2010年8月28日

『ハーバードの「世界を動かす授業」』 リチャード・ヴィートー、仲條亮子著 vol.2229

【いま、一番読んでほしい本】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4198630046

昨日に引き続き、ハーバード・ビジネス・スクールの人気講義本を紹介しますが、ハッキリ言ってこちらの方が10倍面白い。

著者のリチャード・ヴィートー教授は、2009年に同校の優秀教官賞を受賞した人物で、その名物講義が、本書の内容でもあるBGIE(Business, Government and the International Economy)です。

最初は、「何だ、国際政治経済の本か」とたかをくくっていたのですが、読んでみると、その熱い主張と知的刺激に大興奮。

国家、企業、国民が一丸となって戦うとはこういうことか、国家の成長戦略とはこういうことかと、目からうろこが落ちる思いでした。

驚くことに本書は翻訳ではなく、何と日本オリジナル出版。

共著者であり、ブルームバーグ情報テレビジョンの代表取締役社長でもある仲條亮子さんが、ハーバードAMP(上級マネジメントプログラム)に留学した際、もっとも感銘を受けた授業がこのBGIEで、その出版を徳間書店の会長に直談判して成立した一冊ということなのです。

内容のほとんどは、ハーバードが得意とするケーススタディ。

それも、日本、シンガポール、中国、インド、EU、ロシアなどの発展を遂げた戦略の分析なのです。

「そんな情報、いくらでも文献に載っている」という方もいらっしゃるかも知れませんが、本書が優れているのは、国家の戦略がそれこそストーリーで、連続性をもって語られていること。

日本のビジネスマンに最も欠けているのは、政治や戦略に関する教養だと思いますが、それは、醜い政争ばかりを新聞記事で見聞きするから。

本書を読めば、国家というものの役割が経済発展においてどれほど重要か、場当たり的ではない、本当の成長戦略とは何かを考えさせられるに違いありません。

万人が読む本ではないかもしれません。でも、政治の世界であれ、ビジネスの世界であれ、「われこそはリーダー」と自覚する方には、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

最後に、本書でもっとも気に入った箇所を紹介して終わります。

「素晴らしい戦略さえあれば成功するのかといえば、そうではない。戦略に合ったカードを持っているかどうかが大切なのである。つまり、戦うための資源や人材は揃っているか? 今が戦うタイミングなのか? 競合相手との違いを出して強みを活かしているかなど、自らの企業や国の立ち位置を見極めなければいけない」

————————————————————
▼ 本日の赤ペンチェック ▼
————————————————————

日本だけでなく、アジアは比較的貯蓄をする傾向にある。しかし今や、日本は米国よりも貯蓄率が低いという現実には驚かされる

日本が世界市場に供給しうるのは、日本自身のエネルギー、すなわち人力と石炭・水のエネルギーだけである。これをもって、日本は、輸入原料を再輸出品に変えることができる

日本には資源はなかったが、強みがあった。人口の大部分が同じ民族で構成されていたので、たとえば後述するインドのように宗教や人種や文化や言語の異質性に対応することに多くの時間と政治的エネルギーを費やす必要がなかったことだ

さらに非常に優秀な初等教育と中等教育、そしてすばらしい工学技術もあった。実際、1971年のエンジニアの数は日本のほうが米国よりも、1人当たりだけでなく総計でも多かったという驚くべき数字がある

日本は市場戦略として米国市場をターゲットに設定した。そのうえで、市場を切りひらくために限界費用価格を形成した。つまり、市場占有率を獲得するために、価格を限界費用かそれ以下にまで下げた

日本は8つの産業に的を絞った。特定産業に関するさまざまな保護育成策を打ち出し、石油化学、アルミ、工作機械、自動車、電子機器、鉄鋼、造船、航空機産業の振興をはかった

日本は外国人の株式保有を望まなかった。なぜなら国内産業を保護育成するつもりだったからだ(中略)驚くべきことに、国内の株式市場からの資金調達にも興味を示さなかった。日本政府は成長戦略として一定の産業に資金を注入することを優先した。そのためにも、株式市場を活用することによって国内の資本が拡散することを好まなかった。そこで資金調達を銀行の貸出ルートに求めた(中略)一方、株主に対する責任は小さい。これは大きな意味があった。欧米の企業が15?18パーセントの利益を上げなければならないのに対し、日本では数パーセントで充分であった。これがまたコストを下げる強みになった

当時、誰もシンガポールという小さな国がどこにあるのかも知らない中、この官僚たちは熱心に一軒一軒の企業のドアを叩いて母国を売り込んで回った。そしてとうとうナショナル セミコンダクター社を説き伏せて、シンガポール視察に招くことにこぎ着けた

通常、労働者から給与の20?25パーセント、雇い主から20?25パーセントが集金され貯蓄に回された。1985年には合計して給与の約50パーセントという最大値に達した(中略)人々が自分の「蓄え」に手をつけられるのは限られた投資にだけだ。アパートを買ってコンドミニアムに改装するなど住居に関する場合、そして子供を大学に行かせるつもりなら、それは人への投資なので基金から借りることができる

官僚、とくに首相や閣僚に、企業重役の3倍、4倍の給料を支払うことで金銭的理由の汚職をする必要がないようにデザインしてある

「挟まって身動きがとれない」という表現はもともとハーバード・ビジネス・スクールで同僚のマイケル・ポーターが考え出したものだ。彼は最初の著書で、企業には3つの包括的戦略があると提唱した。「ローコスト」―コストリーダーになること、「集中」―自社の事業の特定分野、特定の購買層、あるいは特定の地域市場に集中すること、「差別化」―品質や耐久性の高い独自のブランドで差別化しようとすることだ

今後、日本にとっても、NAFTAのような広域の貿易協定を他国と結ぶことは重要な戦略のひとつとなるであろう

今日の日本の高等教育は開発戦略のニーズに合っていないと私は思う

————————————————

『ハーバードの「世界を動かす授業」』リチャード・ヴィートー、仲條亮子著 徳間書店
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4198630046

————————————————-

◆目次◆

序 世界の動きをいかに読み解くか
第1章 国が発展するための8つの軌道
第2章 アジアの高度成長
第3章 挟まって身動きがとれない国々
第4章 資源に依存する国々
第5章 欧州連合という試み
第6章 巨大債務に悩む富裕国
第7章 国の競争力とは何か
第8章 私たちのミッション
あとがき 世界の真の現状に触れながら学ぶ国際経済

この書評に関連度が高い書評

同じカテゴリーで売れている書籍(Amazon.co.jp)

NEWS

RSS

お知らせはまだありません。

過去のアーカイブ

カレンダー