2018年9月6日

『特捜投資家』永瀬隼介・著 vol.5110

【傑作です】
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ジャーナリストと起業家、投資家には、共通点があります。

それは、いずれも「一発狙い」だということ。「一発」という表現が適切でなければ、「ホームラン狙い」とでも言えばいいでしょうか。

ジャーナリストはスクープを狙いますし、起業家は大きな事業を企てる、そして投資家は大化け株を探す。

かの天才コピーライター、デイヴィッド・オグルヴィは、「バントをするな、場外ホームランを狙え」と言ったことで有名ですが、情報産業では、「大きく考える」ことが富をもたらす秘訣なのです。

とは言いながら、「大きなこと」には常にリスクがつきまとうのも事実。広げられた風呂敷が本物なのか、関わっている人間はまっとうな人間なのか、急激に集まるカネは引く時もはやい…などなど。

そんな情報産業に潜むリスクと、カネの現実、現在の資本主義社会の退廃ぶりを、ジャーナリスト、起業家、投資家が交錯するストーリーの中で描き出したのが、本日ご紹介する『特捜投資家』。

「EVの革命児」ともてはやされるミラクルモーターズの黒崎宏、成功した男たちを渡り歩くクールビューティーな女性起業家、椎名マリア、個人投資家として数百億の資金を動かし、莫大な利益を得ている天才投資家・城隆一郎、そして城に雇われ、ミラクルモーターズを調べ始める、元ブンヤのフリージャーナリスト・有馬浩介、捜査線上に浮かんできた、闇の大物…。

スリリングなストーリーを読んでいるうちに、資本主義社会を渡り歩くための知恵が身につく、じつに興味深い小説です。

さっそく、ポイントをチェックしてみましょう。

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「夢よもう一度、ってあがく男はみっともないもんねえ。でも──」
意味ありげな一瞥をくれ、しゃあしゃあと語る。
「ゴージャスな夢を味わったことのない男はもっとみじめだけど」

「カネと自由は同義だ。カネさえあれば、上意下達の愚かな組織に属することも、間抜けな他人に頭を下げる必要もない。おれは本物の自由が欲しいからカネを稼ぐ」

「金持ちから儲けようと考えるな。貧乏人から儲けるほうがずっとラクで効率的、という厳然たる事実を胸に刻め。(以下省略)」

「世間は夢と希望にあふれた大風呂敷を持て囃すが、広げることならだれでもできる。要はきっちり畳めるか、否か、だ」

「ほら、“買いは家まで、売りは命まで”と言うじゃない」
知らない。初めて聞いた。マリアは冷笑し、説明する。
「株価千円の株を買った場合、どんなに値下がりしても千円の損で済むよね。しかし、こと空売りを仕掛けた場合、天井知らずでしょ。株価千円は理論上、一万円にも十万円にも上昇することがある。つまり、いったん上昇に転じた場合、被る損は際限がないってことよ」

「この世にはどんな因縁が潜んでいるのか、だれにもわからない。想定外のことも、いともたやすく起こり得る。ここは先入観を極力排して、虚心坦懐に調査に当たったほうがいい」

「真面目な働き者だったけど、莫大な借金をしょっちまって、首くくって死んだんだ」
ぐっと息を呑む音がした。兵藤が沈痛な面持ちだ。
「幼馴染の豆腐屋に頼まれて、銀行融資の保証人になったはいいが、夜逃げされちまってな。あとは坂道を転がるがごとく、だ」

「人間、情がいちばんなんだよっ、毎日コツコツ働いて、人様に喜んでもらえることがなにより大事なんだっ」

カネはカネを呼ぶ。太いカネほど吸い寄せるカネも多くなる

諦めずに歩けばなにかに当たる、諦めた時点で可能性はゼロになる

「おまえにはカネを稼ぐべき理由があった。そういう人間は実に有用だ。決死の覚悟でがむしゃらに、あとさき考えずに働くからな」

「おれは元ブンヤの物書きだ。どこまでいっても物書きだ。憶えとけ」

カネさえあればこの世に不可能なことはない、と信じた少年がいる。貧しく孤独な少年は悪の修羅道をひた走り、莫大なカネを稼ぎ、目も眩む万能感に浸った。望むことはなんでもできた。なんでも買えた。もっとも大切なものを除けば、だが

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若い頃、『ナニワ金融道』を読んで、お金と人間の現実を学び、実世界に出て本当にその通りだなと思ったものですが、本書もまた、現代の資本主義社会の現実を見事に描き出しています。

脇の甘い人間がハマる落とし穴、レバレッジ投資のリスク、情報操作の危険性、平気で風呂敷を広げる起業家と、それに群がる危うい投資家たち…。

まさに今の日本の闇の部分を描いているようで、背筋が寒くなります。

ぜひ、読んでみてください。

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『特捜投資家』永瀬隼介・著 ダイヤモンド社

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◆目次◆

序章 キング誕生
第一章 バブル、再び
第二章 逆張りの男
第三章 傲慢な投資家
第四章 EVと革命児
第五章 ワルの錬金術
第六章 ジャングルに潜む東洋人
第七章 天才物理学者の悲劇
第八章 007と呼ばれた男
第九章 その秘策、333億円
第十章 崖っぷち会議
第十一章 告白する女
第十二章 夜の訪問者
第十三章 天使と悪魔
終章 家族のカタチ

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