2018年5月7日

『ピーター・ティール』トーマス・ラッポルト・著 赤坂桃子・訳 vol.5023

【好著。必読】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4864106010

昭和の時代、起業は頭が悪くてもガッツがあれば成功できる、ユートピアでした。

でも、今日の起業は、頭が良くないと成功できない「高度な知的ゲーム」に変わりつつあります。

なぜなら、今日のフロンティアはサイバー上にあり、それは高度な抽象思考を通してしか開拓できないからです。

「頭がいい」と言っても、これまで日本でもてはやされてきた、「記憶優位の」頭の良さとは違います。

無限にオセロの端を広げていくような、クリエイティブな思考、拡大思考、点と点を線に、そして面に展開していく展開思考です。

そういう意味で群を抜いているのが、今シリコンバレーでもっとも注目される起業家であり投資家、ピーター・ティール。

彼の著書『ゼロ・トゥ・ワン』以上に楽しめるのが、その実像に迫った評伝、『ピーター・ティール』です。

※参考:『ゼロ・トゥ・ワン』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4140816589/

「今日のビジネス界でピーター・ティールの名を聞いたことがないという人間がいたら、そいつはまちがいなく三流だ」

こんな挑戦的な一行から始まる本書は、なぜ今、ピーター・ティールが注目されるのか、起業でも投資でも大成功を収める彼がどんな思考をしているのか、誰のどんな思想に影響を受けたのかを、入念な取材を通し、詳らかにして行きます。

本書を読めば、天才ピーター・ティールがどうやって生まれたのか、なぜ世間を騒がすような奇想天外なことをするのか、その理由がよくわかるでしょう。

思想の根底に恩師の哲学があったこと、ティールが読んできた本、ティールがシリコンバレーを離れつつあることなど、興味深いトピックが満載で、一気に読んでしまいました。

ここまで読み応えがあったのは、フィル・ナイトの『SHOE DOG(シュードッグ)』以来ですね。

※参考:『SHOE DOG(シュードッグ)』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492046178/

さっそく、ポイントをチェックしてみましょう。

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ある日、床に敷かれた牛革の敷物にすわりながら、彼はこれ(敷物)は何? と父親にたずねた。「牛だよ」ピーターはその答えに飽き足らず、その牛はどうなったのか知りたがった。「牛さんは死んじゃったんだ」と父親。ピーターはさらに、それはどういうことなのかと食い下がる。父親は、牛さんはもう生きていないこと、動物も人間も、お父さんもピーターも皆いつかは死を迎えるのだと教えた。父親の話は3歳のピーターにとってショックだっただけでなく、今日にいたるまで、人生をよりよく、より長くする技術の発展にかかわるきっかけとなった

機械や集団に対する個の価値、権力の腐敗といったトールキンの哲学的モチーフも、ティールの人生に大きな影響を与えた

いまでもティールにとって、ハーバードは間違った競争主義の象徴だ。2014年に彼がスタンフォード大学で担当したゲスト講義「競争は負け犬のもの」で、彼はハーバード・ビジネススクールを徹底的にこきおろしている。「あそこの学生たちはアスペルガー症候群の対極にあります。やけに外交的で、自分の考えというものを持っていない。2年間もこういう連中と一緒にいると、群集本能ばかりが発達し、誤った決断を下すようになってしまいます」

ティールの世界観と、ビジネスや投資判断の流儀に決定的な影響を与えたのは、スタンフォード大教授だった著名フランス人哲学者、ルネ・ジラールである。ティールはジラールの主著『世の初めから隠されていること』(法政大学出版局)を哲学の基礎課程ではじめて読んだ。ジラール思想の核にあるのは模倣理論と競争だ。ジラールによれば、人間の行動は「模倣」に基づいている。人間には他人が欲しがるものを欲しがる傾向がある。したがって模倣は競争を生み、競争はさらなる模倣を生む

「壊れているものを探せ」──スタートアップの出発点は、いつでもこれだ

競争は負け犬がするもの。まわりの人間を倒すことに夢中になってしまうと、もっと価値があるものを求める長期的な視野が失われてしまう

採用面接の受験者にもいつも訊いている。
「賛成する人がほとんどいない、大切な真実は何でしょう?」

PERの欠点は、成長率を考慮しない点だ(中略)そこで成長率を企業評価に反映するために、「PEGレシオ」を用いる。これはPERを利益成長率で割って求める数値で、この指標によって株式を成長値で評価することができる。ティールは、PEGレシオは成長企業を評価するすぐれた指標であると考えている

完全競争においてはどの企業も利益を出せない。利益が発生すると、新しい企業が市場に参入し、その利益をさらっていく。独占はその逆だ。独占者は市場そのものを「所有」する

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最近、子どもをどう育てたらいいのかわからない、という親御さんが多いと思いますが、親が本書を読むのが一番の教育でしょう。

教師や親は、本書を読んで、これから求められる思考、教養がどんなものなのか、知っておくべきだと思います。

なお、本書で紹介されているティールの愛読書は、おそらく今後希少になり、アマゾンでも入手が難しくなると思われます。

興味のある方は、お急ぎください。
P222以降に買うべき書籍のリストが載っています。

BBMには星取表はありませんが、あったとしたら、間違いなく5つ星の評価です。

ぜひ読んでみてください。

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『ピーター・ティール』トーマス・ラッポルト・著 赤坂桃子・訳 飛鳥新社

<Amazon.co.jpで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4864106010/

<Kindleで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B07CG93TZJ/

<楽天ブックスで購入する>
https://bit.ly/2FRPjZd

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◆目次◆

はじめに なぜ世界は「この男」に注目するのか?…
第1章 はじまりの地、スタンフォード大学
第2章 「競争する負け犬」になるな──挫折からのペイパル創業
第3章 常識はずれの起業・経営戦略──ペイパル、パランティアはなぜ成功したのか?
第4章 持論を発信する──『ゼロ・トゥ・ワン』と『多様性の神話』スキャンダル
第5章 成功のカギは「逆張り思考」──スタートアップの10ルール
第6章 ティールの投資術──なぜ彼の投資は成功するのか?
第7章 テクノロジーを権力から解放せよ──ティールのリバタリアン思想
第8章 影のアメリカ大統領?──トランプ政権を操る
第9章 ティールの未来戦略──教育、宇宙、長寿に賭ける
おわりに テクノロジーがひらく自由な未来へ
ピーター・ティールがシリコンバレーを離れる日──訳者あとがき
<巻末>原注

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