2022年5月24日

『キリンを作った男』永井隆・著 vol.6002

【必読。伝説のヒットメーカー初の評伝】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4833424606

本日ご紹介する一冊は、「一番搾り」「淡麗」「氷結」を生んだ稀代のヒットメーカーでありながら、社内政治的には不遇だったキリンのヒットメーカー、前田仁氏の初の評伝。

著者は、『サントリー対キリン』『アサヒビール30年目の逆襲』はじめ、ビール業界を追った著者の多い、ジャーナリストの永井隆氏です。

トロイア戦争の英雄、アキレウスは武勇に長け、味方の士気を上げる人物として描かれ、ギリシャ側の総大将アガメムノンは政治に長けた人物としてホメロスの『イリアス』に描かれていますが、本書は間違いなくアキレウス派にとって、テンションが上がる一冊です。

王者キリンの足枷となった過去の成功体験と戦い、キリンの戦後最大のヒット商品となった「一番搾り」を開発、にもかかわらず左遷され、本社に再び舞い戻って最年少のマーケティング部長としてキリンを窮地から救ったヒーローが、何を見つめ、何を部下に語っていたのか。関係者への丹念な取材をもとに書き下ろされた、力作ノンフィクションです。

ここまで多くのヒット商品を世に出しながら、あまり知られることのなかった稀代のヒットメーカー、前田仁氏。

その目には、時代がどう見えていたのか、彼が商品開発、マーケティングにおいて重要視していたことは何だったのか。

ビジネス視点で見ても、読み応えのある内容です。

ノンフィクションとして読んでもドラマチックな内容で、特に後半部分は感動抜きでは語れません。

さっそく本文のなかから、気になったところを赤ペンチェックして行きましょう。

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「ハートランドの本当の狙いは、主力商品のラガーをたたき潰すことにあったのです。これは社内でも数人しか知らない極秘作戦でした」

「(略)ABC分析は、限られた商品群の中での売れ筋、死に筋分析です。他にもっと売れ筋があるかも分かりません。従って、Cランクの商品やメニューの入れ替えではなく、Aランクのものをリフレッシュすることこそ重要です」(「思考の技術について」)

特徴は「新機軸」だ。好転期には人々の消費マインドが、新しいものを受け入れるほうに変わるのだろう

「ドライビールなど出すべきではなかった」(中略)3社が後追いしたことで、ドライというジャンルが確立し、先発の「スーパードライ」だけ売れる結果になった

一番搾り麦汁だけを使うという発想は、舟渡がリストアップした「ロングセラーの条件」のうち、「オリジナリティ」の点で優れていた

「たしかに『一番搾り』は最大の特徴だ。ただ、製法を名前にしたビールなんて前例がないよ」(中略)否定的な意見ばかりが続いたのち、紅一点の福山紫乃がこう言った。「私は素敵な名前だと思います」

大麦そのものは通常のビール造りでは使わない。そのため調達が難しく、値段も高かった。しかも、工場での取り扱いが難しいという問題もあった。それでも前田は、「淡麗」に大麦を使うことにした(中略)「大麦を使った淡麗は、本格感のある味になりました。それはつまり、従来の発泡酒とは違うカテゴリーを創出したということです」

前田さんはよく『もっとダサくしろ。カッコよすぎるものに、人は親しみを覚えない』と言っていました

鬼頭には「先入観」のようなものが希薄だった。缶チューハイについても、ゼロベースで自由な発想を展開する。その一つの成果が、ウオッカの使用だった。他社の缶チューハイと違い、「氷結」はベース酒に焼酎ではなくウオッカを使った

「ついに、アサヒに勝った!」キリン社内が喜びに沸く直前の、20年6月13日。前田は愛する家族に見守られながら、この世を去った。死因はすい臓がんだった。享年70歳。「マーケティングの天才」にとって、あまりにも早すぎる最期だった

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著者は、あとがきにこう書いています。

<筆者にはキリンを批判する気持ちは毛頭ない。それでも、あえて「闇」を描かなければ、前田仁という「光」を、説得力を持って浮き彫りにすることはかなわなかった>

その言葉通り、本書には成功体験に囚われた大企業の「闇」と、それに対比する形で未来に向かうビジョナリーの姿が描かれており、停滞する日本に、一つの道標を示してくれています。

前田仁氏は、2020年6月13日に惜しくも70歳で世を去っていますが、生前に一度お会いしたかったと、ただただ後悔しています。

同様の気持ちを抱える読者にとって、本書は前田仁氏を知る、貴重な一冊です。

ぜひ読んでみてください。

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『キリンを作った男』永井隆・著 プレジデント社

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◆目次◆

第1章 打倒「ラガー」極秘作戦
第2章 大いなる助走
第3章 「スーパードライ」の衝撃
第4章 「一番絞り」が生まれた日
第5章 首位陥落
第6章 天才の帰還
第7章 ホームランバッターの嗅覚
第8章 「異質」が生んだ「氷結」
終章 昔話では食えない

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