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版元訪問記 第5回

版元訪問記 第5回
PHP研究所
出版局 局長 安藤卓さん 企画部 部長 松本公一さん


出版局
局長 安藤さん

版元訪問記第五回は、松下幸之助の理念を現在でも脈々と受け継ぐPHP研究所、出版局の安藤さんと企画部の松本さんにお話をお伺いしました。

Q:出版社の歴史を教えてください。

昭和21年11月3日に、松下幸之助がPHP研究所を創設し、
昭和22年4月に、月刊誌『PHP』を創刊しました。 昭和47年から、出版点数が増えてきたため、初めて取次を使うようになりました。
出版社の形態をとり始めたのは昭和52年からですので、出版社としては、実は新参者です(笑)。

昭和43年に、初の書籍として松下幸之助著『道をひらく』を出版しました。
これは今までに450万部を記録し、弊所で最も売れた書籍です。
昭和50年代に入ると、松下幸之助著『商売心得帖』(85万部)、『社員心得帖』(45万部)、
『経営心得帖』(45万部)、『指導者の条件』(55万部)などのベストセラーも出ました。
最近では、樋口裕一著『頭がいい人、悪い人の話し方』が205万部を突破しており、
『道をひらく』に次ぐベストセラーとなっています。

文芸ジャンルにおいては、昭和46年に『PHP』誌に連載されていた吉岡たすく著
『小さいサムライたち』という子育てエッセイが30万部超、
昭和51年には、主婦である木村治美さんが執筆した『黄昏のロンドンから』が大宅賞を受賞し、27万部超となりました。

昭和52年、月刊誌『Voice』が政策提言誌として創刊され、ここから堺屋太一さんの『豊臣秀長』
(上下巻で100万部)、『知価革命』(60万部)などのベストセラーが生まれました。
その後も、柴門ふみ著『恋愛論』(90万部)、W杯で話題を呼んだ『ベッカム』(30万部)などがありますが、最近では皇太子殿下が朗読されて反響を巻き起こしたドロシー博士の『子どもが育つ魔法の言葉』(単行本150万部、文庫90万部)が順調に売れています。 

Q:PHP研究所は非常に規模の大きい組織ですが、出版事業の位置づけはどのようになっているのですか?

:弊所は、松下幸之助が提唱した「PEACE and HAPPINESS
through PROSPERITY」(物心両面の調和ある
豊かさによって平和と幸福をもたらそう」というPHPの考えを広める活動を行なっており、その中身は「研究」「出版・普及」「啓発・実践」の三分野に大別できます。
社長の江口は「トータルシンクタンク」を目指すといっていますが、出版活動はあくまでPHPの一つの事業にすぎないという位置づけです。

人員面からみると、創設当初は、松下電器からの出向者を中心に運営しておりましたが、現在、出版部門は、書籍の出版・雑誌の編集・営業を合わせて約150人です。
その他に、eビジネスやマルチメディア商品を扱うデジタル部門が約10人、企業を対象とした研修事業を行う部門が約20人、松下幸之助研究をはじめ、国家経営や地域政策などを研究するシンクタンク部門が約30人、「PHP友の会」や「心の電話相談室」などの社会活動部門が約10人、法人向けに直接PHPの理念を伝える直販の営業部門が約50人います。

Q:PHPは本をベストセラーにするためにどのような工夫をされているのですか?


:売れると見込んだ書籍をポイントとなる書店で仕掛け販売し、そこで売れると、さらに全国展開していきます。例えば、宇佐美百合子著『元気を出して』ですが、長野の平安堂安曇野店で若い女性の観光客に売れていたのをヒントに全国展開したところ、すぐに20万部のベストセラーになりました。

弊所では「売り伸ばし」といって、売れている本をさらに伸ばそうと、「普及員」が営業をかけます。ちなみに、書店を巡回する普及員は20人ほどいます。普及員たちは自分たちで売り上げの目標値を定め、それを達成するためにさまざまな仕掛けをします。そして、目標値が達成されたら、また新たな目標値を定めて、全国の書店に営業して回ります。

