2010年10月15日

『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』橘玲・著 vol.2277

【自己啓発の限界?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4344018850

本日の一冊は、ビジネス書作家として絶大な人気を誇る橘玲さんによる、「現実的な」成功哲学書。

著者いわく「自己啓発へのイデオロギーへの違和感から生まれた」一冊で、自己啓発の旗手である、勝間和代さんをネタに、教育至上主義が生まれた背景と理論、そしてそれに対する著者なりの見解を示しています。

ハーバート・スペンサーが唱えた「社会進化論」を使って現在の適者生存の価値観を説明しつつ、人間の知性が7割遺伝で決まってしまう現実を指摘。

また、人間が複数の知能を持っていたとして、そのすべてを教育で伸ばせない現実や、市場がいろんな知能を平等に扱わない現実を説き、なぜ格差が生まれるのか、その本質を論じています。

あらゆる働き方、稼ぎ方の人間を一律に評価できるゲーリー・ベッカーの「人的資本論」の話を読めば、ハイリターンの投資や宝くじで儲けたといって人を集めるのがいかに愚かなことかわかりますし、起業した人間が大企業に勤めるサラリーマンより給料が高くても何ら不思議ではないことにも気づきます。

自己啓発に過剰にはまる人が、夢から覚めるには、絶好の本ではないでしょうか。

しかし、「努力しても変わらない」という本書のような考え方が広まれば、本来開発できるはずの能力が開発できないリスクはあります。

もし土井が勉強していなかったら、英語やパソコンはできていませんし、ゲラの赤入れの方法も知らなかったでしょう。

だとしたら、外資系企業にも就職できていませんし、現在の仕事にも就けていないでしょう。

たとえ人間の知能が遺伝で7割決まるとしても、どの能力を伸ばすのかという「目利き」と、それを伸ばすための努力の余地は残されているのです。

われわれは、キャリアにおいても能力開発においても、ソクラテスの「無知の知」を尊重すべきだと思います。

どんなに頭のいい人が何を言っても、その人がどんなに成功していても、本当の才能は「試してみるまでわからない」のですから。

ただし、本書が人生やキャリアの現実を説いているのも事実。

ぜひ読んで、自己の能力開発に活かしてみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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残酷な世界を生き延びるための成功哲学は、たった二行に要約できる。
伽藍を捨ててバザールに向かえ。
恐竜の尻尾のなかに頭を探せ。

アメリカの教育心理学者アーサー・ジェンセンは、一九六九年に知能(IQ)と遺伝の関係を調べ、知能の七〇パーセントは遺伝によって決まると主張した

知能や性格は“運命”のようなもので、努力によっては変わらない

ぼくたちが複数の知能を持っていたとしても、そのすべてを教育によって伸ばせるわけではない。時間も資源も限られているのだから、仲間との競争に勝って異性を獲得し、自分の遺伝子を残そうと思えば、もっとも得意なものに資源を集中するのが最適な戦略なのだ

市場は、いろんな知能を平等に扱うわけではないのだ。身体運動的知能や音楽的知能は、衆に抜きん出て優れていないと誰も評価してくれない(中略)それに対して言語的知能や論理数学的知能は、他人よりちょっと優れているだけで労働市場で高く評価される

ライシュの推計ではルーティン・プロダクション・サービス(製造業の労働者)とインパースン・サービス(対面で顧客サービスをするひとたち)に従事するアメリカ人は全労働人口の八割に及び、このひとたちは“ふたつの国際化”によって貧困層に転落していく

金融市場でリスクとリターンが釣り合っているのなら、大きなリスクを取った投資家のなかから大儲けするひとが出るのは当たり前だ。こういうひとが「株で一億円儲ける」みたいな本を書くのだけれど、これは「宝くじ必勝法」と同じでまったく役に立たない

人的資本が小さければ、大金を稼ぐには大きなリスクを取るしかない

ひとの働く価値は、「学歴」「資格」「経験(職歴)」の三つで評価できる

人的資本を介して教育と富が直結することによって、ぼくたちは、「自己啓発」の終わりなき競争に駆り立てられることになった。“自己啓発の女王”勝間和代の登場は、時代の必然だったのだ

問題は、好きなことが常に市場で高く評価されるわけではないということだ

市場の論理は、顧客に対して誠実であること、公平であること、差別しないことを求める。となれば、貨幣空間の勝者であるお金持ちとは、こうした美徳を体現したひとということになる。彼らは楽天的で他人を信用し、その一方で嘘を見抜くのがうまく情に流されない

「うまい儲け話」にひとが簡単に引っかかるのは、「特別な自分には特別な出来事が起きて当たり前」と、こころのどこかで思っているからだ

マサイ族が幸福なのは、家族や仲間との強い絆(愛情空間と友情空間)のなかで暮らしているからだ

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『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』橘玲・著 幻冬舎
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4344018850

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◆目次◆
序章 「やってもできない」ひとのための成功哲学
第1章 能力は向上するか?
第2章 自分は変えられるか?
第3章 他人を支配できるか?
第4章 幸福になれるか?
終章 恐竜の尻尾のなかに頭を探せ!

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