2009年8月30日

『海の都の物語』(1?6巻)塩野七生・著 vol.1868

【ギリシャ旅行中、読んで感動した本】
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昨日無事、ギリシア、オーストリア旅行から帰国しました。

今回の旅のパートナーに、土井が選んだ本は、『ローマ人の物語』と並ぶ、塩野七生さんの代表作『海の都の物語』の待望の文庫。

全6巻を抱きしめて行ったのですが、このヴェネツィア共和国の歴史物語と、土井の旅の行程、会社が現在置かれている状況が絶妙にリンクして、じつに充実した読書、じつに充実した旅となりました。

結果から言えば、この本のおかげで、多大なるビジネスヒントと、危機意識を与えられました。

塩野さんの著作の素晴らしさは、歴史という壮大なスケールの話を、英雄たちとその周辺を中心とした物語に変えて、時代を活写してくれる点。

子どもの頃読んだ偉人伝に、ビジネスに欠かせない戦略的視点が加わった、まさに大人のための物語だと思います。

「国づくりとは、その国の民族の性格の反映である」という言葉の通り、自由を重んじる商人的気質のヴェネツィア人が築き上げたのは、「現代の私企業の会社と同じように経営された」(イエール大学ロペツ教授)共和国でした。

しかし、この共和国の経営方法が絶妙だったために、ヴェネツィアは、ライバルであったピサやアマルフィ、ジェノヴァよりも繁栄を続けたのです。

この物語を読むと、現在われわれが直面している中国、インドの台頭、そして国内にはびこる平和主義と個人主義の台頭の本質、そしてそれがはらむ危険性がよくわかります。

また、元首ピエトロ・オルセオロ二世や、第四次十字軍の時に活躍したエンリコ・ダンドロ、改革者ピエトロ・グラデニーゴ、ジェノヴァの財閥総帥ザッカリーア、ジェノヴァを撃退した英雄ベットール・ピサーニとカルロ・ゼン、トルコの猛攻を防ぎ切ったアルバニアの英雄、スカンデルベグなど、その時代の英雄たちの考え方や行動にも、学ぶところの多い作品です。

現在の日本に閉塞感があるとすれば、それは時代に適合できなくなったシステムや論理を引きずったまま、経済活動を続けているから。

本質的な変化をするには、やはり考え方の大転換が必要なのです。

本書を読んで、ヴェネツィア繁栄の秘密、そしてその繁栄をおびやかした列強の戦略を知れば、次なるビジネスのヒントが、きっと見えてくるはずです。

6巻読み切るのは大変と思うかもしれませんが、その面白さは、土井が旅行を忘れて没頭したほど。

ためらわず、全巻買って読んでみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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塩と魚しかなく、土台固めの木材さえ輸入しなければならなかったヴェネツィア人には、自給自足の概念は、はじめからなかったにちがいない。しかし、この自給自足の概念の完全な欠如こそ、ヴェネツィアが海洋国家として大を為すことになる最大の要因であった

進歩に要するすべてのエネルギーは都市からしか生れない、と私は信じている。自給自足の概念を捨てきったところにしか生れない、と言い換えてもよい

商売というものは、武器を商品にする以外は、平和であればあるほど繁盛するもの

ヴェネツィアほど、中小の商人の保護育成に細心の配慮をした国はない。大企業による独占が、結局は国全体の経済の硬化につながり、それを防止するうえで最も効力あるのが、中小企業の健全な活動であることを知っていたのである

ヴェネツィアの銀行が、他国の王様に融資し、その王様が戦いに負けたのでもとが取れなくなって倒産するというような、同時代のフィレンツェで起きたような現象は、ヴェネツィアではまったく起きなかった。それは、ヴェネツィア経済界では、主役は銀行ではなく、あくまでも実業にたずさわる商人であり、銀行は、商人の仕事を合理化し、それがより効率良く営まれるための、側面援助をする役割に徹していたからであろう

「政治を行う者にこそ正義を、民にはパンを」

国力が昇り坂にある時は、個人主義放任も害を及ぼさない。それどころか、良い結果を生むことが多い。しかし、いったん障害に突き当たった場合、国力と個人の能力は、必ずしも正比例しないのである

ジェノヴァ人は、自分の開拓した市場や航路が、同国人であろうと他人に知られ、それによって利益が減るのを怖れて、徹底的に秘密に保とうとしたのである。ために彼らの為した冒険の多くは、誰にも知られず、開拓された航路も、誰にも伝わらずに忘れ去られる

「良識とは、受け身に立たされた側の云々することなのだ。行動の主導権をにぎった側は、常に非良識的に行動するものである」(オスマン・トルコの台頭に直面した当時のヴェネツィア外交官の報告書)

スカンデルべグの「武器」は、トルコ人を熟知していたことと、山がちなアルバニアの地勢であった。この「武器」を活用した彼は、徹底したゲリラ戦法を取る(中略)スカンデルベグは、数千の兵で、十万の敵を一歩も寄せつけなかったのだ

個人の負担を、それも事務的な負担をなるべく少なくすることは、観光事業を成功させる、重要な要因の一つと言ってよい

ギブ・アンド・テイクの関係が好い効果を生むのは、相手が絶対に必要としたものをギブする場合である。ビザンチン帝国がテイクしてくれる無関税という待遇に対してヴェネツィアがギブしたのは、海軍力であった

人間誰しも、失うものがあり、自治への欲求のはけ口さえ与えられれば、いたずらに過激化するものではない(中略)国政からは排除されたヴェネツィアの中産階級も、自分たちの組合の内部では、彼らが主人であった

十七世紀のヴェネツィアは“成熟”を完成し、平和の甘美な果実を味わう心境に達したかもしれないが、他の国々は、成熟に向ってわき目もふらずに邁進中であったのが、ヴェネツィアの不幸であった。勝手に平和宣言をしただけでは平和は達成できないところが、永遠の問題なのである

イエス・キリストは、その短い生涯の中で、いくつか洞察に富んだ言葉を残したが、その中で、最も洞察に富みながら、最も守られることの少なかったのが、次の一句であった。
「皇帝のものは皇帝に、神のものは神に」

だが、遅すぎたのである。金も兵も集めることはできても、それを駆使するに足る数の人間が不足していた。百年の平安は、ヴェネツィア共和国から、そのようなことのできる人間を、知らず知らずのうちに駆逐していたのである

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『海の都の物語』(1?6巻)新潮社 塩野七生・著
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4101181322
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◆目次◆
(1?6巻までのすべて)
第一話 ヴェネツィア誕生
第二話 海へ!
第三話 第四次十字軍
第四話 ヴェニスの商人
第五話 政治の技術
第六話 ライヴァル、ジェノヴァ
第七話 ヴェネツィアの女
第八話 宿敵トルコ
第九話 聖地巡礼パック旅行
第十話 大航海時代の挑戦
第十一話 二大帝国の谷間で
第十二話 地中海最後の砦
第十三話 ヴィヴァルディの世紀
第十四話 ヴェネツィアの死

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