2025年4月16日

『なぜ超一流選手がPKを外すのか』 ゲイル・ヨルデット・著 福井久美子・訳 アーセン・ベンゲル・序文 vol.6701

【プレッシャーの心理学】
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本日ご紹介する一冊は、ノルウェースポーツ科学学校教授で、心理学とサッカーの関係を研究している、ゲイル・ヨルデット氏による注目の一冊。

著者は、過去のPK動画を2000本以上視聴して詳しく分析、トップレベルの選手たち30人以上にインタビューもしており、その知見はサッカー界に多大な影響をもたらしています。

これによると、森保監督がW杯のPK戦で蹴りたい選手を募ったのは、明らかな失敗だったということがよくわかりますね。

その理由は、ざっくり以下のようなものです。

・がんばって手を挙げた選手は、最高のキッカーではない場合がある
・監督の仕事は選手の重圧を和らげることであって、加えることではない
・PK戦に関する基本方針がチームにないことがはっきり露呈してしまう(他)

本書には、人間がプレッシャー状態でパフォーマンスを上げるにはどうすればいいのか、プレイヤー、マネジャー双方が知っておくべきヒントが書かれています。

経験の浅い選手がドリブルの技術を一つひとつ着実にこなしているか注意するとパフォーマンスが向上するのに対し、熟練の選手ではかえってパフォーマンスを落とすこと、否定表現で願うと皮肉な結果に終わること、視線固定/視線回避がパフォーマンスに影響することなど、研究結果からわかったさまざまなファクトが書かれており、じつに興味深い内容です。

PK成功率86.6%を誇るハリー・ケイン(プレミアリーグでは驚異の89.2%)、主にブンデスリーガで87本のPKを蹴って89.7%の成功率を誇るロベルト・レヴァンドフスキなど、「PK職人」と呼ばれる人たちが何をやっているのか、反対に優れたゴールキーパーが何をやっているのかなど、ちょっとマニアックな話も、好奇心を刺激します。

また、優れたチームがプレッシャーを跳ね除けるために何をやっているのかなども書かれており、マネジャーにとっても示唆するところの多い内容だと思います。

サッカー専門の先生ということもあり、ややデータや事実関係の記述が煩雑な印象がありますが、サッカーファンはむしろ、過去の名場面を振り返り、楽しめるのではないでしょうか。

さっそく、本文の中から気になる部分を赤ペンチェックしてみましょう。

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ドリブルの実験では、熟練の選手がドリブルをする時に、技術を一つひとつ着実にこなしているか注意し観察するとパフォーマンスが低下する。他方で、経験の浅い選手が同じように技術に注目すると、パフォーマンスが向上する

否定表現で願うと皮肉な結果に終わる

プレッシャーを脅威と感じた人は視線固定が短くなり、おもしろそうだと感じた人は視線固定が長くなる可能性が高い(中略)つまり、プレッシャーがかかる状況下では、人間は不安に駆られるあまり、良いパフォーマンスに必要な重要な情報を注意深く見ること(視線固定)ができなくなる

キックする前に比較的長い時間GKから顔を背けていた選手や、下を向いていた選手は、他の選手よりもPKの失敗率が高いことがわかった

概してキッカーが取る間が長ければ長いほど、パフォーマンスも上がる傾向がある

われわれの調査結果では、FW(80%の成功率)の方がDF(67.7%の成功率)よりも得点力が高かった

イングランドのプレミアリーグとポルトガルのプリメイラ・リーガでのPK結果を調べた研究によると、ゴール内の一番高いゾーンをねらってボールを蹴る方がいいという。また、高いところをねらってボールを打ち上げてしまうリスクは、低いところをねらってGKにセーブされるリスクよりも低いとも書かれている

遠藤と会った時に、あんなに長い間を取った理由を尋ねた。彼はまず、GKに予測されないようにしたかったのだと語った。「主審のホイッスルのあとすぐにキックしたら、キーパーがタイミングを合わせやすくなりますからね(以下略)」

有名なゴルフ心理学者のボブ・ロテラ博士は、一流ゴルファーのマインドセットについて次のように述べている。「不確実性に対してワクワクするとか、これは役に立つとか、よし来たなどと反応する方法を学ぶ必要がある」

GKがゴールラインの中央からややずれた位置、キッカーが意識的に気づかないような微妙な位置で構えると、キッカーがわずかに広い側のスペースにボールを蹴る確率は60~64%になる

8秒以上待たされたPKキッカーの得点率はわずか44%

経験を積んだアスリートは、刺激駆動型(他者の行動に注意を払ってしまう傾向)に陥りにくく、目的指向型(目の前のタスクに注意を払い続ける傾向)を維持しやすい

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読み物としては、ちょっと中だるみする印象がありますが(サッカーに詳しい人は多分大丈夫)、それを超える知的な面白さがある本だと思います。

教訓やノウハウをまとめてくれたらもっと良かったのですが、そこは次回作に期待しましょう。

自分のパフォーマンスを上げるために、ぜひ、読んでみてください。

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『なぜ超一流選手がPKを外すのか』
ゲイル・ヨルデット・著 福井久美子・訳 アーセン・ベンゲル・序文

<Amazon.co.jpで購入する>
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◆目次◆

アーセン・ベンゲルによる序文
序 章
第1章 襲いかかるプレッシャー
第2章 プレッシャーをコントロールせよ
第3章 プレッシャーにつけ込む 
第4章 チームで団結してプレッシャーに立ち向かう
第5章 プレッシャー対策
第6章 プレッシャーのマネジメント
エピローグ
謝辞
参考文献
訳者あとがき

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