2025年3月31日

『西洋の敗北』エマニュエル・トッド・著 大野舞・訳 vol.6689

【日本が罠に嵌められる前に。】
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本日ご紹介する一冊は、フランスの歴史人口学者・家族人類学者である、エマニュエル・トッドによる話題の書。

著者は1976年の著書『最後の転落』でソ連崩壊を、『帝国以後』(2002年)で米国発の金融危機を予言してきた論客ですが、本書では、アメリカ・欧州の凋落と、今後の世界の行方について論じています。

ウクライナ戦争において、日本のメディアでは、ウクライナに同情する論調が多かったわけですが、どうやら事はそう単純ではない。

本書では、なぜロシアが西洋諸国の経済制裁に屈しなかったのか、なぜインドやイラン、サウジアラビア、アフリカがロシアの保守主義を支持したのか、単純ではない理由を解説しています。

著者の専門である歴史人口学の視点、家族人類学の視点で世界を見ると、世界が鮮やかに分離し、違った視点で見えてきます。

また現在、日本人は必死にドルを買って海外投資をしていますが、なぜ世界でドル離れが進むのか、恐ろしい理由が論じられています。

日本のIT政策、防衛政策についても、考えさせられる内容ですね。

著者はまえがき「日本の読者へ」で、こんな気になることを書いています。

<日本はドイツと同じく、NATOが崩壊することでアメリカの支配下から解放されるだろう。しかし日本はそれによって、韓国ととともに、中国と独力で向き合わなければならなくなる>

<西洋の敗北は今や確実なものとなっている。(中略)しかし、一つの疑問が残る。日本は「敗北する西洋」の一部なのだろうか>

日本の未来を憂う人なら、ぜひ読んでいただきたい。

今、われわれが直面する危機の実態がよくわかるはずです。

また、本書を読むことで、いかに社会において中間層が重要なのか、よくわかると思います。

現在、経済産業省を中心に、書店振興プロジェクトが推進されていますが、スマホなんていじってないで本を読まないと、本当にヤバいことになりそうですね。

さっそく、本文の中から気になる部分を赤ペンチェックしてみましょう。

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兄弟間が不平等な日本の「直系家族構造」(ドイツと非常に類似している)は、中国やロシアのように兄弟間が平等な「共同体家族構造」とは明確に区別される。また「直系家族構造」は権威主義的な側面を持つため、イギリス、アメリカ、フランスなどの平等主義で個人主義的な「核家族構造」とも一線を画している

中流階級に属する人々が、富裕層と貧困層の双方の合計、あるいは富裕層、貧困層のどちらか一方に対して数的に上回っているならば、安定した政治を行える。富裕層と貧困層が協調して中流階級に対抗する恐れなどいっさいないからだ

トゥルトリの議論からもわかるように、二〇一四年の西洋による経済制裁は、ロシア経済に多少の困難をもたらしたが、同時にチャンスも与えたのだ。制裁により、ロシアは輸入品の代替品を見つけなければならず、国内での再編成を余儀なくされた

エンジニアは米国よりもロシアの方が多い

アメリカが見落としていたのは、国民の教育と技術の水準が高い国家は、人口が減少しても、すぐには軍事力を失わないという点である

教育面の遅れを典型的に示すものとして、小規模の中流階級にユダヤ人が過度に多い点が挙げられる(中略)一九三〇年頃、ユダヤ系人口は、ポーランドでは全人口の九・五%を占め、ワルシャワでは三〇%を占めていた

マックス・ウェーバーは、プロテスタンティズムとヨーロッパの経済発展のに関係性を見出した。しかし彼は、微妙な神学的ニュアンスに西洋の経済的離陸の理由を求めるうちに道に迷ってしまったようだ。本質的な要因はもっとシンプルで、プロテスタンティズムは支配下にある人々を常に識字化する、という点にある

社会が個人単位に解体されれば、国家機関が特別な重要性を担うようになる

ヨーロッパの富裕層の資産の六〇%(ズックマンが示した割合)が、アメリカの上位機関の慈悲深い監視の下で増えているとすれば、ヨーロッパの上流階級は、精神的、戦略的な自立性をすでに失っていると言える。しかし、より危険なものは他にある。アメリカ国家安全保障局(NSA)による監視である

ロシアの下院で可決され、ますます抑圧的になっていく同性愛やトランスジェンダーの権利に関する法案は、ロシアの酷さを世界に示すものだと西洋人は捉えている。しかしそれは間違いである。ホモフォビア政策や反トランスジェンダー政策は、地球上の他の国々を自国から遠ざけるどころか、むしろ自国に近づけるものであることをロシアは知っている

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税込2860円。しかも400ページを超える大著ということで、読むのにも骨が折れますが、これは無料メディアでは決して読むことのできない内容だと思います。

Xで極端な議論に惑わされず、日本国にとって何が正しいのか、日本人としてどんな政策を支持するのか、考える良いきっかけになる本だと思います。

ぜひ、読んでみてください。

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『西洋の敗北』エマニュエル・トッド・著 大野舞・訳 文藝春秋

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◆目次◆

日本の読者へ 日本と「西洋」
序 章 戦争に関する10の驚き
第1章 ロシアの安定
第2章 ウクライナの謎
第3章 東欧におけるポストモダンのロシア嫌い
第4章 「西洋」とは何か?
第5章 自殺幇助による欧州の死
第6章 「国家ゼロ」に突き進む英国 亡びよ、ブリタニア!
第7章 北欧 フェミニズムから好戦主義へ
第8章 米国の本質 寡頭制とニヒリズム
第9章 ガス抜きをして米国経済の虚飾を正す
第10章 ワシントンのギャングたち
第11章 「その他の世界」がロシアを選んだ理由
終 章 米国は「ウクライナの罠」にいかに嵌ったか 一九九〇年-二〇二二年
追 記 米国のニヒリズム ガザという証拠
日本語版へのあとがき

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