2008年8月21日

『テロの経済学』アラン・B・クルーガー・著

【人を狂気に駆り立てる本当の理由とは?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492313915

本日の一冊は、かつてアメリカ労働省のチーフ・エコノミストを務め、労働経済学や教育の経済分析で実績を持つ、若手の経済学者、アラン・B・クルーガーによるテロに関する論考。

さまざまなデータから、「貧しく教養のない若者がテロリストになる」はウソだった、という衝撃的な事実を導き出した、刺激的な内容ですが、ビジネス的に参考にしたいのは、どんな人間が強い信念を持ち、どんな人間が体制に対して受け身なのか、という点でしょう。

ひたすらデータ分析をし、その結果を考察している極めてまじめな本ですが、派手な言説に扇動されがちな現在において、検証することの大切さ、真の因果関係をつかむことの大切さとそのためのプロセスを教えてくれる、良書だと思います。

また、政策担当者や経営者にとっては、効果的な施策を考える上でどんな視点を持てばいいのかのヒントになりますし、投資家にとっては、テロが株価に与える影響を知る、いい機会になると思います。

トピック的な派手さはありませんが、大ベストセラーとなった『ヤバい経済学 [増補改訂版]』同様、人のインセンティブや物事の因果関係を科学的に考えさせてくれる、興味深い一冊です。

※参考:『ヤバい経済学 [増補改訂版]』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492313788/

本書によって、読者の常識が覆されたとしたら、それはイコールわれわれがいかにメディアに操作されやすいか、を意味しています。

知性とは疑うこと。正しく疑うスキルを身につけるためにも、ぜひ読んでみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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テロリストは貧困層の出身ではなく、十分教育を受けた中産階級または高所得家庭の出身であるという傾向が見いだされる

経済学では、高賃金の職に就きかつよい教育を受けている人のほうが、時間の機会費用が高いため、投票に行かないと考えるが、実際投票に行くのはまさにその時間の機会費用が高い人たちなのである。
なぜだろうか。それは、彼らは選挙結果に影響を及ぼしたいと考えており、また十分よい教育を受けているため自分自身の意見を発言したいと考えているためである

社会で最高の教育を受けている人や高所得の職業に就いている人のほうが、社会的に最も恵まれない人たちよりも過激な意見を持ち、かつ、テロリズムを支持する傾向がある

教育水準の低い人ほど意見を発表しようとはしない

イスラエル人に対する武力攻撃を支持すると回答した失業者は七四パーセントであり、これは八七パーセントが攻撃を支持している商業従事者や専門職と比べると少ない。最も高い支持率(九〇パーセント)を示すのは学生である

テロ・グループは、テロ攻撃を実行するために、さまざまな誘因を持った人たちを代わりに集めることができるのだ。このことは、需要サイドに注目するほうが意味があるということを示している。たとえば、金融面・技術面でテロ組織の能力を低下させたり、平和的な抗議手段を積極的に維持し促進することが考えられる

データの数値が自分たちの立場を支持するものでなかったならば、ブッシュ政権は、その数値をもっと注意深く精査したであろう

調査期間中に起きたテロ攻撃は八八パーセントが実行犯の出身国で起きている

豊かな国ほどテロリズムの目標になりやすい

低所得の国ほど内戦を経験する可能性が高くなる

九月一一日以降のアメリカにおける本当の恐怖は、消費が下落するかもしれないということであり、消費者マインド指数は今にも下落するのではないかと非常に注意深く観察された。しかし何人かの予想に反して、実際には消費は下落しなった

株式の取引量はテロ攻撃の影響を受けていなかった

マクドナルドの店舗がテロリストによって攻撃された当日には、バーガーキング社の市場価値には何の変化もなかった

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『テロの経済学』アラン・B・クルーガー・著
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492313915
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◆目次◆

序 章
第1章 誰がテロリストになるのか
第2章 テロリズムはどこで発生するのか
第3章 テロリズムは何を成し遂げるのか

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