2014年1月30日

『ユーミンの罪』 酒井順子・著 vol.3481

【時代をとらえた「ユーミン」その理由】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062882337

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本日の一冊は、1973年~バブル崩壊まで、日本の女性に多大な影響を与えた「ユーミン」の歌を、ベストセラー『負け犬の遠吠え』で有名なエッセイスト、酒井順子さんが徹底分析した一冊。

※参考:『負け犬の遠吠え』
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本来なら「ビジネスブックマラソン」で扱うネタではありませんが、この分析、あまりに本質を突いていて、ヒットメーカーを目指す人は必読の内容です。

マイケル・ジャクソンにしろ、松田聖子にしろ、時代を創ったスターたちの「売れた理由」は、いつの時代も注目を浴びるものですが、おそらくユーミンが売れた理由は、彼女が当時の女性たちの心をつかんで離さなかったから。

それほど、時代とマッチしていたということですが、その理由を、著者は鋭く分析しています。

<刹那の輝きと、永遠の魔力。両者を手に入れようとするユーミンの姿勢と時代とが合致したからこそ、彼女はスターになりました。ユーミンは女性達にとっての、パンドラの箱を開けてしまったのです。ユーミンという歌手が登場したことによって、成長し続ける日本に生きる女性達は、刹那の快楽を追求する楽しみを知りました。同時に、「刹那の快楽を積み重ねることによって、『永遠』を手に入れることができるかもしれない」とも夢想するようになったのです>

そんなユーミンの作品の特徴について、著者は複数のキーワードを用いて分析するわけですが、それがじつに興味深い。

「自分は参加しないけれど、見ている」当時の女性の「助手席性」、そして松任谷由実になってから展開するようになった、「額縁性」。(「私もあの中の人物になりたい」と思わせる素敵な額縁を提供)

歌詞を見ながら、当時の時代背景を振り返ると、なるほどそれが需要を創っていた原動力かと、妙に腑に落ちます。

著者であれ、プロデューサーであれ、商品開発担当であれ、時代を捉える必要性のある方は、ぜひ目を通していただきたい一冊。

ユーミンの感性のすごさと、それをここまで面白く料理してしまう著者の力量に、すっかり魅了されてしまいました。

ぜひおすすめしたい一冊です。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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ユーミンは女性達にとっての、パンドラの箱を開けてしまったのです。ユーミンという歌手が登場したことによって、成長し続ける日本に生きる女性達は、刹那の快楽を追求する楽しみを知りました。同時に、「刹那の快楽を積み重ねることによって、『永遠』を手に入れることができるかもしれない」とも夢想するようになったのです

何かの中心にいる人は、案外とその「何か」を表現しようとは思わないものです。たとえば平安貴族の生活を物語や随筆に描いた紫式部や清少納言は、都の貴族の生まれではあるけれど、時を得た家に生まれたザ・お嬢様ではなく、二流くらいの家の生まれ。中心に所属はしている、けれど彼女達はド真ん中からは一歩離れた所にいたからこそ、帝を中心とした貴族の生活と光と影をよく見ることができたのです

この時代、女は男を「見て」いました。助手席から、浜から、ロッヂから、そして別れた後はかんらん車から。しかしそれは、ただすがるように見ていたわけではない。「この男は、私に価値を与えてくれるのか」と女達は見定めていたのであり、彼女達のそんな男性を通して深める自己愛が、この先もどんどん肥大していくことを予感させるのでした

思えば八〇年代というのは、そういう時代でした。何かに憧れ、「そうなりたい」と願い、でも実際はなれないからせめて外見だけ真似をするという、その行為が楽しかった

「誰」の彼女かで決まるヒエラルキー

“松任谷感”のもう一つの特徴は、「額縁性」というものではないかと私は思います。とある情景を描いた絵と額縁とをユーミンが用意してくれて、その歌を聞くことによって、絵に描かれている人物に自分がなり代わることができる。松任谷になってからのユーミンは、皆に「私もあの中の人物になりたい」と思わせる素敵な額縁を提供することに、大きな力を発揮しました

もしも今の若者が、「恋にやぶれた後にアカプルコを一人で旅する女」の歌を聞いたなら、「は?」と思うはずです。今の若者は、ユーミンが得意とした「額縁性の提示」というものに、全く慣れていません

若くて勢いがあるうちは、彼女達もパワースポットなどどうでもよかったはず。自分の中に飼っていたはずの「永遠」がするするとどこかに行きそうになった時に、人はどこかにある「永遠」にすがりに行くのではないでしょうか

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『ユーミンの罪』酒井順子・著 講談社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062882337

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◆目次◆

1.開けられたパンドラの箱─「ひこうき雲」(一九七三年)
2.ダサいから泣かない─「MISSLIM」(一九七四年)
3.近過去への郷愁─「COBALT HOUR」(一九七五年)
4.女性の自立と助手席と─「14番目の月」(一九七六年)
5.恋愛と自己愛のあいだ─「流線形’80」(一九七八年)
6.除湿機能とポップ─「OLIVE」(一九七九年)
7.外は革新、中は保守─「悲しいほどお天気」(一九七九年)
8.“つれてって文化”隆盛へ─「SURF&SNOW」(一九八〇年)
9.祭の終わり─「昨晩お会いしましょう」(一九八一年)
10.ブスと嫉妬の調理法─「PEARL PIERCE」(一九八二年)
11.時を超越したい─「REINCARNATION」(一九八三年)
12.女に好かれる女─「VOYAGE」(一九八三年)
13.恋愛格差と上から目線─「NO SIDE」(一九八四年)
14.負け犬の源流─「DA・DI・DA」(一九八五年)
15.一九八〇年代の“軽み”─「ALARM ´a la mode」(一九八六年)
16.結婚という最終目的─「ダイアモンドダストが消えぬまに」(一九八七年)
17.恋愛のゲーム化─「Delight Slight Light KISS」(一九八八年)
18.欲しいものは奪い取れ─「LOVE WARS」(一九八九年)
19.永遠と刹那、聖と俗─「天国のドア」(一九九〇年)
20.終わりと始まり─「DAWN PURPLE」(一九九一年)

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