2012年8月9日

『さっさと不況を終わらせろ』ポール・クルーグマン・著 Vol.2941

【増税・支出削減は間違い?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4152093129

スペイン、ギリシャで若年層の失業率が約50%…。日本でも、新卒の就職率の低さや本格リストラが注目され始めています。

世界中の先進国が不況にあえぐなか、さまざまな経済本が出されていますが、本日ご紹介する一冊は、おそらくもっともユーモラスで、もっともシンプルに不況の本質がわかる一冊です。

著者は、ノーベル経済学賞を受賞した著名な経済学者であり、大統領経済諮問委員会の上級エコノミスト、世銀、EC委員会の経済コンサルタントも歴任したポール・クルーグマン。

かつて、日本の不況脱却のためにヘリコプターマネー論を提唱し、話題となった人物ですが、本書では経済における「需要」の重要性を強調しています。

要するには、現在の不況の根本にあるのは、需要不足であり、著者はこの需要不足から脱却するために、政府支出が必要だと説いているのです。

<多くの借り手が貯金を殖やして借金を返そうとしているときには、だれかがその正反対をして、もっと支出して借金を増やすのが重要となる──そしてそのだれかになれるのは、明らかに政府だけだ>

<いまは政府支出を増やすべきときで、減らすべきときじゃない>

確かに、一般人が<あなたの支出はぼくの収入であり、ぼくの支出はあなたの収入になる>などと言われても、不況下で支出を増やすなど、なかなかできるものではありません。

しかし、政府が<ある人の負債は別の人の資産だ>と言われれば、納得できるはず。これは、じつに面白い視点だと思います。

不況の経済学について、歴史的な論考も含めて学べる一冊。

冗談好きのクルーグマンのテイストがそのまま訳にも生きていて、じつに興味深い内容です。

ぜひチェックしてみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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ミンスキーのすごい着想は、レバレッジに注目したことだ──つまり、資産や所得に対して負債がどれだけ積み上がっているかというものだ。彼の議論では、経済安定期にはレバレッジが上昇する。みんな、貸し倒れのリスクについて不注意になるからだ。でもレバレッジ上昇はいずれ経済不安定につながる。それどころか、これは金融危機や経済危機の温床となってしまうのだ

多くの借り手が貯金を殖やして借金を返そうとしているときには、だれかがその正反対をして、もっと支出して借金を増やすのが重要となる──そしてそのだれかになれるのは、明らかに政府だけだ

金持ちの影響力が高まったことで、ぼくのようなリベラル派には気に入らない多くの政策的な選択が行われた──税の累進性の緩和、ごまかしによる貧困者救済の削減、公共教育の衰退等々。でも本書の主題にとって最も関係あるのは、規制のない金融システムが必ず問題を起こすという多くの危険信号にもかかわらず、政治システムが規制緩和と無規制にこだわり続けた、ということだ

自国通貨で借りるか外貨建てで借りるかがすさまじい差をもたらすということだ。イギリス、アメリカ、日本はみんな、それぞれポンド、ドル、円で借りている。これに対し、イタリア、スペイン、ギリシャ、アイルランドはみんな現時点では自国通貨を持っておらず、その負債はユーロ建てだ──これが実は、こうした国々をパニック攻撃にとても弱くしてしまう

企業は別に、お金の供給が増えたというだけで値段を上げようと思ったりはしない。値段を上げるのは、自分の商品の需要が上がって、値段を上げてもあまり客が逃げないとにらむからだ。労働者も、金融緩和のニュースを新聞で読んだからといって給料引き上げを求めたりはしない。求人が増えて、交渉力が高まったから引き上げを求める

お金の印刷がインフレにつながるのは経済の過熱につながる好景気を通じてなのだ

フィッシャー曰く、デフレは負債の実質価値を増やしてしまうことで経済を圧迫しかねない。逆にインフレは、負債の実質価値を減らすことで経済を後押しできる

この名目賃金の下方硬直性──すみません、ある特定概念をきちんと言うには、専門用語が本当に必要なこともあるんです──のおかげで、景気停滞にもかかわらず、アメリカでは本当のデフレが生じていないんだろうと思う

深刻な不景気に陥った経済で、金融当局が左右できる金利がゼロ近くにあるときには、政府支出は減らすのではなく増やすべきだ

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『さっさと不況を終わらせろ』ポール・クルーグマン・著 早川書房

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4152093129
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◆目次◆

はじめに:これからどうする?
第1章 事態はこんなにひどい
第2章 不況の経済学
第3章 ミンスキーの瞬間
第4章 たがの外れた銀行家たち
第5章 第二の金ぴか時代
第6章 暗黒時代の経済学
第7章 不適切な対応の解剖
第8章 でも財政赤字はどうなる?
第9章 インフレ:見せかけの脅威(ファントム・メナス)
第10章 ユーロの黄昏
第11章 緊縮論者(オーステリアン)
第12章 何が必要か
第13章 この不況を終わらせよう!
後記:政府支出については実際のところ何がわかっているの?
謝辞

訳者解説
1.はじめに
2.本書の概要
3.ポール・クルーグマンと不況の経済学
4.不況議論の注意点
5.最後に:日本への示唆など
6:謝辞その他

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