2008年4月23日

『案本』山本高史・著

【表現とは、人を愛し、理解すること】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4844325442

いきなりですが、本日ご紹介する本は、すごい本です。

メディアやファッション、モノ作りなど、ジャンルに関わりなく、およそクリエイティブな仕事に携わる方なら、すべての方が知的刺激を受けられる、そんな一冊です。

まずこの本、何がすごいかと言うと、原理原則的な話は必要最小限しかないということ。

著者があとがきで「プレーヤーは理論を語らないほうがいい」と書いているように、本書のウリは原理原則ではなく、気鋭のクリエイティブ・ディレクターが、これまでのキャリアで紡ぎだしてきた言葉と、それが生まれるまでの道程にあります。

たとえば、「酒を飲めない人間に、酒の広告はつくれるか?」という命題。

これは、仕事をしていれば誰もがぶつかる問題ですが、著者はこれに「脳内アングル」と「脳内ツリー」というツールを導入し、さまざまな人の立場になって主観的な言葉を紡ぎ出す方法を教えてくれます。

そして、何よりも参考になるのは、発想の「水がめ」=「経験データベース」を豊かにするための方法。

土井も日々、著者を指導していて、経験を言語化することの難しさ、それを経験していない人に伝えることの難しさを感じていますが、これらの問題は、この「経験データベース」の考え方ですべてクリアできます。

本書には、われわれがどんな経験を積み重ねていけば、豊かな思考を養うことができるのか、豊かな表現を身につけることができるのか、そのヒントが書かれています。

そして、読めば読むほど、表現とは、人を愛し、理解することなのだと思い知らされるのです。

レトルトのソースのコピーを書いたときのことを反省し、著者はこんな文章を書いています。

「真ん中しか見えていなかった。真ん中しか知らなかった。それ以外のものが存在するなんて、知らなかった。だから書かれたコピーには、主婦の苦労も、母親の愛情も、妻の配慮も、家族の絆も、生活の醍醐味も、なかった。ぼくの想像力の乏しさのせいで、商品にも迷惑をかけている」

本書を読んで、クリエイティブな仕事をすることの重みと素晴らしさを同時に感じました。

本当に素晴らしい本だと思いますので、ぜひみなさん読んでみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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他に類のないものが、他と同じように理解されるのか?

受け手にとっては、まずベネフィットの質と量。ユニークであるか
どうかなんて、その後

受け手に選ばれなかったという結論が出た瞬間に、もう受け手との
「コミュニケーションは終わっている」

ゴッホは偉大な画家だが、偉大さゆえに評価されたのではない。評
価されたという歴史的事実ゆえに、偉大な画家という名誉を獲得し
ているのだ

歴史という学問の弱点は、「価値を選ぶ」ことを学ぶのではなく、
「選ばれた価値」を学ぶこと

あらゆる人や物事や事実は、他の無数の人や物事や事実と、結びつ
きながら存在している。真ん中になにを置くかを決めるのは、考え
る作業上とても重要なこと。でも、真ん中だけ見ていても、見続け
ていても、豊かなイメージはつくれない

結局、1985年に書けたのは、「いつもと同じお肉なのに、いつ
もと違うおいしさ」だった。ど真ん中のベネフィットだ。間違えて
はいない。しかし、真ん中しか見えていなかった。真ん中しか知ら
なかった。それ以外のものが存在するなんて、知らなかった。だか
ら書かれたコピーには、主婦の苦労も、母親の愛情も、妻の配慮も、
家族の絆も、生活の醍醐味も、なかった。ぼくの想像力の乏しさの
せいで、商品にも迷惑をかけている

コピーライターは、受け手が知っているかどうかということも知ら
なければならない

「ピザを食べた」も「経験」であるが、その経験をきっかけにどう
思ったか、感じたかということも、ひとつの「経験」である

若い頃、「人生には遊びや、のりしろがあったほうがいいぞ」と、
言われ続けてきた。当時は、よくあるアナログ人生観としてしか理
解できなかったが、いまはまさしくその教えは、データベースの肥
沃さのことだと理解できる

よいコピーは、受け手に疑似経験をさせる。そして、こんなことな
ら買わなきゃと、売り場に走らせる

自分の尺度の妥当性を高めることは、提案の妥当性を高めてくれる

このように「卵」×「アングル」とするだけで、自分があらかじめ
持ってはいなかった主観の気持ちが、ひょっこり顔を出してくる

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『案本』山本高史・著

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4844325442
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◆目次◆

第1章 選ばれないアイディアは、ないのと同じ
第2章 経験資本主義(なにをするにも経験が資本)
第3章 実経験と疑似経験(リアルとヴァーチャル)
第4章 脳内アングルから見つめてみると
第5章 脳内ツリーから、ユニークな提案へ
あとがき

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