知られる人物だそうです。
本書の原題は、Sauver les medias(本来はmediasのeの上にアクソンが付きます)で、意味は「メディアを救え」。
ゆえに、本書の中身は完全にメディア論なのですが、邦題は『なぜネット社会ほど権力の暴走を招くのか』と、若干誤解を招くタイトルになっています。
本書の中で著者は、フランス、アメリカを中心にメディア崩壊の危機についてまとめており、メディア弱体化による情報の質の低下、民主主義の危機に懸念を示しています。
豊富なデータをもとに、メディアに対する人々の信頼の低下、販売と広告によるモデルの限界、インターネット・デジタル化による悪影響を論じており、われわれの社会のなかでメディアがどうあるべきか、どうやって維持していけばいいのか、興味深い視点が示されています。
訳者・山本知子さんが指摘しているように、日本では欧米とメディアを取り巻く環境が違っており、そこまで新聞の購読者離れも起きていないし、新規参入も活発ではない。また、日本の新聞社は株式上場していないため、海外のような派手な買収劇もあまり見られません。
それでも、メディアの衰亡は必至であり、今後は大規模M&Aだってあるかもしれません。
そういう意味で、本書を読む価値は十分にあるでしょう。
さっそく、気になった論点をいくつかピックアップしてみます。
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販売収入も広告収入も落ち込み、弱体化したメディアは次第に、ポケットに大金を詰め込んだ大富豪のものとなっていき、多くの場合、情報の質や独立性がその犠牲となる(ピケティによる序文より)
アメリカの日刊紙全体の年間売上額は、他社が製作したコンテンツの分類を業務としている「グーグル」の半分に過ぎない。ひとつひとつの「情報」は無限に転載が繰り返され、しかもたいていは、もとの情報そのままの形で公表される
これこそまさに、メディア、特に新聞・雑誌のパラドックスなのだ。事業者は少なく、経済に占める割合は相対的に小さく、それらを支える従業員の数も少ない。それなのに読者や視聴者の数は極端に多く、民主主義が正常に機能するのに欠かせない重要な決定に大きな影響を与えることができる
株式会社の形をとり、販売と広告によって100パーセント自己資金でまかなうというモデルが、21世紀のメディアに合っていると考える理由などどこにもないのだ(中略)このモデルのせいで、「情報エンタテインメント」あるいは単に「エンタテインメント」を優先し、情報をなおざりにすることがますます多くなってきている。こうした単純な娯楽は、より少ない製作コストで、より多くの広告収入を稼ぎだすからである
情報が無料でリアルタイムに再生産される社会では、取材費用を投じてまでスクープを取ろうという気になれなくなる
ある媒体で働いているジャーナリストの数と生みだされる情報の量(さらには情報の質)には強い相関関係がある
1紙が新たに参入することで(そして、この参入によって各紙の情報生産量が減ることで)、市町村議会選挙への市民の政治参加も少なくなる。具体的には、ここ数十年の投票率の歴史的とも言えるような低下ぶりは、新聞の競争が激しい県ほど顕著である
紙版が読まれる時間はデジタル版よりはるかに長い。ル・モンド紙のウェブサイトでは、1回あたりの訪問で平均して読まれるページ数はわずか4ページ
はっきり言おう。メディアは上場すべきではない
新しいモデルとは、財団と株式会社の中間に位置する「非営利のメディア会社」という形態
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夫であるトマ・ピケティが序文を書き、推薦もしているということで、お手盛り感満載なのですが、確かに評判通り、鋭い視点で切り込んだ、読み応えある論考です。
本書を読めば、なぜメディアのコンテンツが劣化しているのか、なぜお笑い芸人の本が話題となるのか、その本質がわかると思います。
メディアビジネスに興味のある方、マスコミ関係者は、ぜひ読んでみてください。
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『なぜネット社会ほど権力の暴走を招くのか』ジュリア・カジェ・著 徳間書店
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◆目次◆
はじめに これまでになく弱体化しているメディアの救い方
第1章 メディア崩壊が真実を殺す
第2章 広告幻想の終わり
第3章 21世紀のための新しいメディア会社
結びに代えて メディアと民主主義を守れ
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