2008年6月4日

『悩む力』姜尚中・著

【姜尚中、初の生き方本】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087204448

本日の一冊は、政治学・政治思想史を専門とし、テレビのコメンテーターとしても知られる姜尚中さんが、初めて書いた生き方本です。

タイトルの由来は、「『悩む力』にこそ、生きる意味への意志が宿っている」という著者の信念。

ですから本書は、読者を悩みから救ってくれる本というよりは、むしろ積極的に悩むことで生きている実感が得られる、という著者の主張を形にしたものです。

ユニークなのは、この「悩む」ことに関連して、文豪・夏目漱石と社会学者・マックス・ウェーバーを紹介している点。

彼らの作品や思想、当時の社会背景から、悩める現代人へのヒントを導き出そうとした、というところが新しいと思います。

著者いわく、「百年前の日本でも『神経衰弱』という名の心の病が社会問題とな」ったそうで、当時を知ることで現代の問題を読み解く、というのはあながち無理なことではないのかもしれません。

著者が問題視しているのは、グローバリゼーションと並ぶ現代の特徴である、「自由」の拡大。

これによりわれわれの自我は肥大化していくわけですが、著者に言わせるとこれが問題で、「自我が肥大化していくほど、自分と他者との折りあいがつかなくなる」。

それによって人間はまた寂しくなってしまう。ここに現代人の問題の本質があるのです。

では、どうすればこの「悩み」を解消できるのか、本書にはその具体的な解決策は示されていません。

ただひとつだけ、本書の中に登場する「相互承認」という言葉がおそらくカギを握っているのでしょう。

悩むことは当然としても、せめてその悩みとの付き合い方くらいは知っておきたいもの。

特に学生さんや社会人3年目までの方におすすめしたい一冊です。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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漱石の趣意は、文明というのは世に言われているようなすばらしい
ものではなく、文明が進むほどに人の孤独感が増し、救われがたく
なっていく――というところにありました

ウェーバーは西洋近代文明の根本原理を「合理化」に置き、それに
よって人間の社会が解体され、個人がむき出しになり、価値観や知
のあり方が分化していく過程を解き明かしました。それは、漱石が
描いている世界と同じく、文明が進むほどに、人間が救いがたく孤
立していくことを示していたのです

私が人生に対して問いかけると言うよりも、人生から私が問いかけ
られている

自我が肥大化していくほど、自分と他者との折りあいがつかなくなる

自分の城だけを作ろうとしても、自分は立てられないのです。その
理由を究極的に言えば、自我というものは他者との関係の中でしか
成立しないからです。すなわち、人とのつながりの中でしか、「私」
というものはありえないのです

「精神のない専門人、心情のない享楽人。この無のものは、人間性
のかつて達したことのない段階にまですでに登りつめた、と自惚れ
るだろう」(ウェーバー)

ウェーバーが予想したのは、言ってみれば「唯脳論的世界」です。
放縦で、人間中心で、脈絡のない情報が洪水のように満ちた世界。
それは、自然の営みとは無関係に、自分勝手な人間の脳が恣意的に
作り出す世界です

人は何を知るべきなのか、という問題は、どんな社会が望ましいか
ということともつながっています

青春とは、無垢なまでにものごとの意味を問うこと

氷の上を滑るようにものごとの表面を滑っていたら、結局、豊かな
ものは何も得られないと思います。青春は挫折があるからいいのだ
し、失敗があるからいいのです

人生とは、自分がどうすべきなのか選択せざるをえない瞬間の蓄積
であり、それを乗り越えていくためには、何かを信じて答えを見つ
けなければなりません

相互承認の中でしか、人は生きられません。相互承認によってしか、
自我はありえないのです

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『悩む力』姜尚中・著
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087204448
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◆目次◆

序 章 「いまを生きる」悩み
第一章 「私」とは何者か
第二章 世の中すべて「金」なのか
第三章 「知ってるつもり」じゃないか
第四章 「青春」は美しいか
第五章 「信じる者」は救われるか
第六章 何のために「働く」のか
第七章 「変わらぬ愛」はあるか
第八章 なぜ死んではいけないか
終 章 老いて「最強」たれ

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