2021年1月29日

『起業の天才』大西康之・著 vol.5685

【必読のノンフィクション】
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本日ご紹介する一冊は、日本が生んだ稀代の起業家であり、8兆円企業リクルートを創った男、江副浩正氏の評伝。

著者は、ノンフィクションの名手として知られる、ジャーナリストの大西康之さんです。

江副浩正氏、およびリクルートについて書かれた本は数多くあり、江副氏本人も自伝『かもめが翔んだ日』を書かれていることから、「いまさら」感があるかと思いますが、本書の主眼は違うところにあると推察します。

※参考:『かもめが翔んだ日』
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本書で書かれているのは、江副浩正、森田康(日本経済新聞)、真藤恒(NTT初代社長)といった、昭和を代表する起業家が見ていた情報産業の未来と、それを潰した日本の古い産業社会。

本来ならシリコンバレーになれたはずの日本が、30年も低迷したことへの批判が書かれていると見て間違いないでしょう。

昔、あるイベントでソニーの元役員と名刺交換したら、「出版。虚業か」と一蹴されたことがありますが、彼らのような人たちが、日本の情報化を遅らせ、現在の体たらくを招いたと言っていいでしょう。

政治家、官僚、産業界が揃って未来の芽を摘み、古い産業を保全するのに貴重な税金を使う現在の日本。

天才を殺し、保身に走る日本社会への批判が込められた、痛烈な一冊だと思います。

さっそく、本文の中から、気になった部分を赤ペンチェックしてみましょう。

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大学を出てすぐに自分の会社をつくった江副さんは、ゾウが「人間とはなにか」が分からなかったのと同じで、「経営者とはなにか」がよく分からなかった。「自分は経営が分かっていない」という欠乏感の塊でした。(中略)それゆえ、リクルートは「ファクトとロジック」「財務諸表と経営戦略」の会社になりました(瀧本哲史氏)

1987年にファイテルを買収した江副は、ニューヨークとロンドン、そして日本の川崎に「テレポート(通信機能を備えた巨大コンピューター基地)」を作り、3つの拠点を国際回線で結んで金融機関などにサービスを提供しようとしていた

日本はいつから、これほどまでに新しい企業を生まない国になってしまったのか。答えは「リクルート事件」の後からである。リクルート事件が戦後最大の疑獄になったことで、江副が成し遂げた「イノベーション」、つまり、知識産業会社リクルートによる既存の産業構造への創造的破壊は、江副浩正の名前とともに日本経済の歴史から抹消された

江副は「均質化」を恐れた。東京の裕福な家庭で育った東大卒ばかりを集めたのでは、霞ヶ関と変わらない。時代を切り開くパワーは生まれてこないだろう。「人事の天才」江副は、「東京、金持ち、エリート」に「地方、貧乏、野望」をぶつけて化学反応を起こそうと考えた

「日経とリクルートが組んで、なぜ地図なんだ」両社の社内でも、森田と江副の意図を測りかねる声が上がったが、ネット時代を生きているわれわれには馴染み深い。森田と江副は「グーグル・マップ」をやろうとしたのである

日本では「第二の波」が「第三の波」を押し戻した。「産業社会を存続させようとする人」が岩盤のように立ちはだかり、変化を拒んだのだ。振り返れば、これが日本経済の長き敗北の始まりだった

開拓の国アメリカの根底には、ならず者への畏敬がある。従順なサラリーマンからイノベーションが生まれないことを知っているからだ。リクルートの社員にも「ならず者」の矜持があった。江副はその親分だった。しかしわれわれ日本人はならず者が嫌いだ。晩年までならず者の江副とプライベートな付き合いがあった東正任は言う。「江副さんは、寂しがり屋だった」未公開株をばら撒いたならずものは、愛されることにあまりにも不器用だった

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「はじめに」で、お亡くなりになったエンジェル投資家、瀧本哲史氏の江副浩正評を持ってくるあたり、さすがノンフィクション本でベストセラーを連発している加藤企画編集事務所。

本書も、発売前に3刷を決めたようで、話題になること、間違いなしです。

起業家はもちろん、起業家を育てる立場にある投資家、官僚、政治家にぜひ読んでいただきたい一冊です。

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『起業の天才』大西康之・著 東洋経済新報社

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◆目次◆

はじめに 江副浩正は「服を着たゾウ」
     ーー瀧本哲史氏インタビュー
序章 ふたりの天才
主な登場人物
第1部 1960
第2部 1984
第3部 1989 昭和の終焉・平成の夜明け
エピローグ
江副浩正 関連年表
参考文献

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