2019年10月30日

『ロウソクの科学』ファラデー・著 三石巌・訳 vol.5386

【ノーベル化学賞・吉野彰氏の原点】
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本日ご紹介する一冊は、ノーベル化学賞の受賞が決まった吉野彰氏が、「化学への興味の原点」として挙げて話題となった書『ロウソクの科学』。

ベンゼンや電磁誘導を発見、電解物質における「ファラデーの法則」で知られるイギリスの科学者、マイケル・ファラデーによる化学講義で、その内容は感動的と言ってもよいほどです。

ロンドンの貧しい鍛冶屋の家に生まれ、歴史に名を残したファラデーが、1本のロウソクを用いて子どもたちに科学の面白さ、責任、科学的思考を説き、彼らを未来へいざなう。

1861年のクリスマス休暇に、ロンドン王立研究所で催された連続六回の講演記録がもとになっていますが、この講演は当時、ファラデーの話術と名声によって評判を呼び、ロンドンのあらゆる階層を夢中にさせたようです。(ファラデーはこの年を最後として研究所を去り、6年後に亡くなっています)

シンプルかつユーモラスな説明で、科学の意義や危険性、貧困問題や環境問題の本質的意味までが説かれており、子どもたちにはぜひ読ませておきたい内容です。

人を育てるものは、究極、志や社会への責任感だと思いますが、ファラデーは本書で、まさにこの志と責任感を教えています。

表面上は科学の本ですが、中身の実体は、子どもたちに向けた、啓発の書です。

大人になった今でも、胸に熱いものがこみ上げてくるのだから、これを読んだ子どもたちは、いかに大きな志を持つだろうと、思わざるを得ませんでした。

当然「買い」の一冊ですが、まずは内容をチェックしてみましょう。

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有用度を目標とする製造の完全性というものが、美の要点であることを心得ていただきたいと思います。外見が最上のものではなく、働きの上で最上のものが、私たちにとってもっとも有用なものなのであります。

ダイヤモンドの夜の光輝は、それをてらす炎のおかげでしかありません。炎こそは、闇に光をはなつものであります。しかし、ダイヤモンドの光は、炎にてらされて輝くまでは、何ものでもありません。ロウソクは、ひとりでみずからのために輝やき、また、ロウソクをつくった人のために輝やくのであります

化学の勉強が進むのにつれて、私たちは、一つまちがったら、むしろ有害であるような物質を取り扱わなければならなくなるものであります。酸でも熱でも燃焼物でも、私たちの使うものは、万一、不注意に扱ったなら、害をしないとは限らないのであります。

ここにシャボン玉が一つできました。私はそれを手の平にとります。ひょっとしたら皆さんは、この実験で私が、へんなことをしているとお考えになるかもしれません。ところが、それは皆さんに私たちがいつも、響きや音に頼るのではなく、事実に頼らなければならないことを、お目にかけるためなのであります。[彼の手の平の上で、一つのシャボン玉が爆発する]

氷のかたまりをとって、その上にカリウムをのせたとしたら、酸素と水素とを結びつけている、あのすばらしい化学親和力は、氷の上のカリウムを燃えださせるほどの働きをあらわします。これを私は今日、お目にかけたいと思います。その事実から、こういう種類のことがらに対する皆さんの考えを拡張していただくと同時に、結果というものが条件によって、どんなに大きく変わるかということを、ごらんいただきたいのであります。

おわかりのように、たった一回の呼吸でさえも、この空気は完全によごれました。もう一度、呼吸を試みることがないほどであります。さて、まずしい人たちの家は、ごたごたたてこんでおりまして、適当な換気によって健康のために十分な新鮮な空気を供給することが難しく、同じ空気を何回も吸ったりはいたりするようなふつごうがあるという根拠を、ここで理解なさいましたでしょう。

驚くべきことに、私たちにとって、ひじょうに有害かと思われる、確かに二度と呼吸することはできないのではありますが、呼吸によって生じた変化は、地球の表面上に生育する草木や作物にとって、生命そのものであり、支持者なのであります。(中略)[金魚の鉢を指さしつつ]
ここにありますこのような魚も、二酸化炭素からつくられて、空気から水にとけこんだ酸素によって呼吸しております。そうして、この金魚たちは、動物界と植物界とが、お互いに助けあうという一大事業をなしとげるために、こんなに泳ぎまわっているのであります。

すべてのものは、おそかれ早かれ、まちがいなく終わりにくるものではありますが、この講演の終わりにあたりまして、私が皆さんに申しあげることのできるすべては、皆さんが皆さんの時代がきたとき、一本のロウソクにたとえられるのにふさわしい人となっていただきたいということ、そしてまた、皆さんが、ロウソクのように皆さんのまわりの人びとに対して光となって輝やいていただきたいということ、皆さんのあらゆる活動の中で皆さんが、皆さんとともに生きる人類に対する義務を果たすことにおいて、皆さんの行為を光栄あり、かつ効果あらしめることによって、ロウソクの美を正当化していただきたいということの希望であります。

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ファラデーの子どもたちへの温かい目線、次世代に叡智をつなごうとする真摯な姿勢に、胸を打たれました。

こんな教師が各学問分野にいたら、人類はどれほど賢くなっただろうと思わざるを得ません。

教師・講師は必読。科学者はもちろん必読。経営コンサルタントだろうとエンジニアだろうとマーケターだろうと、真理を探求する、すべての人におすすめの一冊です。

ぜひ、読んでみてください。

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ロウソクの科学』ファラデー・著
三石巌・訳 KADOKAWA

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◆目次◆

序 文 W・クルックス
第一講 一本のロウソク──その炎・原料・構造・運動・明るさ
第二講 一本のロウソク──その炎の明るさ・燃焼に必要な空気・水の生成
第三講 生成物──燃焼からの水・水の性質・化合物・水素
第四講 ロウソクのなかの水素──燃えて水になる・水のもう一つの成分・酸素
第五講 空気中に存在する酸素・大気の性質・その特性・ロウソクのそのほかの生成物・二酸化炭素・その特性
第六講 炭素すなわち木炭・石炭ガス・呼吸および呼吸とロウソクの燃焼との類似・結び
訳注
解説

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