2018年3月30日

『もう走れません──円谷幸吉の栄光と死』長岡民男・著 vol.5000

【ありがとう5000号】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000J8SFNC

2004年7月20日にスタートした「ビジネスブックマラソン」は、今日めでたく5000号を迎えました。

これもひとえに応援してくださったみなさまのおかげです。本当にありがとうございます。

5000号記念は、とっておきの本ということで、東京オリンピックの英雄、悲劇の人、マラソンの円谷幸吉選手の評伝をご紹介します。

本書は既に絶版ですが、土井の手元には、マラソン選手だった兄にもらった昭和52年の初版があります。

昨今の風潮からすれば、忍耐の末、自死に追い込まれた選手の本を紹介するのは、適切ではないかもしれません。

ただ、こんなご時世であっても、<人は第一級の才能がなくても、「忍耐」だけで人生を切り拓ける>という本書のメッセージは、今を生きる人々の励みになるのではないか、と思うのです。

土井の父は、円谷幸吉の父同様、厳格な人でした。

父の形見にもらった、メカジキの鼻には、「忍耐養成」の文字が刻まれています。(土井の父は、昔マグロ漁船の乗組員でした)

今では古臭くなった「忍耐」と「約束を守ること」の重要性を訴えたく、本書をご紹介いたします。

さっそく、ポイントを見て行きましょう。

———————————————–

円谷幸吉は、東京オリンピックの国民的英雄であった。その活躍は、救世主と呼ぶにふさわしかった。メーン・イベントの陸上競技に、史上空前の総勢六十八選手をエントリーした開催国・日本は、大半の種目が予選で敗退し、マラソンが行われる最終日を残して、入賞したのは、女子八十メートル・ハードル五着の依田郁子と、幸吉が一万メートル競争で六着になった二種目に過ぎず、メダリストは一人も生まれていなかった。
もう期待のよりどころは、マラソンしかなかった。だから、日本のマラソン三選手の中で、一番キャリアの浅い円谷幸吉が、エチオピアのアベベに次いで、国立競技場のゲートに姿をあらわし、場内に入ってイギリスのヒートレーに抜かれはしたものの、“オリンピックの華”と謳われるマラソンで、銅メダルを手中にした健闘は、日本人を満足させるに十分だった

新婚の幸七とミツは、その日、これから生まれてくる子供のために、父親は厳しく、母親は父の見ていないところでやさしく諭すことを、約束した

「自分のことは、自分でせよ」
「他人に迷惑をかけるな」
「やり始めた事は、最後までやりとげよ」
──これが、子育ての三つの柱だった

「おもしろそうだな」と思いながらも、そう思うたびに幸吉は「いや、いや、僕みたいな小さな体では、やっても強くなれるはずがない」と、自分で否定ばかりしていた

ミツは、幸吉に好きなことをやらせてやりたいと思っていたし、幸吉にやりとおす意志があるなら、夫も幸吉にかけっくらを許すだろう、という自信めいたものがあった。だが幸吉に“おとなの智慧”を授けてやろうという気など、毛頭ない。幸吉にも、自分で道を切り開いて行かなければならぬ日が、もうすぐ来るのだと思えば、親が手を貸すべきではない

アベベが、皇帝直属の親衛隊員であると知って、自衛官の幸吉は、なにかしら親しみをおぼえた。遠い海の向こうの、まだあったこともない世界一のランナーをつかまえて、ずいぶん大それたことのようにも思うが、でも練習しだいでは、自分だって……と、闘志がわいてくる

恐怖心をとり除くことができれば、それだけで、前途はどんなに明るくなることだろう。日本選手や、コーチが、リディア─ドと接触したことは、日本マラソンの近代化を語る上に、欠かすことができない、歴史的意義を持っている

「せっかくやる以上は、約束を果たそうじゃないか」

彼は、どんなレースでも、途中で後ろを振り向くことをしない。「後ろを振り返るような、みっともないことをするな。卑怯者のやることだ」という父の教えを、常に守ってきたのだ

幸吉がマラソンで成功した原因について、畠野は三つをあげている。第一は、幸吉本人が、スケジュールを忠実に守ったばかりか、与えられた計画以上の練習を、消化したことである。その二は、本格的にマラソンに取組み出してから、それまでトラックで培ったスピードをさらに高め、うまくマラソンに生かしたことであり、第三に一万メートル入賞による、スピードに対する自信であった

———————————————–

本書をご紹介したからといって、土井がもう走れないわけではありませんので、誤解なきよう(笑)。

ただ、この5000号を機に、今後は土日休みにしようと思います。一冊一冊を丁寧に、じっくり時間をかけて読んで、もっと良いメルマガにしようと思いますので、どうぞご了承ください。

そして、出版社のみなさん、ご都合が許せば、ぜひ本書を東京オリンピックまでに復刊してください。

円谷幸吉の本を復刊することは、今もなお、復興に苦しんでいる東北の人々を励ますことになりますし、1964年のオリンピックの記録を、この国に残すことにつながります。(円谷幸吉は福島県の出身です)

芥川賞作家・藤原智美さんが、「日本一美しい」と述べた、感動の遺書も、本書には収録されています。

どうぞよろしくお願いいたします。

「ビジネスブックマラソン」は、これからも走り続けます。
どうぞよろしくお願いいたします。

———————————————–

『もう走れません──円谷幸吉の栄光と死』長岡民男・著 講談社

<Amazon.co.jpで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000J8SFNC/

———————————————–

◆目次◆

第1章 とろろ おいしゅう
第2章 この父にして
第3章 夜道のトレーニング
第4章 汗をかかぬ少年
第5章 須賀川はスカガワだ
第6章 不思議な出会い重ねて
第7章 一線へ、足がかり
第8章 二人三脚
第9章 かけ昇る階段
第10章 理想のトリオ
第11章 28年ぶりの入賞
第12章 夕もやに日の丸が
第13章 逆境
第14章 「もう走れません」

この書評に関連度が高い書評

この書籍に関するTwitterでのコメント

同じカテゴリーで売れている書籍(Amazon.co.jp)

NEWS

RSS

お知らせはまだありません。

過去のアーカイブ

カレンダー