2011年10月25日

『スティーブ・ジョブズI』ウォルター・アイザックソン・著 Vol.2652

【出た!今年最大の注目本】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062171260

この世の中には、全世界の人間がその評伝を心待ちにしている人物、というのがいます。

強烈なキャラクターで劇的な人生を歩み、前人未到の業績を上げ、しかもその素顔は謎のベールに包まれている…。

おそらく現在、それに該当するのは、ビジネス界では2人。

ウォーレン・バフェットとスティーブ・ジョブズでしょう。

誠に残念なことに、スティーブ・ジョブズは2011年10月5日に急逝しましたが、彼が生前、自分の死を予感して、稀代の伝記作家、ウォルター・アイザックソンに書かせていた幻の原稿があります。(ちなみにアイザックソンは、TIME誌の編集長を経て、2001年にCNNのCEOに就任。『アインシュタイン』や『キッシンジャー』などの伝記でも知られる作家です)

それが、本日ご紹介するスティーブ・ジョブズ唯一の公認本、『スティーブ・ジョブズI』です。

噂によれば、版元の講談社が数億円のアドバンスを払って翻訳権を獲得したという、世界的な話題作。

発売日の本日、さっそく読んでみたので、内容をご紹介します。

本書に書かれているのは、両親に捨てられたところから始まる、ジョブズの生い立ちと、もう一人の天才、アップル共同創業者のスティーブ・ウォズニアックとの出会い、アップルの創業、株式公開、ジョブズ追放、そしてピクサーで『トイ・ストーリー』をヒットさせるまでの物語。

ジョブズにカリスマ性を教えたというロバート・フリードランドと、父親のような存在で、マーケティングを教えたマイク・マークラのエピソードは、カリスマ、スティーブ・ジョブズがじつは後天的に生まれたことを知る、良い手掛かりです。

輝くようなオーラを持っていたロバート・フリードランドの教えや、マイク・マークラがまとめた「アップルのマーケティング哲学」は、ノウハウとしても興味深い内容だと思います。

そして注目は、アップルの優位を覆し、巨万の富を得たビル・ゲイツとの確執や、ジョン・スカリーによるジョブズ追放劇の詳細。

毀誉褒貶の激しかったスティーブ・ジョブズの暴言や周辺の反応が、証言をもとに書かれており、じつに興味深い内容です。

ノンフィクションとしての面白さもノウハウもある、充実した内容ですが、土井が読んで感銘を受けたのは、以下の部分です。

<かつてジョブズは父親から、優れた工芸品は見えないところもすべて美しく仕上がっているものだと教えられた(中略)「アーティストは作品に署名を入れるんだ」そう言うと、ジョブズは製図用紙とシャーピーのペンを取り出し、全員に署名するよう求めた。このサインは、すべてのマッキントッシュの内側に彫り込まれている。
修理の担当者でもなければ絶対に目にするはずがないが、チームメンバーは皆、自分の署名がそこに彫り込まれていると知っている。回路基板ができるかぎりエレガントに作り込まれたと知っているように>

これを読んで、現在のわれわれが勢いを失っているのは、見えないものをないがしろにするようになったからではないか、と思うようになりました。

目立つところばかり、おいしいところばかりでなく、見えない陰の部分も大切にする。そこから創造のエネルギーが湧いてくることを、本書から教えてもらいました。

『スティーブ・ジョブズII』の発売は11月2日だそうですが、こちらも内容が楽しみです。

※参考:『スティーブ・ジョブズII』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062171279

薬物に関する部分をそのまま載せるのは、社会的に見てどうかと思いましたが、大人にとっては、極上のエンターテインメント。

厚さをものともしない面白さです。ぜひ読んでみてください!

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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「ピカソも、『優れた芸術家はまねる、偉大な芸術家は盗む』と言っています。我々は、偉大なアイデアをどん欲に盗んできました」

捨てられた。選ばれた。特別。このような観念はジョブズの血肉となり、自分自身のとらえ方に大きな影響を与えた

「週末ごとにジャンクヤードへ行ったよ。発電機とかキャブレターとか、いろんな部品を探しにね。おやじは交渉上手だった。その部品がいくらするものなのか、売り手よりもよく知っていたからね」

子どもっぽく、人付き合いが苦手なウォズは、父親からもうひとつ、大事なことを教えられた。うそをつくな、だ

「ジョブズの性格を表す有名な言葉に“現実歪曲フィールド”というのがありますが、もともとそれをスティーブに教えたのはロバートなのです(中略)フリードランドには輝くようなオーラがあった。「彼が入ってくると、皆、すぐに気づくのです。リードに来たころのスティーブは真逆でした。それが、ロバートと付き合うようになって、少しずつオーラをまとうようになりました」(「」内はコトケの言葉)

「インドの田舎にいる人々は僕らのように知力で生きているのではなく、直感で生きている。そして彼らの直感は、ダントツで世界一というほどに発達している。直感はとってもパワフルなんだ。僕は、知力よりもパワフルだと思う。この認識は、僕の仕事に大きな影響を与えてきた」

このときウェインは、優れたエンジニアというのは、優れたマーケティング担当者とチームを組まなければ人々の記憶に残る仕事はできない、そのためには設計をパートナーシップへ委託する必要があるのだとウォズを説得した。この議論をすごいと思ったジョブズは、感謝の気持ちを込め、ウェインにパートナーシップの持ち分、10パーセントを提示する

◆アップルのマーケティング哲学
1.共感 2.フォーカス 3.印象

「我々がコンピュータでデスクトップという机などのメタファーを採用しているのは、皆が持っている経験を活用するためです」

「アレクサンダー・グラハム・ベルが電話を発明したとき、市場調査をしたと思うかい?」

ジョブズは、ゲイツの強さを正当に評価しようとしない。「ビルは基本的に想像力が乏しく、なにも発明したことがない。だから、テクノロジーよりもいまの慈善事業のほうが性に合っているんじゃないかと思うんだよね。いつもほかの人のアイデアをずうずうしく横取りしてばかりだから」

「チームが成長するとき、多少ならBクラスのプレイヤーがいてもいいと思ってしまうが、そうするとそいつらがまたBクラスを呼び込み、気づいたらCクラスまでいる状態になってしまう。Aクラスのプレイヤーは同じAクラスとしか仕事をしたがらない、だから、Bクラスを甘やかすわけにはいかない……そう、僕はマッキントッシュの体験から学んだんだ」

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『スティーブ・ジョブズI』ウォルター・アイザックソン・著 講談社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062171260

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◆目次◆

第1章 子ども時代
第2章 おかしなふたり
第3章 ドロップアウト
第4章 アタリとインド
第5章 アップルI
第6章 アップルII
第7章 クリスアンとリサ
第8章 ゼロックスとリサ
第9章 株式公開
第10章 マック誕生
第11章 現実歪曲フィールド
第12章 デザイン
第13章 マックの開発力
第14章 スカリー登場
第15章 発売
第16章 ゲイツとジョブズ
第17章 イカロス
第18章 ネクスト
第19章 ピクサー
第20章 レギュラー・ガイ
第21章 『トイ・ストーリー』

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