2006年8月20日

『大地の咆哮』

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4569652344

本日の一冊は、現在、マスコミの話題が集中している日中問題に、
元上海総領事が真正面から切り込んだ注目の論考です。

靖国問題がクローズアップされるタイミングで出たということもあ
り、現在飛ぶように売れているようです(P社・M氏談)。

外務省入省以来、33年のキャリア。語学研修時代を含め、計14年近
くを中国で勤務してきたという著者が、末期がんの病床で書き上げ
たもので、内容は、現役外交官では立場上、決して書けない事実を
含んでいます。

著者の語学研修時代の中国でのエピソードや、担当者だからこそ知
り得た歴史の舞台裏、日本外交の知られざる努力まで、じつに詳細
に書かれています。

なかでも、著者が実際にかかわった有力政治家との丁々発止のやり
取りは、読んでいてじつにスリリングです。

さらに、都市・農村間の貧富の差の拡大や教育の問題、水問題など、
中国が抱える潜在的なリスクについても、じつに詳しく書かれていま
す。

日中問題に関心のある方、中国への直接・間接投資に興味のある方
は、ぜひ読んでおきたい一冊です。

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■ 本日の赤ペンチェック
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中国認識で大切なことは、各種データによって観念的に中国を観る
ことではなく、できるだけ机上の理論を排した現実に即して、中国
を理解することだと考える。なかでも、中国共産党が支配する「中
華人民共和国中国」の現体制と「中国人一般」を同一視しないこと

彼らが恥ずかしいと思っているものにわれわれが関心を示すと、と
たんにそれは非友好的な態度であるとの評価を受け、いったん非友
好分子であるとのレッテルを貼られてしまうと、全人格的な否定に
あってしまう

当時の中曽根康弘首相と胡耀邦国家主席の両者がきわめて友好的な
関係であったことは周知の通りだ。しかし、85年に中曽根首相が靖
国神社を公式参拝すると表明、胡耀邦としては完全に裏切られた格
好となった。それで胡耀邦は中国共産党上層部から「あんな甘いこ
とをやっているからだ」と攻撃の矢面に立たされることになった

(天安門)事件後開催されたパリのアルシュ・サミットで、四面楚
歌に陥った中国を逆に擁護する立場をとったのは日本だった。中国
を孤立化させてはならないと各国首脳に対して主張、経済協力、と
くに円借款を最初に復活したのが当時の海部俊樹首相であった。国
際的に孤立する中国の最大の弁護者として、懸命の努力を重ねた日
本の姿をごく一部の中国人しか知らないことは非常に残念である

中国は義務教育制度といいながら、国家の負担分は三割で、七割が
地方負担になっているが、財政難により、結局、個人負担を強いら
れているのが現状である。前述した寄宿舎の食料費などが個人負担
であるのは当然だが、実際には子供たちは義務教育の教科書代を払
い、最近では、試験の紙代まで徴収されるというひどい話も増えている

中国の使用可能な水資源保有量は二兆八千億立方メートルで世界第
四位なのだが、人口一人当たりの水資源量は二千三百立方メートル、
世界の一人当たり平均量の四分の一しかなく、世界の「貧水国」の
一つに数えられている

都市住民と農民の違い、城鎮戸口と農村戸口の違いは、天と地ほど
の開きがある。都市住民であれば受けられる行政サービスが、農民
は一切受けられない

インターネットやその他のIT革命により、いったん情報が流れれ
ば、それが正しいものであれ、そうでないものであれ、一瞬にして
千里を走る。こういう時代にわれわれはそれぞれのナショナリズム
を抱えながら、お互いにつきあっていかざるを得ない。それには何
よりも相手に対する尊敬の念と同情の念を抱いている必要があるの
ではなかろうか

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『大地の咆哮』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4569652344
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■目次■

中国との出会い
安全保障への目覚め(中国課時代)
対中経済協力開始
日中友好の最高峰(第一回目の在中国大使館勤務)
ココムと対中技術規制(ココム日本政府代表時代)
台湾人の悲哀(台湾勤務時代)
対中ODAに物申す(二度目の在中国大使館勤務)
対中進出企業支援(上海総領事時代)
深刻な水不足問題
搾取される農民
反日運動の背景
靖国神社参拝問題
中国経済の構造上の問題
転換期の軍事政策
嗚呼、在上海総領事館
中国の農村にCNNを(中国共産党と宗教)
日中を隔てる五つの誤解と対処法
日本と中国:「過去」をめぐる摩擦七つのポイント

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