2019年9月9日

『ティム・クック』リーアンダー・ケイニー・著  堤沙織・訳 Vol.5353

【アップル、寡黙なCEOの素顔】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4815602506

本日の一冊は、アップルのCEO、ティム・クックの評伝。

アップルの最高デザイン責任者、ジョナサン・アイブの評伝『ジョナサン・アイブ』を書いた、「WIRED」の元シニアリポーター、リーアンダー・ケイニーによる一冊です。

※参考:『ジョナサン・アイブ』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822250709/

カリスマ経営者、スティーブ・ジョブズの後を継ぎ、世界初の1兆ドル企業を作った男、ティム・クックがどんな人物なのか、彼がアップルにしたことは何だったのか、関係者へのインタビューや調査から明らかにした力作です。

ジョブズの死、Apple Mapsの失敗、下請け先での労働搾取問題、プライバシーを巡るFBIとの戦い…。

「取るに足りない人物」「ティム・クックをCEOに選ぶヤツはいない」と揶揄された人物が、なぜアップルに襲いかかるさまざまな問題に取り組み、解決することができたのか。

人種間の分断が色濃く残るアラバマ州で、性的マイノリティとして育ったことから生まれた寛容さ、IBMで学んだジャストインタイム生産の技術、質問によるマネジメント、顧客とのオープンなコミュニケーション、信念のためには国家権力とでも戦う姿勢…。

これまであまり知られてこなかったティム・クックの素顔とキャリア、マネジメントスタイルがわかる、じつに興味深い読み物です。

さっそく、内容をチェックして行きましょう。

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ジョブズはチーム同士、個々の役員同士でさえよく競い合わせたが、クックはより円満な方法を好み、以前は自分たちのことしか考えていなかったチーム同士が協調する機会を増やし、対立といざこざの元凶だった少数の役員たちを立ち去らせた

ジョブズの真似をしようと考えたことはなかった。「自分がなれるのは、自分自身だけだということを理解しています」と彼は続けた。「私は最高のティム・クックになるよう努力しているのです」そしてそれこそが、彼の成し遂げたことだった

2015年、ジョージ・ワシントン大学の卒業式の訓示で、彼は「良いことをすることと、良い成果を上げること」のどちらをとるかで悩んではならない、という自身の信念を表明している。望ましい価値観に対して妥協することを拒む彼の姿勢は、これまで何度も試されてきたが、アップルの成功に直接的な貢献を果たしている

「我々がアップルのデバイスを、視覚に障害のある方でも利用できるよう改良するときに、忌々しい投資利益率なんてものは考慮していません」

クライスラーの元CEOのリー・アイアコッカや、ウォルマートの元CEOのマイク・デューク、ユナイテッド・パーセル・サービスの元CEOのマイケル・エスキューらは、全員が生産工学部出身

当時のアップルは、その乱雑な製造工程を見直す必要に迫られていた。ジョブズは解決策を探し始め、その役目に最適な人物を見つけ出したのだ。「ティム・クックは、我々のニーズにぴったり符合するバックグラウンドを持って、目の前に現れたんだ」

「群れに従うのは良くないことだと、私は常に思っていました。恐ろしいことだと」

「アップルに加わることは、創造の天才とともに働く一生に一度の機会になるだろうと、私の直観が伝えたのです」。そしてその直観は完全に正しかった。2010年、オーバーン大学の卒業式の訓示で、彼は次のように語った。「アップルで働くことは、私が自身のために考えたどの将来設計にも含まれていませんでしたが、私が今まで下した決断の中で、間違いなく最善のものでした」

アップルに来てちょうど7か月が経った頃、クックはそれまで30日分あった製品の在庫をわずか6日分にまで減らしていた

「彼はとても静かなリーダーです」とジョズウィアックは語った。
「叫ぶことも怒鳴ることもなく、非常に冷静で落ち着いています。
しかしとにかく人を質問攻めにするので、部下たちは問題についてしっかりと把握しておく必要があるのです」

「アップルのCEOとして働き始めるずっと前から、私は根本的な事実に気づいていました」。その論説はこのように始まった。「人々は、自らの存在が完全に認められ、保護されていると感じるとき、より多くを捧げようという気持ちになるのです」

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投資家にとっては、企業を伸ばす経営者かどうか見極めるヒント。ビジネスパーソンにとってはキャリアの作り方の見本。創業経営者にとっては後継者選びのヒント。そして親にとっては子どもを天才に育てるヒント。

じつにさまざまな読み方ができる、興味深い一冊です。

アメリカの評伝はいずれもそうですが、本書も丹念な取材により、人物像が浮かび上がってくる、読み応えある内容に仕上がっています。

ぜひ、読んでみてください。

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『ティム・クック』リーアンダー・ケイニー・著 
堤沙織・訳 SBクリエイティブ

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◆目次◆

序 論 うまくやってのける
第1章 スティーブ・ジョブズの死
第2章 アメリカの深南部で形作られた世界観
第3章 ビッグブルーで業界を学ぶ
第4章 倒産寸前の企業に加わる、一生に一度の機会
第5章 アウトソーシングでアップルを救う
第6章 スティーブ・ジョブズの後を引き継ぐ
第7章 魅力的な新製品に自信を持つ
第8章 より環境に優しいアップル
第9章 クックは法と闘い、勝利する
第10章 多様性に賭ける
第11章 ロボットカーとアップルの未来
第12章 アップル史上最高のCEO?

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