2020年5月14日

『恐怖の構造』平山夢明・著 vol.5513

【人気ホラー作家が語る「恐怖」の仕組み】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4344985087

若い頃、ホラー漫画や小説を読むのが好きで、「いつかまた、ホラーが流行る時が来ないかなあ」と思っていましたが、ひょっとしたらコロナで人類が不安になっている今が、その時かもしれないと思うようになりました。

本日ご紹介する一冊は、人気ホラー作家、平山夢明さんが、『エクソシスト』や『サイコ』など、ホラーの名作を例に取りながら、『恐怖の構造』を明らかにした一冊。

人間を恐怖に陥れる原理とは何か、優れたホラー小説、映画はなぜ怖いのか、そして人はなぜホラーを欲するのか。

漠然と疑問に思っていたことが氷解し、目から鱗がポロポロ落ちる内容でした。

本書は2018年に出されたものですが、まるでコロナを予言していたような記述が出てきます。

<時代感覚に照らして「これから出てきそうだな」と思うのは、空からなにかが降ってくる物語でしょうか。ミサイルのように具体的な恐怖ではなく、漠然とした「なにか」だと、不安がつきまとって、なお良いかもしれません>

米ソ冷戦、ベトナム戦争、オイルショックに見舞われた昭和40年代には、『ノストラダムスの大予言』や『日本沈没』が、湾岸戦争、阪神・淡路大震災、オウム事件が発生した平成には『リング』や『パラサイト・イヴ』がヒットしましたが、ひょっとしたらコロナ状況下の今は、ホラー分野で世界的ヒットが生まれるかもしれません。

<ビジネスとは顧客の「不」を解消すること>と述べた人がいましたが、不安心理や恐怖心理を学ぶことは、ビジネスにおいて極めて重要な要素。

さっそく、本書の中から気になったポイントを赤ペンチェックして行きましょう。

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「自分たちにそっくりでありながら、自分たちとは異なる存在」に遭遇したとき、僕たちは自らのアイデンティティーに危機を感じ、恐怖をおぼえるのかもしれません

物語がホラーになるかお笑いになるかは、単純に火力の問題なんです。この、やや抽象的な「火力」という言葉について、すこしばかり説明しておきましょう。たとえば、あなたの娘が難病にかかって手術が必要になったとします。ところが自分には高額な手術費用が払えない。この場合、人はどんな行動に出るでしょうか。普通であれば募金活動に勤しんだり、政府に難病への補助を陳情するなんて方法を考えますよね。ところが物語の場合、主人公が「自分の娘はもういいや、他人の子を誘拐して新しい娘にしよう」と考えれば、それはホラーになってしまいます。これは恐怖の「火」を点けた状態ですね。読者の創造を凌駕する展開で常識を吹き飛ばす力、それを僕は「火力」と称しているわけです

ホラーは「生き残るかどうか」を主題にしているジャンルです。しかし、生命を懸けるのが主人公自身とはかぎりません。なかには愛する妻を守ろうとする夫や、成り行きで行動を共にした女性を助けようとする男性も登場します。実は、そういったシチュエーションの場合、守っているのはその女性だけではないんですよ。女性というのは生命の象徴です。女性だけが子供を産むことができる唯一の存在です。(中略)その女性を守るということは、全人類を守ることの暗喩でもあるんです

ネイティブアメリカンの呪いがホラー映画によく出てきますが、あれは彼らの後ろめたさのあらわれなんですね。(中略)アメリカの場合は侵略した土地、悲劇の現場にいまも留まっている。自分の足元に犠牲者がいるという事実が、文字どおり恐怖の源泉になっているんです

不安という感情は守りたいものが生まれて、自分の視座が移ったときに出てくる

若い世代は「未知」と「無知」に対して備えておきたい

基本的に物語というのは、不安ではじまり、恐怖の克服で終わります

一般的に、ホラーでは「主人公が生き残るのか、それとも死んでしまうのか」が最終的なゴールになります。かたやサスペンスは「自分を窮地に陥らせるもの」の正体を解明しつつ、自分の望む日常へ戻ることがゴールとなっています。スリラーの場合、主人公は理解不能な出来事を解明する手段を持ちません。その前提で現在の危機的な状態をなんとか潜り抜けることが到達点に設定されます。そして、アクション映画では最初にゴールが設定されます。克服しなければいけない課題が提示されるんです。主人公たちはそのミッションを完遂できるかどうかが問われます

「各論ではハッピーエンドでも総論はバッドエンド」になるのは、ホラーにおけるひとつの定型

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後半は小説論になってしまうので、文章や作品に興味のない人には興味がズレる可能性がありますが、出版業界人としては、興味深く読むことができました。

ホラーコンテンツ、作ってみたいですね。

どの分野でもそうですが、一流の人間は成功するための方法をきちんと「定式化」できているもの。

ここまで著者がホラージャンルをきちんと分類し、恐怖を定式化しているとは、恐れ入りました。

厳密なビジネス書ではないですが、コロナ状況下の人間心理を読み解くのに、効果ありの一冊です。

ぜひ読んでみてください。

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『恐怖の構造』平山夢明・著 幻冬舎

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◆目次◆

第1章 恐怖の本質
第2章 恐怖と不安
第3章 なぜ恐怖はエンタメになりうるのか
第4章 ホラー小説を解読する
特別対談 「恐怖が快楽に変わるとき」(春日武彦×平山夢明)

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