2010年9月1日

『世界が大切にするニッポン工場力』 根岸康雄・著 vol.2233

【ニッポンの工場はこんなにスゴイ】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4887598335

本日の一冊は、リーマンショック後も着実に業績を伸ばしている日本のモノづくり企業を取材し、まとめた一冊。

もともとは雑誌「DIME」で2年にわたり連載していたもので、これに加筆・修正・新取材を行いまとめたものだそうです。

登場するのは、この手の本ではお約束の「痛くない注射針」の岡野工業、「iPodの鏡面加工」を手掛けた小林研業、新幹線はじめ鉄道のいたるところに採用されている「緩み止めナット」のハードロック工業など、全12社(詳細は目次をご覧ください)。

サッカーファンには、「競技用ボール」のモルテンなどが、気になるところではないでしょうか。

モノ作り職人を取材した本というと、ついつい職人の思想、名言に目が向きがちですが、本書は「ヒト」に目を向けるとがっかりする本。

反対に、「モノ」に着目した場合、通常のインタビューモノと比べてスペック、作業工程などが詳しく書かれており、参考になる一冊だと思います。

先日紹介した『一流たちの修業時代』で、日本画家の千住博さんが「表現者にとって観察することは何にもまして大切」とおっしゃっていましたが、本書に登場する職人たちもやはり「観察」に重きを置いています。

※参考:『一流たちの修業時代』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4334035744

彼らが課題をどう読み、対象をどう観察し、アイデアを出したのか。

このプロセスを読むだけでも、参考になる一冊だと思います。

ぜひ読んでみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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◆岡野工業

岡野は猛烈な勢いで、次々と頭の中の図面を広げていた。ふと、脳裏にあの1cmほどの鈴が浮き彫りになり、チリンと音を上げた。
「丸めるんだ」
「えっ……」
大谷内はキツネにつままれたような顔をしている。
「板を丸めて針を作るんだよ」

◆ハードロック工業

ボルトとナットの隙間に楔をカチこめば、強い緩み止め効果が得られるではないか(中略)上と下、2個のナットのみを使い、楔の効果を持たせてみてはどうか。そうだ、2個のナットのジョイント部分を凹凸にして、噛ませるんだ

新幹線の車両は100万km走るとメンテナンスをする。ナットに劣化がなくても、そのたびにすべて交換だ。ハードロック工業には、高速道路の防音壁に使われるナットなど、メンテナンスごとにすべて交換という顧客が多い

◆三鷹光器

「奈良の五重塔だって、精密な図面があったわけじゃない。千年も前に建った五重塔をよく見て、当時の職人の工夫を理解して、なるほどなと思うのが職人ってもんだ」よく見て、自分なりに工夫することが大切―、義一が勝重に言って聞かせたことは、今もこの会社を支えるポリシーなのだ

「レンズと焦点、XとYとZの3次元の世界を考えると広がりのある世界ができるね」(中略)何枚もレンズを組み合わせて、常に1点に焦点が合い、なおかつ奥行きある、最大公約数を取った世界が広がる、手術用の顕微鏡が仕上がっていった

◆ミクロン

竹下は回転させた10円玉が止まる寸前、パタパタすることに注目したのだ。空気を送りこみ、あのパタパタを持続させ、ケースの前後左右の壁に当てたら、振動が起きる

振動子自体ではなく、周囲の側面に突起物を付ける。この逆転の発想に八野も竹下も、「あっ……」と思わず声をあげた

◆菊地保寿堂

90年代後半、彼は日本古来の茶釜からヒントを得た新しいポットの構想をあたためていた。それは、茶道を確立した千利休が好んで用いた『よほう』と呼ばれる四角い茶釜だった

さて、四角い鉄瓶ポットをどう作るか。四角の角は直線であって直線でない。言葉にすれば、細かい面の集合体のようなイメージで角のRをかたちづくる。この角のRこそが要で、潤い、雅び、安定、余裕など、お茶を趣深くする雰囲気を醸し出す

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『世界が大切にするニッポン工場力』根岸康雄・著 ディスカヴァー・トゥエンティワン
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4334035744

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◆目次◆

1.岡野工業「痛くない注射針」
2.小林研業「iPodの鏡面加工」
3.ハードロック工業「緩み止めナット」
4.三鷹光器「精密光学機器」
5.ミクロン「キーンと音のしない歯石除去器」
6.菊地保寿堂「伝統技術和銑(わずく)の新作鋳物」
7.モルテン「競技用ボール」
8.日プラ「水族館の巨大アクリルパネル」
9.アビー「味の落ちない冷凍技術」
10.マサキ・エンヴェック「屋上菜園の特殊土壌」
11.ストロベリーコーポレーション「携帯用ヒンジ」
12.テムザック「実用ロボット」

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