2009年8月31日

『功利主義者の読書術』佐藤優・著 vol.1869

【功利主義的に名著を読むと?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4104752045

本日ご紹介する一冊は、対ロシア外交の最前線で活躍し、その後背任容疑で逮捕、現在は作家・起訴休職外務事務官の肩書きで幅広い執筆活動を行う佐藤優氏が、功利主義的な読書術を紹介した一冊。

これは、あらゆる教養書、文学の名作を「役に立つ」ように読み解こうという試みで、もともとビジネス書、実用書でないものから実利的な視点を抜き出したところに目新しさがあります。

とくに、土井が共感したのは、「まえがき」で著者が書いている以下の部分。

「プラグマティズム(実用主義)や功利主義の背後には目に見えない真理がある。読書を通じてその真理をつかむことができる人が、目に見えるこの世界で、知識を生かして成功することができるのである。この真理を神と言い換えてもいい。功利主義者の読書術とは、神が人間に何を呼びかけているかを知るための技法なのである」

せっかちなビジネスマンは、すぐに書籍に「役に立つ」ことを求めますが、万人にとって役立つように見える書籍は、じつは役に立たない。

なぜなら、数多くの人が同じ情報を持つことによって、情報のうまみそのものが消えてしまうからです。

成果の大半はどのシステムを選択するかで決まる、という現実を考えれば、学ぶべきはわれわれが属するシステムである資本主義そのものであったり、宗教の考え方だったりする。

本書はまさにそれを読み解くための教養書なのです。

相変わらず手軽に役立つことを求める方は、ノウハウ書を読めばいい。

でも、この機会に教養を身につけ、他者に先んじてシステムの裏をかきたい、という方には、本書は絶好の読み物だと思います。

ぜひ読んでみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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読書には、大きな罠がある。特に、読書家といわれる人がその罠に落ちやすい。読書はいわば「他人の頭で考えること」である。従って、たくさんの本を読むうちに、自分の頭で考えなくなってしまう危険性がある

目に見えるものの背後に、目に見えない現実があると私は信じている。思いやり、誠意、愛などは、「これだ」といって目に見える形で示すことはできないが、確実に存在する現実だ

『資本論』第一巻
資本主義も、商品が売れなくてはシステムとして成り立たないのであるから、商品から貨幣に必ず姿を変えることができる(『資本論』の用語では変態)と仮定するところに「生命がけの飛躍」、すなわち宗教としての要素が含まれているのである。この宗教が崩れたときに起きるのが恐慌とその結果引き起こされる大量失業だ

マルクスの天才的着眼点は、分析の出発点に資本ではなく、商品を据えたことだ。<何事も初めがむずかしい、という諺は、すべての科学にあてはまる

『うずまき』1?3
純粋な資本主義がもたらす格差が、社会的弱者にどれくらいの痛みを与えるかについて、21世紀に生きている日本人は皮膚感覚で想像することはできない。仮に現実の貧困を経験していなくても、想像力によってそれを追体験することは可能である。それができなくなっているのは、当時の状況が語り継がれてこない、すなわち「伝承の断絶」が生じているからだ

『夢を与える』
夕子は芸能界で商品として通用しなくなる。それ故に人間性を回復する可能性が生まれることを暗示する。新自由主義的な競争社会から早く降りてしまえ、そうすれば人間を取り戻すことができるという声が、この作品の行間から聞こえる

『資本論に学ぶ』
<人口法則までは正しいのです。しかし窮乏化法則は、不断に生産方法が改善されていくという前提に立っている。しかし資本は不断に生産方法を改善してはいかないのです(中略)いっぺん資本を投じるとどうしても固定資本があるのです。この固定資本を無視して、新しい方法をどんどん採用していくということは資本主義にはできないのです。その点が、この窮乏化法則になる議論の落し穴になっているわけで、マルクスはそこをちょっと忘れてしまったんだな>

『負け犬の遠吠え』
ここで重要なのは、世の中の女性は「負け犬」と「勝ち犬」の2種類だけに分かれ、それ以外はいないという定義をしたことだ。これは、アリストテレス論理学で言うところの排中律に該当する。詳しく説明すると長くなるので、結論だけを言うと、アリストテレス論理学では、同一律、矛盾律、排中律の三つを満たせば、論理整合性が崩れない議論を組み立てることができる

『恐慌論』
結論から先に言うと、恐慌は好況期に起きる。資本は自己増殖を追求するので、生産を拡大する。ほとんどの生産手段(機械、原料など)は資本の力によって作り出すことができるのに対して、資本は労働力を任意につくりだすことはできない。従って、好況期には労働力不足が起こり、賃金が高騰する。その結果、資本家はいくら生産をしても利潤がでなくなり、恐慌が発生する。要するに資本は十分にあるのだが、社会システムがそれをうまく消化できないのである

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『功利主義者の読書術』新潮社 佐藤優・著
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4104752045
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◆目次◆
資本主義の本質とは何か
論戦に勝つテクニック
実践的恋愛術を伝授してくれる本
「交渉の達人」になるための参考書
大不況時代を生き抜く智慧
「世直しの罠」に嵌らないために
人間の本性を見抜くテクニック
「沖縄問題」の本質を知るための参考書
再び超大国化を目論むロシアの行方
日本の閉塞状況を打破するための視点

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