2005年8月30日

『相馬愛蔵・黒光著作集2 一商人として 夫婦教育』

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4876633150

本日の一冊は、新宿中村屋の創設者(厳密には引き継いだ)、相馬愛蔵の著作のなかでも、当時もっとも売れた『一商人として』を収めた著作集です。

『一商人として』は、高級学術書の出版をモットーとする岩波書店にしては異例の書ということで、当時大いに話題になったようです。

解説者によると、これは「岩波茂雄が同郷の先輩である愛蔵を畏敬し、また共に高等教育を受けた者が一商人として出発したことに、多くの教訓を得、また共感するところが多かったから」ということですが、本書を読んでいて、確かにその人がらには、畏敬の念を感じざるを得ません。

愛蔵・黒光夫婦の従業員に対する愛情、商人としての心構え、そして社会に対するスタンス…。

本自体は、中村屋の創業からのさまざまな出来事を追ったものですが、随所に見え隠れする人生哲学、経営理念には心打たれます。

得意客であった内村鑑三とのやり取りや、夫妻がかくまった、インド独立の功労者、R・B・ボースとのやり取りなど、読み物としても楽しめる一冊です。

おそらく普通の書店には置いていないと思いますが、とてもいい本です。商売・経営にたずさわる方はぜひ読んでみてください。
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■ 本日の赤ペンチェック
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一つの商店は一家である。店主は店員の親であって、店員たちは店主の子であるとともに、古参新参のへだてなく、みな仲の好い兄弟でなくてはならない。兄弟は喜びも悲しみも共にすべきであって、そのうちの一人が優れていたからといって、親はそこに差別待遇をしてはならぬ

運動会の一日の売上げが平日の幾倍に当り、どれほどの儲けがあるのか知らぬが、そのために一日店を閉め切り、当てにしてわざわざ出向いて来て下さる常得意のお客に無駄足をさせる。こんな仕方をすれば多年どれほど売り込んだ老舗であっても、得意の同情を失って破滅に至るは当然

私は今日の広告を見て行ったから三割引で買物が出来たが、前日松屋で買物をした客はどんな気持がするだろう、同じ品を今日の客より三割高く買わされたという感じをしないものだろうか

狩野では出来ないことが浅野では出来たのである。これを見ても適材を適所におくということがいかに大切であるか、人間に向き不向きのあるのも免れ難いこととして、人を用いる場合にはよくよく注意せねばならぬことである

良い品のその「良い」ことを落さぬためには、常に製品を内輪に見積もって、どんなことがあっても翌日にまわるような売れ残りを拵えてはならない。すなわちここが大切の思い切りどころ

何品でも中村屋の製品はなるべく一つの分野に止め、他店の領分を侵さぬ方針なのである

縄のれんの一杯茶屋の繁昌はどこまでも縄のれんの格においてのみ保たれるのであって、長年労働者を得意として発展した店が、財力豊かになって来たからとて、急に上流向きの立派な店構えに改築して、それで得意を失わずに済むものではなく、またにわかにかわって上流の客が来るものでもない

他人の領域を侵さぬことはもとより、平常自己の人格の向上を念願すると同様に、店そのものの本質的向上を計り、人格を磨くが如く店格を磨き、店の個性を樹立することに精進努力せねばならない
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『相馬愛蔵・黒光著作集2 一商人として 夫婦教育』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4876633150
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■目次■
本郷における創業時代
新宿中村屋として
若き人々へ
別記
主婦の言葉
夫婦教育
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