2004年9月22日

『「売れるブランド」のつくり方』

http://tinyurl.com/3pafn

本日の一冊は、ちょっと前までたくさん本が出され、盛り上がっていた「ブランド」に関する書籍です。

この一時期のブランドブームは、vol.63【口コミ新理論】でお話した「口コミ」ブーム同様、すぐにしぼんでいきました。理由は簡単。ほとんどの企業が、多額の費用を投下した割に、効果が出なかったからです。

ブランド論の書籍で紹介される事例は、ブランドブームの前も後も、すでに成功しているルイ・ヴィトンやウォルト・ディズニーのことばかり。つまり、ブームの後に、成果としての新事例は出なかったということなのです。

土井は、この失敗の理由は、主に3つあると見ています。

まず一つは、ドゥ・ハウスの稲垣さんが、著書『実学入門 なぜ売れないのか 』でおっしゃっていたように、ほとんどの客は、ブランドではなく、店頭で何を買うか決めている、という事実です。つまり、マーケティングの一要素であるブランドは、他のマーケティング要素と比べて、必ずしも優位に立っているわけではない、という事実です。

参考:『実学入門 なぜ売れないのか』
http://tinyurl.com/5exst

もう一つは、ブランディングそのものには効果があるけれども、それを実行する広告代理店が無能、もしくはやる気がなかった、という可能性です。

そして最後の一つは、これまでのブランド論が、例の「口コミ論」同様、本質に触れていなかったという可能性です。先日ご紹介した『おしゃべりで世界が変わる』で言われていたように、「口コミを利用しようとしてもヒット商品は生まれませんが、皮肉なことにヒット商品のすべては口コミによってのみ生まれます」的なことが、ブランドにも起こっている可能性があるのではないか、ということです。

参考:『おしゃべりで世界が変わる』
http://tinyurl.com/5vdq9

以上、長々と述べてきましたが、ブランド本ブームが終焉した今、あえて出版されたブランド本。どんな内容なのか、さっそく要点を見てみましょう。
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 本日の赤ペンチェック
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先入観をいかに排除し、クリエイティビティを持てるか。これが、これからのブランディング、マーケティングには必要

企業においても「人格」が大切になってきているのが今の時代。だとすると、その「企業という人格」がどんなエモーションをもって顧客に接しているのか、接するべきかを、もっと考えていいのでは

「知ってもらい」「好きになってもらい」、その上で「買ってもらう」まで含めて、初めて現代のブランディングと言える

BrandScape(ブランドスケープ)
=「ブランド」+「ランドスケープ(景色)」つまり、「そのブランドに触れることによって、心の中にどんな景色が生まれるのか」
※強いブランドは、その名前を聞いたとたん、あるいはそのシンボルマークを見たとたんに、ある種の風景を思い浮かべさせます

キーワードは「夢」と「スタイル」
・強い目的意識(=「夢」)を持っている企業はブランドになる可能性を持っている
・強いブランドは永きにわたって固有の「スタイル」を貫いている

企業が生活者、株主、社会、そして実際にその会社で働く社員に対して何を「約束」できるか、が大変重要(=ブランドプロミス)(中略)「言っていること」と「やっていること」が一致すること

優しさを追求する企業と、時代の先端を切り開いていく企業とでは、名刺に使われるカラーも、紙質も、異なってくるはずです。それらによって創造される「イメージ」は、「見栄えがいいこと」をゴールとするのではなく、「ブランドの本質をより魅力的にデザインすること」であるべきだからです

なんのためのブランディングなのか
・論理的道筋を辿って他社のブランディングのまねをしていけば、自社もブランドになれるという勘違い
・「他社はこうやっている」ことを本で学び、異業種交流会で他人がどうやっているかを聞きかじり、そのやり方をなぞっただけでは、ブランドは生まれません。残念ながら。そこに、あなたの会社だけの、あなたの会社の商品だけのSomethingがなければ、人は魅力を感じてくれないのです

