2022年1月19日

『失敗から学ぶマーケティング』森行生・著 vol.5921

【これは「買い」です。】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4297124599

本日ご紹介する一冊は、2000年のネット黎明期に話題となったベストセラー、『シンプルマーケティング』の著者による、注目の大作。

※参考:『シンプルマーケティング』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4881359428

著者の森行生さんは、米国デューク大学にてコンピュータ工学および経済学をダブル専攻。大手嗜好品メーカー、外資系パッケージグッズメーカー、大手マーケティングコンサルティング会社を経て、1992年にブランドおよび事業戦略のコンサルテーションを行うシストラットコーポレーションを設立した、マーケティングの専門家です。

執筆するにあたり、マーケティングの失敗事例を300以上ピックアップし、じつに1000ページ以上を書いたなかから、削りに削って500ページに凝縮したという「怪物本」ですが、事例も文章もじつに面白い。

分厚い本なのに、分量がまったく気にならないどころか、無限に読んでいたいほどエキサイティングでした。

まずい広告戦略を続けたキリンラガービールの失敗と、アサヒスーパードライの台頭、ゲームのルールが変わったことに気づかなかったウォークマンの失敗とiPodの成功(ダブルイノベーター理論)、「1・5秒に1本売れているノンシリコンシャンプー」のコピーで市場に乗り込んできたレヴールと、対応をしくじった花王・資生堂、成長期に差別化してしまって失敗したサムスンGalaxyとiPhoneなど、興味深い歴史的マーケティング事例と、そこから学ぶ定石が、丁寧にまとめられています。

U&E、イノベーター理論、ダブルイノベーター理論、価値観分類、認知ベース行動、プロダクトライフサイクル理論、クープマンの目標値、プロダクトコーン理論、ブランディング、コンセプトの鈍化、意識のブリッジ理論、Lて山スラッシュ理論、差別優位性、DCCM理論、守りと攻めの戦略…。

著者独自の言葉もありますが、これらのうち、一つでもわからない理論・言葉があれば、読むことをおすすめします。

また、著者は本書のなかで、かなりの数の企業、商品の成功/失敗を実名入りで論じており(現在進行系もある)、名指しされた企業、商品開発者、マーケティング責任者にとっては、読まずにいられない一冊だと思います。

個人的には、「余談ですが」で始まるマーケティングよもやま話が気に入りました(笑)。

さっそく本文のなかから、気になったところを赤ペンチェックして行きましょう。

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特に、競合他社が広告を出稿していない商品ジャンルでは、テレビ広告の効果は顕著

おもに東日本で活動するシマダヤは、めん類で第2位の売上を誇りますが、テレビ広告をほとんど出稿しておらず、スーパーの売場面積を確保することに注力しています。テレビ広告を主軸に戦略を構築する1位の東洋水産とは大きく異なる戦略です。実際に、スーパーのうどん売場はシマダヤの独壇場で、東洋水産を大きく引き離しています

コンバージョン・レート(トライアル+知名度)が競合他社の平均より低い場合は、「名前は知られているのに、一度も買われていない」ことを意味します。つまり、商品の特徴が伝わっていない、商品の見せ方に問題があることを意味しますから、広告やコミュニケーションの問題です。一方のリテンション・レート(レギュラー+トライアル)が低い場合は、「一度買ったのに、二度三度買ってくれない」状態です。つまり、商品の品質に問題があります

ラガーは逃げたイノベーターを奪還すべきだったのに、人口の多さに目がくらみ、「フォロワー」と呼ばれる、その他大勢の一般大衆をターゲットにしてしまいました

一般的に、「売れています」「大好評」といったコピーは、他人のことなど無関心なイノベーターにはまったく刺さりません。「みんなが買っているから」「遅れたくない」と同調することに価値がある、フォロワー専用のコピーです

不幸にして、競合他社が革新型イノベーターを掘り起こす商品を世に出してしまったらどうするか。(中略)間髪を入れず、類似商品でもかまわないので、即座に対応商品を投入してぶつけるのが正解です。下手に差別化することを考えて商品化が遅くなるのは悪手です

2010年代に急激に普及した商品といえば、スマートフォンを置いてほかにありません(中略)現在残っている国産メーカーは、ソニー、シャープ、富士通、京セラの4社のみです。技術力に定評があった国産メーカーなのに、いったいどうしたのでしょうか。最大の失敗理由は「成長期に差別化してしまった」ことです

・導入期にはターゲットをイノベーターに設定して、訴求ポイントは規格が有効
・成長期にはアーリーアダプターがターゲットで、訴求ポイントはベネフィットが有効
・成長期後期からはフォロワーがターゲットで、訴求ポイントはエッセンスが有効

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売れ行きを確認したところ、内容の割に売れていないようですが、それは本書が「失敗から学ぶ」というコンセプトを採用したためだと思っています。(ネガティブなものは売れない)

マーケティングの定石と事例をまとめた基本書として売り出せば、10倍売れていい本だと思います。

中身のクオリティ、実用度、ボリュームどれをとっても「買い」の一冊です。

ぜひ読んでみてください。

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『失敗から学ぶマーケティング』森行生・著 技術評論社

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◆目次◆

1 知られなければ「ない」のと同じ
2 生活者を見誤る
3 市場を見ずに突っ走る
4 商品の健康診断をサボる
5 競合商品にも顧客がいることを忘れる

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