2020年3月16日

『「無為」の技法』ダイアナ・レナー、スティーブン・デスーザ・著 上原裕美子・訳 vol.5475

【「しない(Not Doint)」という選択】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4534057679

独立する前、最初からオフィスを借りるべきかどうか、昔の上司に相談したら、こんなことを言われました。

「戦略とは、何をしないかを決めることだ」

結果、オフィスは借りずに自宅で小さく始め、おかげで会社はたった2カ月で黒字化できました。

また、別の話ですが、初対面の人に「毎年ギリシャを訪れている」と伝えると、大抵、「向こうで何をしているのですか?」と聞かれます。

答えは「何もしていない」です。多忙な日常を離れ、何もしない生活をしていると、頭のなかの余計なゴミが取れ、どんどん新しい戦略のヒントやアイデアが浮かんでくるからです。

本日ご紹介する一冊は、この「何もしない」ことの効用と、戦略的活用法を述べた、興味深い自己啓発書。

企業コンサルタントのダイアナ・レナーと、『HR』誌が選ぶ「最も影響力ある人物」トップ30に選出されたスティーブン・デスーザが書き、2015年のBestManagement Book of the Yearを受賞。あのダニエル・ピンクも本書を推薦しています。

現在、新型コロナウイルス絡みで自宅待機やリモートワークを余儀なくされている人も、本書を読めば、このピンチをチャンスに変えられるはずです。

本書の中から、いくつか気になった部分を赤ペンチェックしてみましょう。

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「しない」とは、本当の意味で「する(Doing)」ということだからだ──今この瞬間の自分と向き合う、心の中を深く探る、思考を自由に解き放つ、そして傷を治し、気力を取り戻し、ふたたび立ち上がることをするのだ(マーガレット・ヘファーナンの序文)

しないというのは、物事をやりこなす方法を狭い視野で見ないための防御手段だ。押すことでもなければ引くことでもない。逆らわず、ゆだねて、ともに歩いてみる。そうすることで力みがとれ、自分がかかわっている状況に対して意識が開く

しないよりするほうがいいに決まっているという発想は、現代ではもはや成り立たないのだ。とにかくやっつければいい、押しつづければいいという戦略は、現代の私たちを取り巻く新しいコンテキストにはおそらく通用しない

目的地が変われば計画のすべてに修正が必要だ

急いで詰め込み駆け回ることで、私たちは偶然と出会う可能性を締め出し、体験をじっくり味わわずにやり過ごす

どうにかしなければというプレッシャーで、人は性急に動きすぎる。冷静な検討や診断をせず、それが結果的にどういう意味になるか、どのような邪魔が入りうるか、探ってみようとしない

自分の役割に執着していると、キムと同じく、それをアイデンティティと同一視してしまうことがある。役割に伴う責任と期待にしがみつき、結果的には、自分の行動や振る舞いがその状況に適したものかどうか判断する力を失う

業績志向の社風では、アウトプットに焦点を置くことがデフォルトになる。「そこから何につながるか」ではなく「どれだけアウトプットしたか」に意味があるのだ

「上の人が全部背負って、周囲の人間には何ももたせない。これと同じことをやってるせいで、私たちは進歩しないのかもしれない、と思いはじめました」

「逃すのが怖い(fear of missing out)」を略した「FOMO」という言葉も広まっている(中略)FOMOの根底には、選ぶことへの不安がある(中略)できるだけ多くの選択肢をもっていることが好ましいとされる現代では、選ぶ、すなわちその他を捨てることが不安で、抱え込まずにいられなくなるのかもしれない

複雑で不確実な現代社会に求められるリーダーシップとは、リーダーとしての我を出さず、クリエイティブ・キャパシティのための余地を差し出すことではないだろうか

孤独とは、いつも担っている役割や期待の制約を離れて、空間と自由をつくり出すことだ

孤独は自分自身に対する責任の意識、そして他者に対する責任の意識を育てるエネルギーになる

断る力を育てるためには、YESと答えたい衝動の裏で、自分が何を恐れているか意識してみる必要がある

スペインの詩人アントニオ・マチャードの言葉、「旅人よ、そこに道はない。道は歩いてつくられるものだ」が、ぴたりといい表している。さまよってみる、迷ってみる、そしてまた道を見つけて、通ったことのない進路を選んでみる……そうしているうちに、まだ地図に載っていない領域がきっと見えてくる

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話は、「しないこと」の効用に始まり、「あえて何もしない」リーダーシップ、キャリア、コミュニケーション、新カテゴリー開発にまで広がって行きます。

みんなが大量行動・アウトプットを信奉し、既存の道に群がり、広げ、踏み固めてぎゅうぎゅうにしてしまった現在、あえて何もせずに違う道を見つけるという本書のアプローチは斬新で、未来のヒントに満ちあふれています。

ぜひ読んでみてください。

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『「無為」の技法』ダイアナ・レナー、スティーブン・デスーザ・著
上原裕美子・訳 日本実業出版社

<Amazon.co.jpで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4534057679/

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◆目次◆

PART1 「しない(Not Doing)」という選択
CHAPTER1 流れに任せる
PART2 やみくもな行動の機能障害
CHAPTER2 「しなければ」という執着
CHAPTER3 行動する理由
PART3 「ない」を受容する力
    ──ネガティブ・ケイパビリティ
CHAPTER4 泥が鎮まるのを待つ
CHAPTER5 岸を離れる
CHAPTER6 行く先は川が知っていると心得る
CHAPTER7 そのアクションは美しいか
謝辞
参考文献

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