ある商品の「優れた点」は、大きく分けて二つある
・競合商品と比べた時の「機能的優位性」
・「消費者がその商品の中に見出す優位性」

マーケティングの仕事の基本は、まず担当する商品の特長を理解し、それが消費者の目にどう映るか、どうコミュニケーションすれば最も魅力的に見えるかを、リサーチベースで探っていくことです。いわば入念な調査と深い洞察により解を見出す探偵のような仕事です。特に重要なのは、「コンシューマーインサイト」と呼ばれるキーを探し出すこと

あるブランドとパーソナルな「物語」を持つことは、そのブランドとの結びつきをより特別なものにしてくれるはずです。その「物語」作りの時に、広告代理店が持っている資質の一つである「消費者行動とメディア特性の関係性」についての知識と経験が役立つのです

ブランドを創るのには、何かと前任者の業績を否定したがる新しいマーケティングマネージャーの着任や、”飽き”が最大の敵だ
(デビッド・オグルビーの言葉)

ブランドプロミス創造に向けた、三つのアプローチ
・ブランドの意思の確認
・生活者から見たブランドの実態
・市場環境

インタビューの席は、単に意見を伺うだけの場ではなく、ブランディングとは何なのか、そしてブランディングを成功させるためにはいかに社員の皆さんの主体的な協力が不可欠なのか、という話をさせていただく絶好のチャンスでもある

「着たい服」と「似合う服」は違う―自己認識と現実とのギャップを埋めるステップがとても大切

ブランドを創り上げていくための根本原則は、「『良さ』を『強み』に変えていく」こと

Core Valueを見つけるためには、
・先入観を捨てる
・客観的判断材料を手元に置く
・比較の対象を明確化するため、自らのドメイン(事業領域)をはっきりさせる
・自らに自信を持つ

「良さ」を「強み」に変えていくためには、
・Core Valueを、自らを高めるものとして全社員が認識する
・Core Valueを育てるための「企業風土」を明確にする
・その強みを顧客に強く印象づけるための「行動指針」を設定する

どんな人たちに好きになってもらいたいか、を明確に意識してコミュニケーションしていくことによって、ブランドは強くなれます
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若干、宣伝色が強いのが気になりますが、中身的には、従来の考え方に著者の主張を補足し、一歩実践に近づけた、という点で価値があると思います。

私も仕事を通じて感じていることですが、売るためには、「思い込み」は最大の敵です。本書には、この敵を排除するための考え方が示されていると言っていいと思います。

というわけで、本日の一冊は、

『「売れるブランド」のつくり方』
http://tinyurl.com/3pafn

です。コンパクトですっきりした装丁ですが、中身はなかなか読み応えがあります。ブランド論に辟易していた人も、久々に読んでみてはいかがでしょうか。

目次

Preface

CHAPTER1 ブランディングってなんだ?
1「ブランド」と「ブランディング」ってなんだ?
2BrandScapeでブランドの本質を探す
3ブランディングを始める前に
4「ブランディング」が目指すもの
5これはうまい! ブランディングの成功事例
それぞれのBrandScape(1)

CHAPTER2 ADKブランドデザインルームの仕事
1ブランディングエージェントを使うメリットって?
2ADK 13Fの仕事
3広告代理店がブランディングをするということ
それぞれのBrandScape(2)

CHAPTER3 ブランディングの実際
1ブランディングは「発見」と「驚き」と「決断」の旅
2はじめは「聞く」「聞く」、そして「聴く」
3「着たい服」と「似合う服」は違うもの
4ブランドの魂を探しましょう
5さて、どんな服を着せましょうか?
それぞれのBrandScape(3)

CHAPTER4 「ブランドデザイナー」を目指したいあなたに
1「聴く」チカラを身につけよう
2「深く解釈する」チカラ
3アイディアのヒント
4プロジェクトワークとプレゼンテーション
5ADKブランドデザインルームの人々
それぞれのBrandScape(4)

Commencement
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