2020年5月18日

『なぜ大国は衰退するのか』 グレン・ハバード、ティム・ケイン・著 vol.5515

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成熟期の国家には「制度変更」がつきものですが、それが功を奏するかどうかは、その制度の内容によるもの。

本日ご紹介する一冊は、コロンビア大学大学院ビジネススクール院長で、大統領経済諮問委員会委員長、米国財務省副次官補を歴任したグレン・ハバードと、米ハドソン研究所主席エコノミスト、ティム・ケインによる注目の論考です。

「なぜ大国が衰退するのか」というテーマは、これまでにもさまざまな論者によって説明されてきましたが、本書の特徴は、それを国の制度面に求めている点。

本書では、ローマ帝国、明朝中国、スペイン帝国、オスマン帝国、明治維新以降の日本、ヨーロッパ、ユーロ圏、米国カリフォルニア州という8つのケーススタディを通じて、国が衰退する理由について、論じられています。

残念ながらわが国はじめ、現在の多くの先進国に共通する点が見受けられ、暗い気持ちになってしまいました。

特にエンタイトルメント(医療など、一般市民に対して状況に応じて保障されている政府支出のこと)の負担の問題は、政治にとって重要な問題であり、国の成長の足かせになっている気がします。

さっそく、本書の中から気になったポイントを赤ペンチェックして行きましょう。

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偉大な文明の存続を脅かす要因としては、国境に押し寄せる異邦人よりも、その文明がみずから生み出した内部の経済的不均衡のほうが重大である

政治面での過剰な中央集権化は帝国の衰退の一般的な要因であり、通常はこうした集権化の実現から百年以降に衰退が始まる

このように約束されたエンタイトルメントは、そのプログラムの創設者が想定した義務を超て拡大している。給付としてのエンタイトルメントを将来的に漸増させる約束は細かく調整され、放置されてきた過剰な給付は、年月の経過とともに政治的な見返りを明らかに生み出してきた

歴史をみると、経済面での新たな課題は従来の政治体制のもとではあまりよく理解されないのが常

大国の衰退は必ずと言っていいほど、「自国の停滞が内的な要因の結果であることを否定する、中央集権化が進む、将来を犠牲にして現在浪費する」という決まったパターンに従って起きているのだ

フローではなくストックとして富を計測する重商主義的な見方では、国力を包括的に捉えられず、ましてその国の成長可能性は把握できない

他国よりも強い国とは、他国より多くの武器や兵士を生み出せる国であって、傭兵を雇う金をより多くもっている国ではない。その金の蓄えは最終的にはなくなってしまうからだ

革新は制度によって生まれるのである

歴史を見ると、大国が主導権を失うのは技術的なフロンティアを押し上げられなくなったときであることがわかる

「静的な経済は、政治的制度と経済的制度の双方へのアクセスを制限する、レントシーキング型の派閥的集団に支配される」。レントシーキングとはぎこちない言葉だが、これはある集団が政府のルールを自分たちの利益になるように操作して資金を得ることを意味する

他民族を征服しながらみずからの民族的優越性を主張しないのは、どの民族にとっても難しいことだが、ローマ帝国が大きな成功を収めた要因が、ローマ市民権を他の民族にも拡大したことだったのは間違いない

交易とは、経済学者の言葉で言えば“成長の助手”である。安全な海上交易を可能にするには多額の公共投資が必要になるが、交易で民間部門が得る利益はそれ以上に多い

スペインは資本主義的な発展を軽視していた。国内の多数の商人を意図的に敵視し、何千人ものユダヤ人や非カトリック教徒の国民を国外へ追放した

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なかでも興味深かったのは、ローマ帝国と明朝中国、スペイン帝国の事例。

著者らは、経済成長の種類を「スミス型」(新たな貿易ルートの開発をはじめとする商業活動の拡大)、「ソロー型」(投資の拡大)、「シュンペーター型」(革
新による経済成長)の3つに分けており、この根底に「制度の発展」があると述べています。

国が発展できるかどうかは、発展につながる正しい制度を設計できるかどうか。

あとは、塩野七生さんも書いていましたが、「寛容さ」かもしれませんね。

今の日本の状況を考えると、じつに示唆に富んだ一冊だと思います。

ぜひ読んでみてください。

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『なぜ大国は衰退するのか』
グレン・ハバード、ティム・ケイン・著 日本経済新聞出版

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◆目次◆

第1章 序 論
第2章 大国の経済学
第3章 経済的行動と制度
第4章 ローマ帝国の没落
第5章 中国の宝
第6章 スペインの落日
第7章 奴隷による支配 オスマン帝国のパラドックス
第8章 日本の夜明け
第9章 大英帝国の消滅
第10章 ヨーロッパ 統一と多様性
第11章 カリフォルニア・ドリーム
第12章 米国に必要な長期的視野
第13章 米国を改革する
付 録 超党派的な財政均衡憲法修正条項の文案
原 注
参考文献

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