2004年6月に発売され、現在205万部を記録している『頭がいい人、悪い人の話し方』は、当初から着実に売れていたのですが、自社に同系統の本で売れている書籍があったため、「これはいける」ということになり、ある書店さんの店頭で、ワゴンに本を積んで販売してもらいました。そうしたところ、期待以上の売り上げが出たので、他の書店さんでもこぞってワゴン展開してもらいました。当初の目標である10万部を突破したのを機に、新聞広告を掲載し、次なる目標である20万部を目指しました。

その後、9月になって日本経済新聞の「ベストセラーの裏側」という記事で初めてメディアに取り上げられ、100万部という目標が見えてきたのです。メディア掲載後は、新聞広告掲載の三日前に毎週15万部の増刷をし、それが一週間で売り切れては、また増刷をして、また新聞広告を……ということを繰り返しました。結局、40回は全国紙に広告を掲載したと思います。このような工程を経て、現在の205万部という売り上げを達成したのです。

Q:PHPが強いジャンル・最近売れているジャンルを教えてください。

強いジャンルを強いて挙げるならば、「自己啓発モノ」「教育」でしょうか。最近売れているものは、書籍よりもMookモノ、弊所で「図解シリーズ」と呼んでいるものですね。『[図解]「なぜか仕事ができる人」の習慣』は発売1カ月で12万部を突破しています。図解モノはコンビニルートでもよく売れるので、通常の書籍に比べ、売れる部数が違います。初版から2万部を刷って、たいていの図解シリーズは5万部はいきます。

Q:PHPで絶対にこれは出版しないというジャンルはありますか?

政治や社会への批判や提言は構わないのですが、特定の個人や特定の会社・組織を批判したり、誹謗中傷したりする本は出しません。そして、どんなに良い企画でも、弊所の理念にそぐわないものは出版しません。また、松下幸之助は生前、「下半身」を扱う商品は出すなといっていたらしく、それも不文律になっています。もともと「世のため、人のため」になるような商品を出すということで創設された会社ですから、読者にとって、生きる糧になるもの、人生や仕事の役に立つものでなくてはダメですね。

Q:今後、どのような著者さんに出会いたいですか?

ポリシーのある経営者の方にお会いしたいですね。弊所では稲盛和夫『心を高める、経営を伸ばす』、永守重信『情熱・熱意・執念の経営』、鍵山秀三郎『鍵山秀三郎「一日一話」』など、名経営者の本もたくさん出してきました。

最近はIT関係の経営者がたくさん出てきていますが、本物かどうかを見定めているうちに他社さんから本になるケースが多く、後手に回ってしまっています。その意味では、マスコミの評判ではなく、編集者自身が経営者に会って、その人物を鑑定する眼を持つ必要があると思います。

一方で、弊所は扱うジャンルが多いためか、持込原稿が非常に多いのです。一日に3~4作は企画書や持ち込み原稿が届きます。二週間に一度はさらっと目を通しますが、出版されることはほとんどないですね。基本的に自分が書きたいことを書いているだけで、読者が求めているものというか、マーケット的視点に欠けた原稿が多いように思います。ただ、持ち込み企画でも、まれに、笠巻勝利著『仕事が嫌になったとき読む本』のように文庫とあわせて47万部超のような作品もありますので、無視できないのはたしかです。

Q:PHP研究所の今後の展望を教えてください。

いままで弊所の出版点数にしめる小説の比率はたいへん少なかったのですが、今年(2005年)は、10月に『文蔵』という月刊文庫を創刊します。北方謙三さんや山本一力さんといった大御所から、『四日間の奇跡』で有名な朝倉卓弥さん、そして神田昌典さんや本田健さんも意欲的な野心作を発表してくれる予定です。
その他の動きとしては、ビジネスマン向けの新書というジャンルも開拓する予定です。
来年、創立60周年を迎えるので、新しい試みに期待してください。


                           
お忙しい中、ありがとうございました。

 

 

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→第2回 フォレスト出版 編
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