【産み分けがもたらす社会問題】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062160188
本日の一冊は、北京駐在の「サイエンス」誌記者が書き、2012年のピュリッツァー賞ファイナリスト作品として、注目を浴びた一冊。
現在、先進国・途上国ともに急増している中絶や産み分けの結果、進行しつつある男女の性比の不均衡が、新たな社会問題を引き起こすと予言した、衝撃のノンフィクションです。
本書によると、自然な出生時の男女比は、女子一〇〇人につき、男子一〇五人(=出生性比一〇五)。
しかしながら現在、世界各地でこの自然出生性比を上回る地域が急増しており、さまざまな問題の可能性を生んでいます。
フランス人人口統計学者のギルモトが二〇〇五年に計算したところによると、<もしもアジアの出生性比がこの数十年間、自然な平衡値である一〇五を維持していたならば、アジア大陸にはあと一億六三〇〇万人の女性がいたはず>。
著者はこの計算を受けて、<超音波検査と中絶がタッグを組んで、生まれてきたはずの一億六〇〇〇万の女性の命を奪ったのだ──アジアだけで>と非難しています。
彼女が指摘するのは、男性が増えると、親は息子を結婚させるのに苦労するということと、女性が希少になっても、女性の地位は向上しないということ。
また、男性が増えることで、治安が悪くなる可能性も指摘しています。
科学者たちによって既に知られている情報ですが、独身男性は、攻撃傾向を促進するテストステロンが多い。
著者によると、<暴力犯罪で投獄された囚人は男女両方とも、窃盗や薬物犯罪で投獄されている囚人に比べて、テストステロン濃度がかなり高い>そうです。
ちなみに、中国では、二〇一三年までに、男性の<一〇人に一人が相手の女性がいない状態>になり、<二〇二〇年代末までに、推定で男性の五人に一人が余る>。
本書では、このことがアジア各国に及ぼす影響にも触れています。
性比不均衡とテストステロンという視点から、アメリカの治安の悪さを説明しており、じつに刺激的な論考です。
未来を予測するもっとも確実な指標は人口ですが、本書はその中でも「性比」という視点で未来を論じた、興味深い一冊。
視点が人権問題や女性差別にばかり向いてしまっているのがやや残念ですが、それでも、知っておくべき内容だと思います。
ぜひチェックしてみてください。
—————————————————
▼ 本日の赤ペンチェック ▼
—————————————————
戦後は男子の出生数が増える。理由はまだわかっていないが、赤道近辺では女子のほうが多く生まれる
タミル・ナードゥ州は、実は女子が生き残る可能性が高い州の一つであり、インドの穀倉地帯とされる裕福な北西地域は、出生性比が一二六、つまり女子一〇〇人につき男子一二六人と報告された。ギルモトはすぐに格差の真の原因を突き止めた。安価な性別判定の技術──超音波検査──が普及し、妊婦がそれを利用して女児の胎児を中絶していたのだ
男女産み分けは一般に都会の教育水準の高い社会階層から始まる
どんな母集団でも、夫婦の八八パーセントは三人目までに少なくとも一人は男の子を授かる。子どもを六人もうければ、男の子が生まれる確率は九九パーセントに跳ね上がる
一九七〇年から九〇年のあいだに中国の出生率は五・五から二・三に下がったが、タイでも五・六から二・一に下がり、ブラジルでも五・〇から二・八に下がっている。経済発展と出生率低下の因果関係は、逆も真であることが判明している。出生率低下が発展に弾みをつける可能性もあるが、経済発展が少子化を促す傾向もあるのだ
二〇〇六年、ウィプロ、GE、メディカル・システムズは、超音波その他の診断装置で二億五〇〇〇万ドルを売り上げている。中国の場合と同じように、この会社が安価な機械を僻地の村医者に売り込んだおかげで、産み分けは新たな地域に広まった
欧米人と日本人の利害が一致し、一九四八年、アメリカ人アドバイザーは中絶と断種を合法化する優生保護法の成立に向けて、この国の舵を切った。この法律により、日本は世界で唯一、さまざまな理由の中絶を認める国となった
台湾、韓国、シンガポールのような比較的裕福な国──まっさきに性比アンバランスが起った国──では、今や女性の売買は定評のある結婚相談所が交渉を行う産業として確立している
二〇一三年までに、中国人男性の一〇人に一人が相手の女性がいない状態になる。二〇二〇年代末までに、推定で男性の五人に一人が余る
既婚男性のほうが独身男性よりもテストステロン濃度が低く、父親のほうが子どものない男性よりテストステロン濃度が低いことを、科学者はずっと前から知っていた
一八七〇年のアメリカの性比マップは、今日の中国のものと似ている。ミシシッピ川以西の大部分を含めたアメリカの広い地域で、女性一〇〇人当たりの男性数が一二五人を超えていた。カリフォルニア州の性比は一六六。ネバダ州は三二〇。アイダホ州は四三三。カンザス州西部では女性一〇〇人当たりの男性がなんと七六八人に上った
————————————————
『女性のいない世界 性比不均衡がもたらす恐怖のシナリオ』マーラ・ヴィステンドール・著 講談社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062160188
————————————————-
◆目次◆
序 章
第1部 「どこのうちも男の子ばかり」
第1章 人口統計学者
第2章 親
第3章 経済学者
第4章 医師
第5章 帝国主義者
第2部 素晴らしい構想
第6章 学生
第7章 惨事の予言者
第8章 遺伝学者
第9章 将軍
第10章 フェミニスト
第3部 「女性のいない世界」
第11章 花嫁
第12章 売春婦
第13章 独身男
第14章 世界
第15章 赤ん坊
終 章
訳者あとがき
この書評に関連度が高い書評
この書籍に関するTwitterでのコメント
お知らせはまだありません。