2011年8月16日

『どうする?日本企業』三品和広・著 東洋経済新報社 vol.2582

【イノベーション偏重に待ったをかける戦略研究】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492532919

本日は、ベストセラーとなった『ストーリーとしての競争戦略』以来、ひさびさに興奮した戦略書を紹介します。

※参考:『ストーリーとしての競争戦略』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492532706

日本企業の海外進出やイノベーションが叫ばれるなか、安易な戦略に乗ることの危険を指摘した、時宜を得た内容で、非常に好感が持てます。

本書の冒頭、著者は日本企業が一貫して売り上げを伸ばしてきたのに対し、営業利益は低迷していることを指摘しています。

さらに、営業利益の急増に先行して特別損失が膨らんでいることから、日本企業が人員整理や設備のリストラなど、非常手段に訴えて
増益を確保した可能性を指摘。

成長ありきの経営をやめ、新たな志を持って事業に取り組むことを提案しています。

興味深いのは、かつて世界市場を席巻したセイコーやヤマハのケースを取り上げ、現在の日本企業が取っている戦略の危うさを指摘している点。

いわく、「志なきコンフォーマンス(顧客の期待を裏切らない程度の品質で市場を取りに行くこと)は空しい」。

コンフォーマンス戦略をとったセイコー、ヤマハの失敗と、現在ヨーロッパで苦戦しているレクサスの例を挙げながら、コンフォーマンス・クオリティを訴求すれば中国で勝てるという考え方に警鐘を鳴らし、さらには経営陣の怠慢とも言える、「滲み出し」戦略(現状の延長で考える自己都合の戦略)を冷静に批判しています。

著者が提唱する、「立地(誰に向かって何を売るのか)→構え(相手にデリバリーするまでのプロセス)→製品→オペレーション」の逆ピラミッドに即して経営するのが勝つための王道だとするならば、企業は利益率を上げるために「跳ば」なければならない。

そう、以前ご紹介したマエカワのように、「跳ぶ」必要があるのです。

※参考:『マエカワはなぜ「跳ぶ」のか』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478015120

お客様や商品を思い、これまでにない価値とプロセスを実現すれば、一見関連のなさそうなビジネスでも成功でき、利益もついてくる。それが「跳ぶ」ということです。

では、「跳ぶ」ために一体何が必要なのか?

それは、本書の最後の一行に委ねることにしましょう。

戦略の前に、戦術の前に、企業経営で忘れてはいけない大切なこと。本書は、それに気づかせてくれる一冊です。

著者が提唱するリ・インベンションは、いまいちパンチが弱いものの、新規事業が未来の指揮官を育てるという視点や、現在の若者の資質を生かしたビジネスを創るという視点など、分析部分はじつに読み応えがあります。

「学者には、こういう本を作って欲しい」という良い見本です。

ぜひ読んでみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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仕事の醍醐味は、事業を通して世界を変えるところにあるはずです

日本企業の収益力は、技術志向を謳わない海外企業と比べると比較にならないほど低く、イノベーションのあとに利益がついてきてい
る気配がありません。そこを直視すると、日本企業が重視する技術イノベーションの普遍的効力については、疑義を挟まざるをえない

誰に向かって何を売るビジネスを営むのかという事業の「立地」や、売ると決めたものを売ると決めた相手にデリバリーするまでのプロセス(これを私は事業の「構え」と呼んでいます)は、思い立ったからといって、簡単に変えられるものではありません。だから、戦略性が高いのです

腕時計業界では、イノベーションに勝った日本企業が、異次元競争を仕掛けてくる海外勢の前に敗退するという現象が、他に先んじて
起きました

限られた経営資源を普及帯に張り付けていた間、他の戦線が手薄になってしまったのです。その隙に本丸の中級帯や高級帯を攻め込まれ、セイコーは安住の地まで失いました

売上と利益が単一のセグメントでは両立しないことを、ハイエック(スウォッチ・グループ創業者)は熟知していたのでしょう

もう一度ピアノを進化させる試みに正面から挑んだパオロ・ファツィオリ氏に、私は敬意を払わずにはいられません。彼は、職人三十数人、年産一五〇台未満の体制で、一〇倍以上の規模を誇るスタインウェイを、ただパフォーマンス・クオリティにおいて上回ることを目指しているのです。いたずらに規模を追わないのは、何をやりたいのかが心の中で明確になっているからに違いありません。この志こそ、日本の企業に決定的に欠けている中核要素ではないでしょうか

ポーター教授は、「飛び地」を極端に嫌う日本企業を見て、ヒトの限界を指摘します。地縁に固執するのは、自分が知らない事業に尻込みする経営者の偏好ではないのか

滲み出しは安全そうに見えて、実は危険極まりない

市場で売り抜く力がモノを言うビジネスや、顧客との技術折衝が鍵を握るビジネスでは、どうしても地元に密着した国産勢が優位に立ちます。そういうフィールドでは、新興国に過大な期待を抱かないに限ります

新規事業は指揮官を育てる

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『どうする?日本企業』三品和広・著 東洋経済新報社
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◆目次◆

第1章 本当に成長戦略ですか? ―日本が歩んだ衰退の道
第2章 本当にイノベーションですか? ―腕時計が刻んだ逆転劇
第3章 本当に品質ですか? ―ピアノが奏でた狂想曲
第4章 本当に滲み出しですか? ―鉄が踏んだ多角化の轍
第5章 本当に新興国ですか? ―日本が教えた開国攘夷策
第6章 本当に集団経営ですか? ―こうしたい! 日本企業

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