2009年6月3日

『農協の大罪』山下一仁・著 vol.1780

【農協―誰も書けなかった聖域の真実とは?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4796667202

本日の一冊は、誰も書けなかった農協のカラクリを暴き、その大罪を元農林官僚が糾弾した、話題の一冊です。

社会にとって害になることが特定の組織にとっては利益になる、というのは、ビジネスの世界ではしばしば起こることですが、往々にしてこういう儲けは長続きしません。

最近、人材紹介ビジネスが、若年労働者の転職をいたずらに煽り自らバブルを創出して崩壊したように、本質的な成長を伴わないものは、どこかで行き詰るものなのです。

もし人材紹介ビジネスが本当に優れた人材を定着させるように動き、結果として日本企業が成長・発展していれば、新たな人材需要が生まれたはずですが、そうはならなかったのです。

今では、人材紹介所に求人を出すと、人材紹介所出身の失業者が紹介されてくる始末。

自分の組織だけが良ければいい、という考え方は、長い目で見ると、いい結果につながらないのです。

これと同様のことが、今後、農業の世界にも起こる。本日の一冊を読んでいると、そんな気がしてなりません。

高い米価を維持することによって手数料を増やし、また機械や肥料を大量に売るために、あえて日本の農業の発展に貢献する専業農家ではなく、大量の肥料を使う兼業農家を支持してきた。

また、金融業者となって農民のお金を吸い上げ、融資することで農民を言いなりにする。

そんな農協のやり方が、事細かに書かれた、じつに刺激的な一冊です。

「組織はいったんつくられると、それ自体の存続のために一人歩きを始める」

これは、何も農協に限ったことではありません。

組織肥大化の問題点を学ぶと同時に、全人口の1割を占める農業関係者のことを学べる本書。

経営者、マーケターなら見逃せない一冊です。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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農協は農地改革で保守化した農家・農村を組織化し、自民党を支える戦後最大の政治団体となった。さらに、組合員のなかで圧倒的多数の兼業農家に軸足を置くことによって、農業から抜け出そうとしている兼業農家の農外所得や、莫大な農地転用利益を預金として吸い上げた。この莫大な預金は農家が衰退したために農業へはほとんど融資されず、その7割が有価証券などで資産運用され、大きな利益を生んだ。農協は金融でも保険でも、わが国トップレベルの企業体となり、機関投資家となった。こうして、”農業”団体であるはずの農協が、農業を衰退させ、農業を犠牲にすることによって発展するという奇妙な事態が生じているのだ

高い米価は誰のため、何のために必要なのか? 農協にとって、米価が高ければ販売手数料も高くなるし、肥料や農薬も農家に高く売れ、また手数料を稼げるからである。高い米価は何で維持されているのか? 水田の4割で米を作らないという供給制限カルテル、つまり減反によってである

日本における06年の農業総産出額は8・5兆円である。これはパナソニック1社の売上額約9・1兆円にも及ばない。パナソニックの従業員は30万人弱なのに、農業では、農家戸数は285万戸、農協職員だけで31万人、農協の組合員は約500万人、准組合員は約440万人もいる。GDPに占める農業の割合は1%にすぎないのに、日本の成人人口の1割が農協の職員、組合員、准組合員ということになる

2008年度では、農政当局・農協等が一体となって、それまで以上に農家に減反へ参加させようとし、農家への締めつけを強化している現状がある。参加しない農家には、公的融資の返済を迫ったりしているのだ

56年からの10年間で、農林中金(信用事業の全国機関)から肥料産業への貸出し額は13・5倍に

農協法の組合員1人1票制のもとでは、数のうえで圧倒的に優位に立つ兼業農家の声が、農協運営に反映されやすい。農協にとっても、少数の専業農家ではなく、多数の兼業農家を維持する方が政治力維持につながる。兼業農家は週末しか農業をしないので、雑草が生えると農薬を撒いて片づけてしまう。兼業農家の方が肥料・農薬を多投するのである

「長野県川上村のレタス農家が有機栽培のレタスで自立しようと、農協から資材を買わず、また、農協を通さずに直接スーパーなどに出荷しようとしたら、農協はこれらの農家の農協口座を閉じ、プロパンガスの供給を止め、共同利用の用水の利用を禁じ、文字通り「村八分」にした。こうした例は全国に無数にある(朝日新聞経済部)

規模が大きい農家ほど、環境に優しい農業を行なっている

組織はいったんつくられると、それ自体の存続のために一人歩きを始める。「組織のための組織」は農協だけではない

小選挙区制のもとでは、農民票が1%でも相手側候補に寝返ると2%の差がつくことから、農林族議員は農家の意向を考慮せざるをえない

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『農協の大罪』宝島社 山下一仁・著

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◆目次◆
はじめに
第1章 「汚染米横流し事件」の背景
第2章 保護なしでは「GDPゼロ%」の日本農業
第3章 誰が日本の農業を衰退させたのか?
第4章 農協の台頭と「大罪」
第5章 農政トライアングルとは何か?
第6章 農協、農林族議員、農水省の「壁」
第7章 揺らぐ農協
第8章 農政が脅かす「食料安全保障」
終 章 強い農業を築くためにするべきこと
おわりに

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