本日ご紹介する書籍は、シリアスでハードな一冊です。
著者は、ご存知、広瀬隆氏。最近出された『世界石油戦争』『世界金融戦争』などの「陰謀系」書籍で知られる作家さんです。
参考:『世界石油戦争』
http://tinyurl.com/4kpjg
参考:『世界金融戦争』
http://tinyurl.com/5vhuy
今回は、日本への提言といった、比較的やわらかい内容ですが、それでも、ブッシュ大統領を「アメリカの馬鹿大統領」、小泉純一郎を「日本の歴史上、最低の首相」、石原慎太郎を「外国人非難に明け暮れる子供のような人間」と呼ぶなど、ところどころに見られる言動は、相変わらずの広瀬節です。
内容は、中国・アジアに関する記述が思っていたよりも少ないのが残念ですが、日本の金融システムや、年金、失業問題、食料問題、環境問題など、日本が直面している、さまざまな問題について、内情を深くえぐりながら、論じています。相変わらずの綿密な取材とデータ、そして、その是非はともかくとして、歯切れの良い主張は、非常に読み応えがあります。
非常に要点をピックアップしずらい本ではありますが、さっそくその内容を見ていきましょう。
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本日の赤ペンチェック
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アメリカの良質の産業や文化とはこれまで通りの関係を続けながら、アメリカ政府や金融界の悪質な部分と決別するべき時代が来た(中略)同じ金を注ぎ、同じ骨折りをするなら、アメリカではなく、アジアの同胞に顔を向ける時代である
中国が原料を独占して調達すれば、ほかの国の産業がつぶれてしまう。(中略)需要が高まれば高まるほど奪い合いになり、売値は吊り上げられる(中略)中国は、”世界の工場”なのだろうか。どうも、そうではない未来が幕を開いたようである
中国バブルの実情
=完全なインフレであり、先に断崖が見えてきたバブル
=国際金融マフィアがすでに資金引き上げのスケジュールを手帳に書き込み始めた
=人民元の切り上げ?
アジア全般のエネルギー事情は、人口の増加、生活水準の向上と共に、石油・天然ガス・石炭、すべてのエネルギー資源の生産量が、消費量に負けているところに大きな弱点がある
富士通が数千人規模の人員削減、NECが四〇〇〇人削減、松下グループが一万三〇〇〇人の余剰人員を整理へ、日立が二万人削減、東芝が一万八八〇〇人のリストラ策を発表……と深刻なニュースが続き、大手電気全体で七万人規模の人間が職場から追放されている。それで会社の業績が回復しても、日本社会に生きる人間がどうなったかが本当の問題ではないだろうか。会社が大事か、人間が大事か。日本の経済ニュースは、「会社が大事」だけで報道していないのか?
企業人であれば誰でも知っているように、小泉政権の政策と現在の日本の景気動向は、百パーセント何の関係もない(中略)とりわけここ三年の日本経済と産業界の動きは、リストラという名目で日本企業が厳しい首切りを進めて利益率を高め、一方で中国とウォール街の勝手な変化の影響を受けただけである
中東の石油依存をひんぱんに警告する人たちが、兜町のウォール街依存にほとんど警告を発しないのは、あまりに鈍感である
真の問題は、年金を払うお金をつくれない貧しい人たちに、国家がどのように手を差しのべるかである。これは税金によって、社会全体が正しく対応しなければならない
個人金融資産だけで、赤ん坊も含めて、一人当たり平均一一一三万円になり、四人家族で四〇〇〇万円を超えるとは大金だ。しばしば引き合いに出されるこの個人金融資産は、(中略)住宅ローンや消費者金融などの個人金融負債を差し引いていない嘘の数字なのである
郵政民営化とは、消費税増税を隠して日本の郵便貯金をブッシュのアメリカに送り込み、世界混乱を助長させる元郵政大臣・小泉のペテンである
郵政民営化を狙う国際金融マフィアを警戒せよ
(食糧問題)輸入に頼ると危険な四つの理由
1.地球の人口がこのまま増加してゆけば、やがて金で食べ物を買えない時代が訪れる可能性が高い。最大の問題は、日本が農地を失うと国内で食べ物を供給できない飢餓の危険性
2.輸入食料の船舶輸送には相当な時間がかかるため、腐らないように防腐剤などの薬剤処理をしなければならない
3.問題が発生した場合に国内では手を打つことができても、輸入品では輸入停止のほかに対策がない
4.税関での完全な検査は人員的に不可能である。外国からの輸入品が増加すればするほど、これからの検査は穴だらけになる
統計が日本社会のすべてを示しているわけではない。GDPが国民生活の指標になるという考えを捨てることが大事である。要は、失業しても、誰もが生きられればいいのである
慈愛のある医療を求めて、若い世代にも、パートの女性たちにも、多くの職場が用意されてよい。これからの医療は、その心意気のある人たちが担うべき
いつまでも優秀でないなら、日本人の給与を、アジアのほかの国のレベルまで下げるべきである
少子化を憂える人が大変多いが、なぜそんなことを心配するのだろう。狭い日本で一人当たりの土地が広くなっていいではないか
産業界が、昔のような企業城下町方式の支配ではなく、土地にしっかり根を下ろし、地方を甦らせる意気を持てば、日本は生き返る
これからの時代の三種の神器
・エネルギー産業
・リサイクルシステム
・農林漁業
これからの時代のエネルギーの三本柱
・ガス
・燃料電池
・自然エネルギー
これまでの日本の産業界とエコノミストと学者は、みじめにも絶えずアメリカの論説の後を追ってきた。もうそろそろ日本人は、自発的にアジアをリードすべき時である。これほどの機会はない。ゆきづまったアメリカなど、置いてきぼりにするぐらいの気概がなければならない
日本人のテーマは、アジアとのゆっくりした共生である。ただ進むのではなく、ゆっくり進む、というところがポイントになる
産業の目的は、何のために産業に従事し、どのように社会に貢献できるかを考えるのがまず第一歩である。その上で、商業主義を活かして自分たちが利益を増加すればするほど社会は改善される、という積極的な視点からマーケットを考える哲学が最良の成果を生み出す
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時折議論が過激になりますが、そこは差し引いて読めば、面白い読み物だと思います。
というわけで、本日の一冊は、
『日本のゆくえアジアのゆくえ』
http://tinyurl.com/5kjrd
です。これまでの著作よりはずいぶん読みやすくなっているのでこれまで怖気づいていた方も、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
目次
序章 明けない夜はない
第1章 中国とアジアの活況
第2章 郵政民営化と日本の金融システム
第3章 狂牛病・鳥インフルエンザと低下する食料自給率
第4章 日本の労働力と失業・倒産
第5章 燃料電池・新エネルギーと異常気象
第6章 あとがきに代えて――アジアとのゆっくりした共生
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