2012年11月22日

『贈与論』マルセル・モース・著 vol.3047

【「絆」の時代の教養「贈与」について学ぶ】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480091998

本を読んで、恐怖を感じたのはいつ以来でしょうか。

サスペンスやホラーとは質の違う恐怖、われわれの社会を動かしている、見えないけれど大きな力に対する畏怖の気持ち。

今日は、マルセル・モースの『贈与論』を読んで、そんな気持ちを感じていました。

『贈与論』は、ボルドー大学で叔父のデュルケムに哲学を学び、その後、コレージュ・ド・フランスで教鞭をとった19~20世紀の社会学者・民族学者、マルセル・モースによる不朽の名著。

ボトラッチやクラなどの伝統社会に見られる贈与の慣習、また、古代ローマ法や古代ヒンドゥー法、ゲルマン法や宗教にかつて存在した慣行を紹介し、贈与が人間社会にどんな心理的影響を与えているか、独自の考察を加えています。

本書によると、<ある人から何かを受け取ることは、その人の霊的な本質、魂を受け取ること>であり、<そのような物を保持し続けることは危険であり、死をもたらすかもしれない>。

また、<与えることを拒み、招待することを怠ることは、受け取ることを拒むのと同じように、戦いを宣言するのに等しい>。

『影響力の武器』でも紹介されていたように、われわれ人間にとって「返報性の原理」は、じつに強力なものですが、本書には、その裏づけとなる社会的原理が紹介されています。

※参考:『影響力の武器』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4414304164

古代ローマにおいて、物が家族の一部をなしていたという話や、古代ゲルマンにおいて、担保が絆作りの役割を果たしていたという話など、興味深い話が、たくさん紹介されていました。

「贈与」を考えることで、現在の日本経済がなぜ低迷しているのか、なぜ働く人たちが幸福でないのか、その理由がおぼろげながら見えてきた気がします。

「絆」の時代において、「贈与」の概念は極めて重要。原理がわかっている人とわかっていない人では、今後の影響力が大きく変わってくると思います。

難解な本ではありますが、人の上に立つ人には、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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ある人から何かを受け取ることは、その人の霊的な本質、魂を受け取ることになるからである。そのような物を保持し続けることは危険であり、死をもたらすかもしれない

与えることを拒み、招待することを怠ることは、受け取ることを拒むのと同じように、戦いを宣言するのに等しい

神々や精霊は、自分たちに捧げられ、無駄な供犠で破壊されてしまった物を、貧しい人たちや子供に与えるべきだと考えているのである

気前よく人に与えることは義務なのである。というのは、女神ネメシスが貧者と神々のために、幸いと富をやたらに持っているのに、それを全く手放すことをしない者たちに復讐するからである

魂は物の中に混入し、物は魂の中に混入する。生命と生命が混淆する。このように人間と物とが混淆し、人間と物はそれぞれの場所から出て互いに混じり合う。これがまさに契約と交換なのである

物は家族の一部をなしている。ローマの家族、ファミリア(familia)は人間だけでなく、物(res)も含んでいる。この定義は「法学説集」(Digeste)にも見出される

われわれの法においてさえも、ローマ法と同じように、最古の法規範から外れることができないのである。贈与が成立するためには、物か奉仕かがなければならない。そして物か奉仕が義務を負わせなければならない

古代ヒンドゥー法
「友に勧めずに食べる者は、毒(halah-halah)を食っている」

富は与えるために蓄積される。それを受領するブラーフマナがいなければ「金持ちの富も無駄なのである」

担保として与えられた物はそれ自体の力によって一つの絆を作る

返礼なき贈与はそれを受け取った者を貶める。お返しするつもりがないのに受け取った場合はなおのことである

われわれはアルカイックなもの、基本的なものに立ち返ることができるし、またそうしなければならない。そうすれば、多くの社会や階級で今なおよく知られている生活と行動の契機が再び見出されるであろう。つまり、公然と施しをする喜び、趣味良く寛大にお金を使う楽しみ、歓待や公私の祝宴をする楽しみである

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『贈与論』マルセル・モース・著 筑摩書房

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480091998

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◆目次◆

序論 贈与、とりわけ贈り物にお返しをする義務
第一章 交換される贈与と返礼の義務(ポリネシア)
第二章 贈与制度の発展──鷹揚さ、名誉、貨幣
第三章 古代の法と経済におけるこうした原則の残存
第四章 結論
訳者あとがき

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