版元訪問記 第1回
ダイヤモンド社 出版事業局 第一編集部 編集長 今泉憲志さん
第1回目は日本のビジネス書の歴史を作ってきた、ビジネス書業界のトップブランド、ダイヤモンド社です。第一編集部の編集長、今泉さんにお話をうかがいました。
Q.まずは、ダイヤモンド社の歴史について教えていただけますか?
A.なにぶん歴史が古いもので、生きている人間ですべて知っている人はいないのです(笑)。
ダイヤモンド社の「七十五年史」を紐解きながら、お話しましょう。
弊社の設立は大正2年。創業者・石山賢吉が「ダイヤモンド」誌を創刊したのがその始まりでした。「ダイヤモンド」は今でこそ週刊誌ですが、最初は月刊の株情報誌としてのスタートしたんです。創業当時のオフィスは京橋にあったようです。
Q.書籍を始めたのはいつからですか。
A.大正4年に出された、石山賢吉による『決算報告の見方』が単行本第一号とされています。
本格化したのは、昭和二十年代の後半で、昭和28年に出されたフランク・ベトガー著『私はどうして販売外交に成功したか』、29年に出されたC・M・ブリストル著『信念の魔術』、N・V・ピール著『積極的考え方の力』がいずれも大ヒットしたようです。
Q.これまでの歴史を語る上で欠かせないベストセラータイトルを教えてください。
A.ダイヤモンド社の書籍を語る上で欠かせないのは、やはりP・F・ドラッカーでしょう。昭和31年に刊行した『オートメーションと新しい社会』を皮切りに、昭和40年『現代の経営(上・下)』、そして昭和44年には空前のベストセラーとなる『断絶の時代』を出しました。この本の売れ行きは本当にすごかったようで、ラーメン一杯100円の時代に、2400円の本が40万部超。当時は霞ヶ関に本社があったのですが、おかげでビルがひとつ建ったといわれるぐらい、良く売れたそうです。当時のやる気あふれるビジネスパーソンがこれらの本をこぞって読み、幹部になった後も薦めてくださったお陰で、ドラッカーの著作群は今日のようなロング&ベストセラーとなっているのです。ここ数年でも『プロフェッショナルの条件』や『ネクスト・ソサエティ』は20万部を超えています。
Q.ドラッカー以外のベストセラーというのは。
A.社歴が長いのでいろいろあるのですが、エポックメイキングなものとしては、環境本の走りと言えるローマ・クラブ『成長の限界』、経営者本の名著リー・アイアコッカの『アイアコッカ―わが闘魂の経営』、トヨタ本の原点となった大野耐一『トヨタ生産方式』などが挙げられます。戦略書の定番マイケル・ポーターの『競争の戦略』も売れ続けていますね。近年では、カルロス・ゴーン『ルネッサンス』も初の自著として話題を呼びました。あと、最近のベストセラーといえば何と言ってもエリヤフ・ゴールドラットの『ザ・ゴール』です。50万部を超え、シリーズである『ザ・ゴール2』『チェンジ・ザ・ルール!』『クリティカルチェーン』はどれも10万部以上売れています。ゴールドラットは今やドラッカーと並ぶ弊社の代表的著者とさえいえますね。
Q.ダイヤモンド社というと、堅い本のイメージがありますが、絶対に出さないジャンルやテイストというのはあるのですか。
A.堅いイメージがあるとはよく言われるのですが、じつはそんなに堅くない本も多いんですよ。たとえば弊社の一つの柱である広い意味での自己啓発書などは、とても身近で読みやすいものが多いと思います。先ほどの『信念の魔術』や『積極的考え方の力』もそうですし、昭和57年に出た鈴木健二『自分学のすすめ』などは50万部のベストセラーになっています。このあたりは今後も狙っていきたいジャンルですね。また、小説やエッセイなどもちょくちょく出していますし、社内の他編集部からはアイドル写真集も出ています。ですから、うちが絶対にやらないというと・・・アダルトものですかね(笑)。
Q.著者が企画を持ち込んだ際に、テーマ的にこんなものが受け入れられやすい、というのはありますか。
A.色々なジャンルの本を出しているとは言いましたが、やはり我々にとって最も重要な柱はビジネスパーソンに向けて有用な情報を提供し続けることです。そこが強みでもありますから。したがって、企画提案していただくとすれば、経営、経済、自己啓発といった大きな枠組みに含まれる、マーケティング、経営戦略、リーダーシップ、セールス、会計、経済予測、ファイナンス、マネー関連、ライフスタイル、心理HOW
TO等々、いつの時代でもビジネスパーソンが気になるテーマが有り難いです。それぞれ実に普遍的なテーマですが、そのなかでも質が高いものを、時代のテイストに合わせて刊行していきたいと考えています。たとえば、最近出た『駆け出しマネジャー
アレックス』シリーズはその好例でしょう。3冊のシリーズ本ですが、リーダーシップ、コーチング、モチベーションという普遍的テーマを、ストーリー形式でコンパクトにまとめたものです。質の高さと読みやすさを土井さんのメルマガでも誉めていただき、お陰様で売れています(笑)。
Q.著者の発掘はどうやって行っているのですか。
A.新聞、雑誌、本、テレビ、インターネットといった各種メディアで面白い書き手やテーマを探るのが基本ですね。そのあたりは編集者個々人の努力に任せています。また、お付き合いのある著者から新たな方をご紹介いただくケースも非常に多いです。あと、持ち込み原稿が本になることも結構ありますね。ですから持ち込みは大歓迎ですよ。さらに、最近の傾向として増えているのは、土井さんの会社のようないわゆる企画エージェントと呼ばれるところからのご紹介です。ベストセラーとなった『世界No.2セールスウーマンの「売れる営業」に変わる本』も、企画エージェントから提案していただいたものです。これからも、そういうエージェントさんとは積極的にお付き合いしていきたいですね。
|