2017年10月24日

『ハーバード日本史教室』佐藤智恵・著 vol.4843

【ハーバードが教える日本史とは?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4121505999

本日ご紹介する一冊は、ベストセラー『ハーバードでいちばん人気の国・日本』の著者、佐藤智恵さんによる話題のベストセラー。

※参考:『ハーバードでいちばん人気の国・日本』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4569827276/

10月5日の発売にもかかわらず、既に約20日で5万部を超えるベストセラーになっているそうです。

じつはハーバード内にたくさんあるという日本関連の授業を取り上げ、その担当教授+日本通の教授にインタビューし、『ハーバード日本史教室』としてまとめ上げています。

登場する教授は、「十七条憲法」に感銘を受け、授業でも「十七条憲法」を取り上げているというアマルティア・セン教授、日本食の歴史を伝えるテオドル・ベスター教授、『忠臣蔵』で有名な赤穂事件について語るデビッド・ハウエル教授、映画『チョコレートと兵隊』や城山三郎の経済小説を題材に現代史を教えるアンドルー・ゴードン教授、経営史の授業で、日本を代表する起業家として岩崎弥太郎を取り上げているジェフリー・ジョーンズ教授ほか、計10名。

世界のトップエリートがどのように日本を学んでいるのか、何を日本から学んでいるのか、外からの目線は本当に新鮮で、良い勉強になりました。

また、日本人も知らないであろう日本の美点を見つめることができる内容で、教授たちの日本への愛を感じました。

もちろん、原爆や東日本大震災、現在直面している経済的な困難など、シビアなトピックも含まれていますが、全体的にポジティブな内容で、励みになります。

日本の歴史を、世界最高の知性がどう分析するか、かつて日本が上手く行っていた時代のシステムとは何なのか。

興味本位で手に取った本ですが、いろいろと学びがありました。

さっそく、いくつかポイントを見て行きましょう。

———————————————–

日本文化は、西洋の知識人の好奇心を刺激しました。日本は政治、経済よりも、芸術、文化、思想で海外に影響を与えてきた国なのです。思想でいえば、新渡戸稲造の『武士道』についても教えています。一九〇〇年にアメリカで出版された『武士道』は、セオドア・ルーズベルトに感銘を与えました(アンドルー・ゴードン)

一九〇〇年代初頭、岡倉と弟子たちが羽織・袴という装いでボストンの街を闊歩していると、地元のアメリカ人から「お前たちは何ニーズ? チャイニーズ? ジャパニーズ? ジャワニーズ?」(中国人? 日本人? ジャワ人?)とからかわれました。すると岡倉は「私たちは日本の紳士です。あなたこそ何キーでしょうか? ヤンキー? ドンキー? モンキー?」(アメリカ人? ロバ? 猿?)と流暢な英語で言い返したそうです(アンドルー・ゴードン)

江戸幕府は「村請制」を農政に導入していました。村請制とは、領主が村に対し年貢の村総量を賦課する仕組みです。この制度では、領主が村の農民の仕事内容にまで介入することはありません。そのため農民は副業も自由にできましたし、どんな商売でもできたのです。村に決められた年貢さえ納めていれば、副業の商売に対して税金がかかることもありませんでした。また村請制度は、村の誰かが年貢を出せなくなると、村の他の者が助けてくれる仕組みなので、村の結束力は高まっても、制度そのものを否定することにはつながりませんでした。江戸時代は百姓一揆が頻発しましたが、農民の闘争の相手は領主や代官であって、幕府ではありませんでした。幕府が直接領土を統治する仕組みではなかったために、システムの中に他国にはない柔軟性があったのです(デビッド・ハウエル)

薩摩も長州も江戸幕府から遠く離れていたがために、独自の経済政策をとることができた(佐藤智恵/アルバート・クレイグとの対談)

日本は江戸時代、なぜこれほど短期間に近代化を推進することができたか。それを読み解くキーワードは「石炭」です。もし九州地方に鉱山がなければ、日本が急速に近代化を進めるのは不可能だったと思います(イアン・ジャレッド・ミラー)

渋沢が理想として掲げていたのは、倫理的な責任感を伴った株主資本主義です(ジェフリー・ジョーンズ)

「日本は中国に抜かれた」「日本より中国のほうがすごい国だ」という人もいますが、ちょっと考えてみてください。東京で大気汚染を心配することはあるでしょうか。レストランで出された料理を見て「何か変なものが入っていないだろうか」と不安に思うことはあるでしょうか。経済的な成長と、文明的な成熟度は別物なのです(ジョセフ・ナイ)

———————————————–

リーダーに必要なのは、楽観でも悲観でもなく、現実を冷静に直視し、問題解決をすること。

そのために、歴史は多くを教えてくれます。

日本人の書く日本論は、とかく悲観/楽観どちらかに偏る傾向がありますが、本書は外からの目で書かれているので、じつに客観的だと思います。
(異常に日本好きの方もいて、一部は歪んでいますが・笑)

できれば、日本史に詳しい知識人が執筆陣にいて、史実をきちんとカバーしてくれていたら、もっと安心して読める本になったでしょう。

そこを差し引いても、読む価値のある内容だと思います。

ぜひチェックしてみてください。

———————————————–

『ハーバード日本史教室』佐藤智恵・著 中央公論新社

<Amazon.co.jpで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4121505999/

<楽天ブックスで購入する>
http://bit.ly/2ivHFO4

———————————————–

◆目次◆

序 ハーバード大学と日本人
第1講義 教養としての『源氏物語』と城山三郎
     日本通史 アンドルー・ゴードン
第2講義 『忠臣蔵』に共感する学生たち
     江戸時代 デビッド・ハウエル
第3講義 龍馬、西郷は「脇役」、木戸、大久保こそ「主役」
     明治維新 アルバート・クレイグ
第4講義 ハーバードの教授が涙する被災地の物語
     環境史 イアン・ジャレッド・ミラー
第5講義 格差を広げないサムライ資本主義
     アジア研究 エズラ・ヴォーゲル
第6講義 渋沢栄一ならトランプにこう忠告する
     経営史 ジェフリー・ジョーンズ
第7講義 昭和天皇のモラルリーダーシップ
     リーダー論 サンドラ・サッチャー
第8講義 築地市場から見えてくる日本の強みと弱み
     和食の歴史 テオドル・ベスター
第9講義 日本は核武装すべきか
     日米関係史 ジョセフ・ナイ
第10講義 世界に日本という国があってよかった
     経済学 アマルティア・セン

この書評に関連度が高い書評

この書籍に関するTwitterでのコメント

NEWS

RSS

お知らせはまだありません。

過去のアーカイブ

カレンダー