2010年10月29日

『繁栄―明日を切り拓くための人類10万年史』(上・下) マット・リドレー・著 vol.2291

【閉塞感を打ち破る一冊?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4152091649

日本経済の長期にわたる停滞により、悲観的な書物もしくは現実逃避のためのエンタメ本が売れている今日。

やっと、前向きな本に出会うことができました。

本日の一冊は、フィナンシャル・タイムズ&ゴールドマン・サックス選による「ビジネスブック・オブ・ザ・イヤー2010」の候補作となった、注目の翻訳書。

ベストセラー『やわらかな遺伝子』の著者であり、リチャード・ドーキンスらと並ぶ科学啓蒙家として有名なマット・リドレーが、10万年にわたる人類の歴史を俯瞰し、そこから経済成長のヒントを読み説いた、注目の一冊です。

※参考:『やわらかな遺伝子』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4314009616

経済成長が頭打ちになると、決まって「昔は良かった」という主張がはびこるものですが、著者は、これらの主張を、さまざまなデー
タを用いて否定。

これによると、世界は確実に改善され、豊かになっているのであり、それを導いてきたのが、「交換」と「分業」です。

著者の主張が正しいとしたら、現在の若者の自給自足への動きや閉鎖性は、日本のタスマニア化を促進するものであり、社会の成長にとって、極めて危険な状態です。

本書で示された、イノベーションを生み出すためのアイデアは、これから知的生産で飯を食っていく我々にとって、極めて有用です。

人類がなぜ発展・成長してきたのか、その理由を俯瞰することで、明日への成長のヒントが得られる、そんな知的な一冊。

知的刺激にあふれる上巻に比べ、下巻はややトーンダウンした感がありますが、この手の冗長さは、翻訳書のお約束。

気にせずにぜひ、読んでみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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<上巻>
もし文化が、他者から慣習を学習することだけで成り立っていたら、たちまち成長が止まってしまう。文化が累積的になるには、アイデアが出会ってつがう必要があった

人間は交換によって「分業」を発見した。努力と才能を専門家させ、互いに利益を得るしくみだ

若い世代が上の世代の生活を支えられるのは、イノベーションのおかげで豊かになっているからだ。誰かがどこかで三〇年返済のローンを組んでビジネスに投資し、そのビジネスが生み出した機械で購入者が時間を節約できれば、未来からもたらされたその資金は、借りた本人と購入者の両方を豊かにするので、ローンは子孫に返済できる。これが成長だ

自分の必要とするサービスを買えるだけの値段で自分の時間を売れなければ貧しく、必要とするサービスだけでなく望むサービスまで手に入れる余裕があれば豊かだと言える

専門家によって知識がしだいに積み重ねられ、そのおかげで私たち一ひとりが生産するものの種類をしだいに減らしながら、しだいに多くの種類のものを消費できるようになる。これが人間の歴史の中心を成す物語だと、私は言いたい。イノベーションは世界を変えるが、それは、イノベーションが労働の分割を進めるのを助け、時間の分割を促すからにほかならない

結びついている人口が多いほど、手本となる人物の技能は高く、生産的なまちがいが起きる確率も高まる。逆に、結びついている人口が少ないほど、技能は継承されるうちに着実に衰えていく

個々のタスマニア島民の脳には、どこにも悪いところはなかった。問題は、彼らの集団的頭脳にあったのだ。孤立(自給自足)が彼らのテクノロジーの縮小を引き起こした

<下巻>
人間には交換と専門化の習慣があるため、古き良き時代のマルサス的人口抑制がじつは人間には当てはまらないことを示唆している。つまり、食糧供給量に対して人数が多すぎるとき、人間は飢餓と疫病で死ぬのではなく、専門化を強めることによって利用できる資源で生存できる人の数を増やすことができる

人口を減らす政策として抜群に良いのは、女性教育の奨励だろう

ハイエクが論じたように、知識は社会に分散されており、それは各人にそれぞれの視点というものがあるからなのだ。知識はけっして一つの場所に集中させることはできない。それは集団的であり、個別には存在できないからだ

企業が成長していく上でもっとも危険な瞬間は成功を収めたときだ、なぜならそのときイノベーションを忘れてしまうからだ

二一世紀にはカタラクシー―交換と専門化によって自発的に起きる秩序を指すハイエクの造語―が拡大し続けると予測する。知性はより集団的となり、イノベーションと秩序はよりボトムアップになり、仕事はより専門化し、余暇がより多様化する

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『繁栄―明日を切り拓くための人類10万年史』(上・下)マット・リドレー・著 早川書房
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4152091649

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◆目次◆

<上巻>
プロローグ アイデアが生殖(セックス)するとき
つがう心
第1章 より良い今日―前例なき現在
第2章 集団的頭脳―二〇万年前以降の交換と専門化
第3章 徳の形成―五万年前以降の物々交換と信頼と規則
第4章 九〇億人を養う―一万年前からの農耕
第5章 都市の勝利―五〇〇〇年前からの交易
<下巻>
第5章 都市の勝利v五〇〇〇年前からの交易(承前)
第6章 マルサスの罠を逃れる―一二〇〇年以降の人口
第7章 奴隷の解放―一七〇〇年以降のエネルギー
第8章 発明の発明―一八〇〇年以降の収穫逓増
第9章 転換期―一九〇〇年以降の悲観主義
第10章 現代の二大悲観主義―二〇一〇年以降のアフリカと気候
第11章 カタラクシー―二一〇〇年に関する合理的な楽観主義
謝 辞
訳者あとがき
原 注

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