2018年12月3日

『海の歴史』ジャック・アタリ・著 vol.5168

【ジャック・アタリ、「海」から世界の未来を読み解く。】
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本日ご紹介する一冊は、フランソワ・ミッテラン大統領顧問、欧州復興開発銀行初代総裁などの要職を歴任し、トランプの大統領選での勝利も的中させた、フランスを代表する賢人、ジャック・アタリによる一冊。

本格論考で、読むのにはそれなりに骨が折れますが、これを読み切ってこそ、教養人でしょう。

人類の歴史を「海」の視点から見直し、これからの世界情勢、経済動向に重要な示唆を与えてくれる、刺激的な内容です。

最近は、一部の富裕層が「宇宙」に着目し、話題となっていますが、それに対して、賢人はこう述べています。

<海が未来の鍵を握るのにもかかわらず、驚くべきことに、デジタル経済の大手企業や大企業家は、海よりも宇宙に夢中になっている。人類の持続的あるいは儚い利益が将来も海で生じることに、彼らはまだ気づいていないのだ>

歴史を詳細に分析し、データを冷静に眺めれば、世界で圧倒的影響力を誇る「海」に目が向くのは自明の理。

そして、この「海」を知ることで、われわれの未来も見えてくるのです。

教養だけの話と思うことなかれ。

本書には、今後「海」でどこの国や企業が覇権を握るのか、それがどうしてなのか、固有名詞入りで論じられています。

さっそく、ポイントをチェックしてみましょう。

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歴史の勝者には、フラマン人、ジェノヴァ人、ヴェネチア人のようにカトリック教徒もいれば、オランダ人、イギリス人、アメリカ人のようにプロテスタントもいる。だが、彼ら全員は沿岸部で暮らす人々である。反対に、歴史の敗者には、フランス人やロシア人のようにカトリック教徒もいれば、ドイツ人のようにプロテスタントもいる。だが、彼ら全員は内陸部で暮らす人々である

国際貿易開発会議(UNCTAD)によると、二〇一七年、世界には八万九四二三隻の商船があり、そのおもな内訳は、一万九五三四隻の貨物船、九三〇〇隻のタンカー、一万四六一隻のばら積み貨物船、五一三二隻のコンテナ船、そしてその他の船舶であるという

二〇一七年、世界の上位五港は、上海(三六五〇万TEU)、シンガポール(三一〇〇万TEU)、深セン(二四〇〇万TEU)、寧波(二〇六〇万TEU)、香港(二〇〇〇万TEU)と、すべて太平洋のアジア沿岸部の港だった

経済的に海を支配しているのは、経済的および軍事的に最強の国家ではないということだ。人類史上初のこの傾向は、世界の地政学の中期的な推移に何らかの影響をおよぼすはずだ

二〇〇八年に設立された中国の通信機器メーカーのファーウェイ社[華為技術有限公司]は、ファーウェイ・マリーン社の子会社であり、海底ケーブルの敷設、維持、改良を専門にするイギリスのグローバル・マリーン・システムズとともに、アジア地域のコミュニケーションの急増を追い風に、まもなく世界のリーディング・カンパニーになるかもしれない

多くの漁業資源が過剰漁業の状態にある

中国、アメリカ、カナダ、オーストラリア、インドネシア、シンガポール、ベトナム、韓国、日本は、おそらくこうした変化の勝者になるだろう。いずれにしろ、勝者になるのは沿岸国だ。長期的には、インドとナイジェリアも勝者になりうる

地球温暖化の影響により、少なくとも二つの北極海経由の航路が開通する。一つはヨーロッパ航路、もう一つはアメリカ航路である

今日のおもな海運会社は今後も業績を伸ばす。コペンハーゲンに本拠を置くデンマークのA・P・モラー・マースク社は、デンマーク最大の企業であり、世界最大の海運会社だ。そしてこの会社は、コンテナ船部門だけでなく保有する船舶の数でも世界一である

長期的には、海洋プロジェクト関連に新たな産業が誕生するのではないか。たとえば、ジャック・ルージュリーが設計した半潜水型の海洋調査船「シー・オービター」、DCNS[フランスの海軍艦艇を建造する造船企業]の浮体原子力発電所「フレックスブルー」、ジャン=ルイ・エティエンヌの海洋調査船「ポーラー・ポッド」、ペイパル社[電子決済サービス]の創業者ピーター・ティールが出資した「海底住宅研究所」、日本の大手建設会社である清水建設社の海中都市「オーシャンスパイラル」などが有力候補である

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前半は、世界史のおさらい、最後は、海の保護を訴える月並みな内容となっていますが、海の地政学を知ることで、今後の覇権がどこに移るのか、どの都市が繁栄するのか、どの企業が有力なのか、見取り図が見えてきました。

投資家、経営者はもちろん、新たな就職先を探しているビジネスパーソンにも、大いに役立つ内容です。

これはぜひ、読んでみてください。

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『海の歴史』ジャック・アタリ・著 プレジデント社

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◆目次◆

イントロダクション
第一章 宇宙、水、生命(一三〇億年前~七億年前)
第二章 水と大陸:海綿動物から人類へ(七億年前から八万五〇〇〇年前まで)
第三章 人類は海へと旅立つ(六万年前から紀元前一年)
第四章 櫂と帆で海を制覇(一世紀から一八世紀まで)
第五章 石炭と石油をめぐる海の支配(一八〇〇年から一九四五年)
第六章 コンテナによる船舶のグローバリゼーション(一九四五年から二〇一七年)
第七章 今日の漁業
第八章 自由というイデオロギーの源泉としての海
第九章 近い将来:海の経済
第十章 将来:海の地政学
第十一章 未来:海は死ぬのか?
第十二章 海を救え
結論
謝辞
翻訳者あとがき
原注

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