2019年9月20日

『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』 大阪大学ショセキカプロジェクト・編 Vol.5361

【知的ワクワク。】
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土井は知らなかったのですが、2000年以降、インターネットで「ドーナツの穴談義」というのが流行していて、さまざまな議論がなされていたそうです。

本日ご紹介する一冊は、この『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』という難解な問いに、大阪大学の教授陣が挑んだ興味深い読み物。

インターネット生態学、工学、美学、数学、精神医学、歴史学、人類学、化学、法学、経済学……。

さまざまな学問分野からこの難問にアプローチするのですが、それぞれ違った視点から議論するのがじつに面白い。

それこそ、ドーナツのように穴ではなく周囲を食べて(論じて)終わる話から、ど真ん中(本質)を射抜く話まで、さまざまな議論がなされており、読んでいてワクワクします。

「切削」という物理的視点からのアプローチ、4次元まで引っ張り出してドーナツを論じた数学のアプローチ、「ドーナツを食べてもドーナツの穴は無くならない」と論じた美学のアプローチ…。

個人的には、美学、精神医学のアプローチがロマンがあって好きですが、法学の屁理屈も面白い。

さまざまな考察を読むことで、考える力を養うことができます。

それでは、さっそく内容をチェックしてみましょう。

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これまでだれもがあたりまえだと考えてきたことを覆していく点に、学問の醍醐味があります。学問はそのようにして発展してきたのです(中村征樹)

「ドーナツの穴だけ残して食べる方法」という定型文や冒頭で紹介したコピペも、進化と淘汰の末に生まれた一種のミームと見なすことができる。ミームが生まれたということは、見方を変えればそこに我々が共有するに値する新たな価値観が見出されたということでもある(松村真宏)

社会で成功する人たちは色々な発想ができることが重要で、この問題(ドーナツの穴だけ残して食べる方法)も、この問題を起点に様々な新たな発想、考えを掘り起こすものだと後で学生に聞いた(高田孝)

現在味わうドーナツが仲立ちとなって、かつて食べたことのあるドーナツが、そしてそのドーナツの穴が、記憶として甦ってくるのである(中略)お菓子にまつわる愛情の記憶は、愛情によって保護された場所である、「家」の記憶と結びつきやすいのだろう(中略)「ドーナツとは家である」と私は言ってみたい。そうすれば、「ドーナツを食べてもドーナツの穴は無くならない」と結論できるのではないか(中略)「場所」はその物理的な囲いがなくなっても、忘れ去られることなく、愛着を伴って存続し続ける(田中均)

少なくとも数学においては「不可能」という言葉はとても重い言葉なので、「不可能」という言葉は自分がちゃんと納得してから使用したい(宮地秀樹)

4次元空間を通れば、チョコレートでコーティングされているドーナツのチョコレートに触れること無く内側のドーナツのたどりつくことができるので、チョコレートに触れずにドーナツの中身を食べることが(論理的に)可能である(宮地秀樹)

有限の世界の中に開いた穴、それが可能性である。私たちはその穴から無限を垣間見ていたいのだろう(井上洋一)

人間を動かしてきた根源にある力は知識そのものではなく、有限を突き破ろうとする衝動ではなかっただろうか(井上洋一)

心を支えているのは理想である。その理想は消えない理想であり、あらゆる現実や物質が移り変わっても最後まで残っているものである。それは、ドーナツが食べられてしまった後にも残っているドーナツの穴のようなものである(井上洋一)

「なぜドーナツには穴があいているのか?」という問いに対しては、ミクロ的アプローチから少なくとも2つの解釈を導き出すことが可能である。それは、「信条(イデオロギー)」と「具体的な利害関係」である(杉田米行)

(1)「ドーナツ枕」型の(穴のあいていない)ドーナツの中央部分だけを食べ、穴をあける
(2)「ドーナツクッション」のように、穴のあいていないドーナツの中央部分を切り取り、その部分を「穴」と呼び、それ以外の部分を食べる(大久保邦彦)
※以下省略

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イノベーションやクリエイティビティの必要性が叫ばれて久しいですが、本当に大切なのは、こういうたわいない議論。

さまざまな学問、視点を持ち込んで自由に議論することで、人はどこまでも創造的になれると、本書は教えてくれます。

ぜひ読んでみてください。

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『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』
大阪大学ショセキカプロジェクト・編 日本経済新聞出版社

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◆目次◆

Prologue なぜ宗教がビジネスエリートの必須教養なのか?
第0章 ドーナツの穴談義のインターネット生態学的考察 松村真宏
第1部 穴だけ残して食べるには
第1章 ドーナツを削る──工学としての切削の限界 高田 孝
第2章 ドーナツとは家である──美学の視点から「ドーナツの穴」を覗く試み 田中 均
第3章 とにかくドーナツを食べる方法 宮地秀樹
第4章 ドーナツの穴の周りを巡る永遠の旅人──精神医学的人間論 井上洋一
第5章 ミクロとマクロから本質に迫る──歴史学のアプローチ 杉田米行
第2部 ドーナツの穴に学ぶこと
第6章 パラドックスに潜む人類の秘密 なぜ人類はこのようなことを考えてしまうのか? 大村敬一
第7章 ドーナツ型オリゴ糖の穴を用いて分子を捕まえる 木田敏之
第8章 法律家は黒を白と言いくるめる? 大久保邦彦
第9章 ドーナツ化現象と経済学 松行輝昌
第10章 ドーナツという「近代」 宮原 曉
第11章 法の穴と法規制のパラドックス──自由を損なう行動や選択の自己決定
    =自由をどれだけ法で規制するべきなのか? 瀬戸山晃一
第12章 アメリカの「トンデモ訴訟」とその背景 松本充郎

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