2010年6月28日

『ストーリーとしての競争戦略』楠木建・著 vol.2168

【戦略に美を感じるとは…】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492532706

本日の一冊は、最近読んだ中でもっとも「美しい」本です。

それがプログラミングの本であれ、マーケティングの本であれ、読み手は、優れた思考に触れると美学を感じるものですが、まさか戦略本に美学を感じるとは。

著者は、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の楠木建さん。

本書では、豊富な事例をもとに、優れた戦略の条件について、約500ページにわたり、論じています。

著者いわく、「優れた戦略とは思わず人に話したくなるような面白いストーリー」。

単なるビジネスモデルと違って、「こうすると、こうなる。そうなれば、これが可能になる……」という時間展開を含んだ因果論理は、企業活動を善循環に導き、競合の模倣を困難にし、さらにチームメンバーをワクワクさせる効果があります。

本書では、スターバックスやアマゾン、セブン-イレブン、マブチモーター、フェラーリ、サウスウエスト航空、アスクルなど、豊富な事例をもとに、このストーリーとしての戦略作りを説明。

なかでも、SP(Strategic Positioning)による差別化とOC(Organizational Capability)による差別化の話、ストーリーの強さ、太さ、長さの話は、SPによって競争優位性を築いたベンチャー企業の今後の展開を考える上で、大いに役立ちます。

厚い本ではありますが、厚い理由は、ケーススタディの豊富さによるものなので、その分バリューがあります。

ぜひ買って読んでみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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戦略の神髄はシンセシス(綜合)にあり、アナリシス(分析)の発想と相いれない

有力選手という要素に依存した競争優位であれば、その選手が他チームに引き抜かれてしまえば失われてしまいます。一方で、ブラジルチームに固有の流れるような攻撃パターンや、イタリアチームのお家芸、「カテナチオ(鍵をかける)」と呼ばれる鉄壁の守備の方法は、チーム全体の攻め方、守り方にかかわる強みです

戦略ストーリーの絵は「こうすると、こうなる。そうなれば、これが可能になる……」という時間展開を含んだ因果論理

武術研究家の甲野善紀さんは、優れた武術家の強さの正体は何かと問われて、「一対一で向きあっていても、実際は一対一の勝負ではなく、身体のあらゆる部分を動員することによって一対一〇〇の勝負に持ち込むこと」だと答えています

会社の「実態価値」が何かといえば、それは要するに持続可能な利益を出す力なのです

企業価値を高めるためにも、経営は「市場を向い」てはいけない

意思決定者と使用者と支払者、この三者が分かれているということが買い手の交渉力を小さくし、製薬業界を儲かりやすくしている

経済学が想定する完全競争になってしまえば利益は出ない。だとすれば、利益を出すためには、経済学でいう完全競争の前提を壊せばいいわけです

他社がそう簡単にまねできない経営資源とは何でしょうか。組織に定着している「ルーティン」だというのが結論です

フェラーリは年間わずか数千台を製造して販売しています。「年間に数千台の需要しかないマーケットに、わざわざわれわれが高いオーバーヘッドを抱えてまで参入する意味はないね。放置しておくにやぶさかでない……」という合理的な判断が他社の側にあるからこそ、フェラーリは無競争を維持できる

強くて太くて長い話が「良いストーリー」

安易なベストプラクティスの導入が戦略ストーリーの基盤となる論理を殺し、その結果として戦略ストーリーの一貫性を破壊しかねない

「誰に嫌われるか」をはっきりさせる、これがコンセプトの構想にとって大切なことの二つ目です

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『ストーリーとしての競争戦略』東洋経済新報社 楠木建・著
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492532706

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◆目次◆

第1章 戦略は「ストーリー」
第2章 競争戦略の基本論理
第3章 静止画から動画へ
第4章 始まりはコンセプト
第5章 「キラーパス」を組み込む
第6章 戦略ストーリーを読解する
第7章 戦略ストーリーの「骨法一〇カ条」

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