2020年1月16日

『貞観政要 上に立つ者の心得』渡部昇一、谷沢永一・著 vol.5435

【読み応えあり】
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本日ご紹介する一冊は、優れた指導者たちの間で読み継がれてきた『貞観政要』のエッセンスを、知の巨人2人が対談しながら解説した一冊。

『貞観政要』は、唐の名君・太宗と臣下との問答・議論を集大成した帝王学の名著で、これまでにも何冊か本は出されています。

ただ、時代が異なる上に若干読解力を必要とするので、そのまま訳しても経営の実践に役立てるところまではいきません。

その点本書は、渡部昇一、谷沢永一氏の対談・解説により、その意味するところを具体的にしているため、じつにわかりやすい。太宗以外のリーダーとの比較も、内容に厚みを加えています。

君主が自分を律するためにどんな制度を必要とするのか、臣下にどう接し、処遇するべきなのか、組織を守るための大事な点を指摘しています。

本書いわく、<『貞観政要』を読まなかった織田信長や豊臣秀吉の政権は短命に終わり、『貞観政要』を読んだ徳川家康や北条政子の政権は繁栄を築いた>。

「そんな大げさな…」と思ってしまいますが、2人のリーダー論を読めば読むほど、いかに「貞観の治」と呼ばれた唐の政治が理想的だったのか、よくわかります。

殺した皇太子の参謀だった魏徴(ぎちょう)を大抜擢し、重用したのも驚きですが、その謙虚さ、反省力には本当に驚きます。

本書では、<ずけずけものを言う魏徴と、それに感心する太宗の奇跡的めぐり合わせ>などと書かれていますが、この視点から言えば、今の某国の指導者は理想からはほど遠い状態ですね。

と、批判めいたことを言うのは簡単ですが、実際にトップの立場からすれば、これがいかに感情的に難しいことなのかがわかる。

当の太宗でさえ、後半戦はおかしくなったのだから、良い政治というのは本当に簡単ではないのです。

だからこそ、リーダーは本書を読んで自分を戒めなければいけない。

さっそく、ポイントをチェックしてみましょう。

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『貞観政要』に唐の太宗が後宮にいた三千人の女官を「人民の財力を使い果たすものだから、そんなに必要ない」と言って家に帰らせる話が出てきます。吉宗は大奥でそれとそっくり同じ真似をしていますからね。『貞観政要』を読んでおったのはほぼ確実です(谷沢氏)

「朕、不善有らば、卿(けい)必ず記録するや」
(私が悪事を働けば、お前はそれを必ず記録するのか)
「道を守るは官を守るに如(し)かず」
(職責を守ることが道徳に適うことだと思っています)
──太宗と?遂良(ちょすいりょう)の会話

李世民は皇太子になって、お父さんの高祖から位を譲り受け、確か二十七歳で即位して太宗になります。それから二十四年間の在位中、太宗は兄を殺したという決定的な負い目を背負い続けた。それを帳消しにするために、太宗は名君たらざるを得なかったとも言えるでしょう(谷沢氏)

要するに皇太子の李建成が阿呆やったから、太宗さん、あんたはいま皇帝になっているんで、李建成が自分の進言をちゃんと採用していたら、あんたは皇帝の位におれへんのに……と言っているわけですからね。これは天下の開き直りですよ(谷沢氏)

止める側の人が贅沢な生活をしていたら「なんだ、お前は」という話になりますけれど、みんな非常に質素であったから太宗も認めざるを得なかったというわけです(渡部氏)

小さな贅沢を見逃すと必ず極端までいってしまうと考えた諌臣たち

貞観十二年に太宗が「林深ければ多くの鳥が棲む。川の流れが大きければ多くの魚が泳ぐ。人が仁義道徳の行いを積み重ねれば、天下の人は自然になつき従うものである」と言っています(渡部氏)

内助の功が素晴らしかった文徳皇后は太宗以上の人格者この人は三十六歳で太宗より先に亡くなるんですが、そのときに太宗に遺言するんですね。「私の親戚の者を重く用いることを絶対にしてはいけませんよ」と(谷沢氏)

太宗が重臣たちに言うわけですね。「君たるの道は、必ず須らく先ず百姓を存すべし」と。これは君主よりも百姓が重要だと言っているわけですね。人民を苦しめて君主が贅沢をするのは、自分のふくらはぎの肉を割いて食べるのと同じだと(渡部氏)

「君主は舟、民は水」──水は舟を浮かべることも転覆させることもできる

太宗が「今の世に、こんな忠臣がいるだろうか」と問うたら、魏徴が答えるんですね。「それは君主が臣下をどのように待遇するかで決まります」と(渡部氏)

人材登用の物差しはただ一つ、その人間が本当に役に立つかどうか

秀吉に天下を取らしめたのは黒田官兵衛なんですね。その黒田官兵衛を最も恐れたのが秀吉なんです(中略)臣下の者が秀吉に「あの官兵衛殿をあんなにわずかな石高にしたのはなぜですか?」と聞いたら「あいつに百万石でもやってみろ。天下を取られてしまうわ」と秀吉が言った(谷沢氏)

「徳の高さ」という物差しによって国の寿命を考えていた太宗

考え抜いた挙げ句、家康は天下太平の世の中では能力云々を言ってはいけないと洞察する。それがすごいですねえ。能力で戦国時代を生き抜いてきた家康が、能力でやると喧嘩になるから生まれた順番で行こうと決めたわけですから(渡部氏)

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一冊通して読んで、終始反省しっぱなしでしたが、不思議なことに、読めば読むほど、「良い政治を行いたい」という気持ちが湧いてきます。

それは、太宗と部下の関係・対話が心地良いからなのかもしれません。

渡部氏が対談のなかで、こんなことを書いていました。

<やはり成功した武将とか天下を取った人は、部下との一体感がありますね>

良い組織とは何か、良い君主とは何か。

時代が変わっても変わらない理想を、本書は示しています。

ぜひ読んでみてください。

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『貞観政要 上に立つ者の心得』渡部昇一、谷沢永一・著 致知出版社

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◆目次◆

第一章 リーダーの必読書『貞観政要』
第二章 王と諌臣の奇跡的な関係
第三章 強固な国づくりの根本理念
第四章 「公平第一」が成功する人材登用の秘訣
第五章 現実を見失わないための心がけ
第六章 永続の工夫と実践

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