2014年1月6日

『成功する子失敗する子』 ポール・タフ・著 vol.3457

【米メディアが絶賛。アメリカの最新教育理論とは?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4862761666

本日の一冊は、「ニューヨーク・タイムズ」、「ハフィントンポスト」、「ウォール・ストリート・ジャーナル」など、米各紙誌で絶賛の、アメリカ最新教育理論。

著者は、フリーのジャーナリストとして、子どもの貧困と教育政策を専門に執筆・講演活動を行うポール・タフ氏。本書には、その取材の成果が生きています。

『成功する子失敗する子』とは、そのものズバリのタイトルですが、(原題は『How Children Succeed』)幼少期の経験や親の子育て、その後の学校教育がどう成功に結びつくのか明らかにした、じつに刺激的な論考です。

既に日本でも知られている事柄としては、スタンフォードの「マシュマロ・テスト」がありますが(幼少期にマシュマロを我慢できた子どもが大人になって高収入となった)、「自制」だけが、成功の資質ではありません。

本書では、この「自制」を含む「非認知的スキル」の役割に注目し、従来の認知的スキル中心の教育に疑問を投げかけています。

◆非認知的スキル
粘り強さや自制心、好奇心、誠実さ、ものごとをやり抜く力、自信

シカゴ大学の経済学者、ジェームズ・ヘックマンが調べたところによると、高校修了同等資格(GED)の合格者は、学力は高校を卒業した者に劣らなかったのに、年収や失業率、離婚率、違法ドラッグの使用率に関しては、中退者とそっくりな結果が出たそうです。

これがきっかけで、注目されることになったのが、この「非認知的スキル」と呼ばれるスキル。

本書では、この非認知的スキルの重要性を説くさまざまな研究結果、そして貧困や悪条件を克服して成功した、感動的な教育の例がいくつも紹介されています。

新入生のうち半数から3分の2が退学し、挙句の果てに死者まで出たという、16年連続「要観察」のフェンガー高校、こうした絶望的な状況を生み出す要因に迫ったACE(子供時代の逆境)研究、母親のケアによって問題をなくせることを示唆したLG値の研究…。

なかでも感動したのは、60%を超える生徒が低所得層の子供であるにもかかわらず、有名校を次々チェスで破ったスピーゲルIS318チェスクラスのエピソード。

厳しくも、生徒たちを見捨てず、励まし続けたスピーゲル先生からは、多くを学ぶことができました。

ただ甘やかすだけが教育ではない。正確に言うと、甘やかす時期と厳しく育てる時期を見極めないと、子どもは正しく育たないということが、よくわかりました。

高校での成績が重要、親の語彙が少ないと子どもも語彙が少なくなる、職場での成功の一番の指標となるのは勤勉性であるなど、絶望的な事実も指摘されていますが、概ね、今すぐ取り組めば間に合うことが書かれています。

良い指導者になるために、また良い親になるために、ぜひ読んでおきたい珠玉の一冊です。

—————————————————
▼ 本日の赤ペンチェック ▼
—————————————————

ACE(子供時代の逆境)の数値が四以上の人々は子供時代に逆境になかった人々にくらべて喫煙率は二倍、アルコール依存症である割合は七倍、十五歳未満で最初の性行為を経験した割合も七倍。がんの診断を受けた率は二倍、心臓病は二倍、肝臓病も二倍、肺気腫や慢性気管支炎を患っている率は四倍だった(中略)ACEの数値が六を超える成人は、ゼロの人々にくらべて自殺を試みたことのある割合が三十倍にのぼった。そしてACEの数値が五を超える男性は、ゼロの男性にくらべて四十六倍という高率でドラッグを注射したことがあった

ストレスに満ちた環境で育った子供の多くが、集中することやじっと座っていること、失望から立ち直ること、指示に従うことなどに困難を覚える。そしてそれが学校の成績に直接影響する

どのテストでも高LGグループの子ラットがよい結果を出した。迷路を抜けるのもうまかった。より社会性があった。好奇心も強かった。攻撃性が低かった。自制がきいた。より健康で、長生きだった
※LGは、なめたり毛づくろいしたりすること

母親の反応の感度が高ければ、環境上の要因が子供に与える衝撃はほぼ消えてなくなるようだった

労働市場が実際に重きを置くのは、見返りがなくてもテストに真剣に取り組むことができるような、内なるモチベーションを持っていることだ

豊かでも貧しくても、子供の不適応を予測できる材料となる家庭の特質は共通していた。母親のアタッチメントのレベルが低いこと、親が過度に批判的であること、放課後に大人の目が行き届かないことなどである

実行機能のうち最も重要なものは、認知における柔軟性と自制のふたつだ。認知の柔軟性は、ある問題に対しこれまでとはべつの解決を見つける能力、既存の枠組みにとらわれずに考える能力、なじみのない状況に対処する能力である。認知の自制は、本能あるいは習慣による反応を抑制し、代わりにもっと効果の高い行動を取る能力

スピーゲルの成功例を見ると、思春期に到達するころの子供たちに有効な動機づけは毛づくろいに似たスタイルのケアではなく、まったくべつの気遣いである。おそらくミドル・スクールの年ごろの生徒をスピーゲルのチェスチームの選手たちとおなじくらい熱狂的に集中させ、練習させるには、誰かが意外なほど自分のことを深刻に受けとめてくれるという──自分の能力を信じてくれて、もっと改善できるからしてみなさいと持ちかけてくれるという──体験が必要なのだ

————————————————

『成功する子失敗する子』ポール・タフ・著 英治出版
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/ 4862761666

————————————————-

◆目次◆

序章 明らかになる新事実
第一章 失敗する子、しない子
第二章 何が気質を育てるのか
第三章 考える力
第四章 成功への道
第五章 わたしたちに何ができるのか

この書評に関連度が高い書評

この書籍に関するTwitterでのコメント

NEWS

RSS

お知らせはまだありません。

過去のアーカイブ

カレンダー