【人間国宝、木の教えを語る。】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4396612192
突然ですが、みなさんは「指物(さしもの)」「刳物(くりもの)」「挽物(ひきもの)」の違いをご存じでしょうか?
指物というのは、板状の素材を組み合わせて作るもので、箪笥や障子など。刳物は、文字通り木をくりぬいて作るもの。挽物は、木の塊をろくろで回転させ、それに刃物を当てて作るものです。
では次に、なぜろくろを使って成形するものを「挽物」というかはご存じでしょうか?
かつて、ろくろが電動でなかった時は、一つの軸に巻きつけたロープを交互に引っ張ることによってろくろを回しており、それが「挽物」と呼ばれる由来だそうです。
本日ご紹介する一冊は、こうした教養と木から学んだ教訓を、人間国宝であり、山中漆器挽物の名人、川北良造さんがまとめた一冊。
先日、土井が山中温泉に行ったという情報を得た編集者が、すかさず送ってきた本ですが、そこには「1000年続く商品」を作るためのヒントがありました。
自己啓発目的で書かれた本ではないので、中身の大半は木の話、挽物の話ですが、時折出てくる教訓、至言が魅力の一冊です。
いわく<樹齢一〇〇〇年の木は一〇〇〇年後に真価を発揮する>。
法隆寺は、樹齢1000年の木を使って造られているそうですが、だからこそ、あれだけ長い間、人々を感動させ続けることができている。
ほかにも、<「捨て漆」という基礎になる作業を手抜きしないでちゃんとやることで、あとに残った作品の輝きがいつまでも続く>など、ためになる教訓がいくつもありました。
しかしながら、土井がもっとも感銘を受けたのは、次の部分。
<ひとつの木からできるだけ多く作り出すこと。それが、木という素材を最大限活かすことだと思う方もおるかもしれません。確かに、そういう考え方も一理あります。ですが、私としては、たとえ多くの「もの」となって、より多くの人の手に渡っていっても、その木が生を全うするなかで培ってきた風格のようなものが「もの」のなかに表れておらんと、本当の意味での命を与えたことにはならんと思うのです>
これは、本を作る場合でも、何を作る場合でも、まったく一緒だと思いました。
教養と仕事の教訓が、同時に得られる、人間国宝による一冊。
これはぜひチェックしてみてください。
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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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どこからでもほしいものを取り寄せられる今の世の中と違って、昔は、人のほうがもののあるところへ移動しておった
平らなところに一本だけ生えていて、朝早くから夕方遅くまでまんべんなく日が当たる。そういうところに生えている木というのは、全体的に均一で素材的にも安定しておって理想的な木
成長した木というものは、その木自体が望む望まないにかかわらず、いろんな「癖」を持ってしまっている。そういった「癖」を知り、生かすように専念しています
樹齢一〇〇〇年の木は一〇〇〇年後に真価を発揮する
苦手なものよりは、得意なもののほうが早く簡単に作れますから、産業としては、お得意なものを作っておったほうが合理的です。作りづらいものよりは、作りやすいもののほうが発展していくのは当然の成り行きといえるでしょう
これは目上の人に出す文書だから上手く書きたい、なんて思うと、もう手先が緊張するから、途端にダメですわ。普通にしておること以上にうまくやりたいなんて嫌らしいことを考えると、ろくなことはない。そんなもんですよ。仕事も世の中のいろんなことも、全部、平常心で行なうのが一番うまくいくんです
道具は人に貸さない
人様がいい仕事をしているからといって、その鉋を借りたとしても、同じようにできるというもんではないんです
「捨て漆」という基礎になる作業を手抜きしないでちゃんとやることで、あとに残った作品の輝きがいつまでも続く
安価なものにしようとか、漆がもったいないだとか、日数や労力が無駄だとか、そんなことを思ってどこかで手を抜いたら、たちまち作品に翳りが出てしまいます
生活の道具として人間に重宝がられる「もの」を、ひとつの木からできるだけ多く作り出すこと。それが、木という素材を最大限活かすことだと思う方もおるかもしれません。確かに、そういう考え方も一理あります。ですが、私としては、たとえ多くの「もの」となって、より多くの人の手に渡っていっても、その木が生を全うするなかで培ってきた風格のようなものが「もの」のなかに表れておらんと、本当の意味での命を与えたことにはならんと思うのです
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『木と生きる、木を生かす』川北良造・著 祥伝社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4396612192
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◆目次◆
第一章 漆器はなぜ美しいのか
第二章 木を買うときは命がけ
第三章 永遠の命をろくろで削り出す
第四章 漆の面白さ、難しさ
第五章 木の命を読みとる
第六章 世のため、人のため、もののため
第七章 父から子へ伝えたい思い
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