2010年2月15日

『伝える本。』山本高史・著 vol.2037

【売れない、でもいい本】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478012822

山本高史さんの本は、いつ見ても売れる気がしない。でもいい本だ。

山本さんといえば、「私はSuicaと暮らしています」「うまさがノドにグッとくる」などの広告コピーで知られる、元電通のクリエイティブ・ディレクター。

そんな人に「売れない」などといっては怒られるかもしれませんが、それほど本書は「深い」内容であり、読み手を選ぶ本だと思います。

本書で書かれているのは、言葉を使って人を動かす秘訣なのですが、それは、決してノウハウではありません。哲学です。

著者がわれわれに伝えようとしたのは、伝えることにまつわる哲学であり、書き手が伝える際に考えなければいけないこと、言葉に魂を宿す考え方です。

土井は最近、技術的には素晴らしいけれども、受け手を無視した、最悪のコピーを見ました。

書き手は、自分が述べていることを受け手が信じ、完全に受け入れてくれるだろうと思っているけれども、言葉が受け手で決まることをわかっていない。

人生経験の浅さゆえに、百戦錬磨の受け手を侮ってしまった、そんなコピーでした。

事実を隠蔽し、美辞麗句を並べ立てても、どんなに自分を正当化しても、わかる人にはわかる。

言葉というのは、そういうものだと思います。

本書には、著者がこれまでの広告人生を経て獲得した、コミュニケーションの本質が書かれています。

「『ちゃんと』や『きちんと』を多用する人物を、あまり信用するべきではない」
「言葉は繰り返される頻度や流通量が増えると、情報性が薄まる傾向がある」
「正しさは、対立概念としての誤や偽に対していつも傷つきやすく、折れやすく、負けやすい」

この方の本には、いつもハッと思わされる言葉が入っているのですが、今回、土井が特に感じたのは、次の言葉でした。

自分の「尺度」では、
受け手の喜びの大きさも、
悲しみの深さも、
測ることはできない。

書き手として大切なことは、謙虚なこと。言葉は結局、受け手に委ねられるのであり、そこに対する覚悟がなければならない。

いつもながら、伝えるということに関して、重要な気づきをいただきました。

人に伝える仕事をしている人は、ぜひ読んでみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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「プロには技術が必要である」というのと、「技術が必要なのはプロ(にだけ)」というのは話が違う

ぼくは「言葉の技術」について書く。自分の意思を言葉で伝え、その言葉を受け取った人を楽しませたり、気分よくしたり、元気づけたり、やる気にさせたり、嫌な思いをさせなかったり、自分に好意を持たせたり、チームが一致団結できたり、不用意に第三者を傷つけなかったり、他人を思いやったりしながら、自分の望む方向へ自分の言葉の受け手を動かすための技術である

言葉の通じないヤツに対して、使える言葉はない

言葉が「伝わる」ためにまず求められるのは、「送り手、受け手の両者が共に言葉を知っている=言葉の意味を共有していること」である

言葉の乱れも、長期的に見れば言葉の活力である

言葉は「約束」だ。約束だから正確にしなければならず、破ると嘘つきと呼ばれる(はず)

彼らには「言葉の約束」は曖昧なほうがいいらしい。(曖昧な約束じゃ、受け手を自分の望む方向に正確に動かすことなんかできないのに)

昔から「ちゃんと」や「きちんと」を多用する人物を、あまり信用するべきではないと思っていた。広告の講義ではこれらの言葉を使わないようにと教えてきたし、自分の仕事においては禁句である

広告では「いちばんの」、「最高の」、「NO.1」のような最上級表現と呼ばれるものを使う場合には、必ずその「NO.1」を名乗るだけの事実を併記しなければならない

炙り寿司が名物の鮨屋のHPに、こんな文章があった。重箱の隅をつつくようで気が引けるが。『…豊富な経験に裏打ちされた匠が創り出す無限の技と旬の味覚…』この文章はこの店の味をむしろ保証しないのだと思う。ただ店主はこれを書いたコピーライターをクビにしたほうがよい

言葉は繰り返される頻度や流通量が増えると、情報性が薄まる傾向がある

正しさは、対立概念としての誤や偽に対していつも傷つきやすく、
折れやすく、負けやすい

受け手は決して送り手に寛容ではない

ぼくは広告という作業を通して、人は自分の聞きたいことしか聞かないことに気がついた

「汚れが落ちる」はベネフィットなのだ。汚れが落ちることに満足している状況ならば、「汚れが落ちる」はベネフィットじゃないのだ

自分の「尺度」では、受け手の喜びの大きさも、悲しみの深さも、測ることはできない

ある言葉の入口を開けたとたん、ある言葉を思い浮かべたとたん、聞いたり見たりしたとたん、脳は関連キーワードを検索するように動きだす。そして脳の中に豊かで多彩なイメージを結び始める。ぼくはその「言葉の奥行き」までが、言葉の意味なのだと思う

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『伝える本。』ダイヤモンド社 山本高史・著
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478012822
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◆目次◆
序 言葉を、もういちど。
第1章 「言葉不全」の時代。
第2章 言葉を疑え。
第3章 「ベネフィット」というキーワード。
第4章 さあ、言葉を伝えよう。

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